業務で多様なクラウドサービスを使い分けながら仕事を進めることが当たり前となった今、従業員の業務を支える無線LANの整備が急務だ。
無線LAN機器の脆弱(ぜいじゃく)性を悪用して不正なWebサイトへ誘導するなど、無線LAN設備を狙ったサイバー攻撃が横行している。2024年には「CVE-2023-52424」として識別され、ほとんどのWi-Fi機器に影響を与える脆弱性が発見され問題となった。
オフィス回帰の流れがある中で、企業の無線LAN運用やセキュリティ課題などを明らかにするために、キーマンズネットはアンケートを実施した(実施期間:2024年12月16日〜27日、回答件数:258件)。前編となる本稿では利用している無線LAN規格やアクセスポイントの運用方法、実際に読者企業が経験したトラブルを紹介する。
オフィスで無線LANを利用しているとした回答者に対して勤務先で利用している通信規格を尋ねたところ、次のような並びとなった。
上位に挙がったのは「IEEE 802.11ac(Wi-Fi5)」(46.8%)、「IEEE 802.11ax(Wi-Fi6)」(33.3%)、「IEEE 802.11n(Wi-Fi4)」(24.6%)だ。各割合の詳細は図1にまとめた。
国内では2022年9月の「電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和4年総務省令第59号)」により6GHz帯無線LANが利用できるようになったが、 対応する「IEEE 802.11ax(Wi-Fi6E)」(14.5%)や「IEEE 802.11be(Wi-Fi7)」(8.1%)の割合はまだそこまで高くないのが現状だ。
図2は、企業が採用する通信規格の変化を見るために、過去4年分の調査結果をまとめたものだ。
2000年代は「IEEE 802.11g」や「IEEE 802.11n(Wi-Fi4)」が主流だったが、2010年代は2013年に標準化され最大通信速度が大幅に向上した「IEEE 802.11ac(Wi-Fi 5)」への移行が進んだ。その後、5GHz帯しか利用できなかったWi-Fi 5の課題に対応するために2.4GHz帯と5GHz帯の双方を利用できる「IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)」や、6GHz帯が追加された「IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6E)」「IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)」が2019年、2023年に登場した。今回の調査でWi-Fi6Eが上位に上がり始めたことから、次回の調査ではさらにこの並びが変動するだろう。
次に、勤務先で運用しているアクセスポイントの数を聞いたところ、「51台以上」が32.3%、「〜10台」が27.8%、「11〜20台」が11.3%となった。従業員規模別でみると、従業員数が501人を超えた辺りから「51台以上」の回答割合が上昇した(図2-1)。
アクセスポイントの管理形態を尋ねた設問では「オンプレミス型」(64.5%)が半数を超え、「クラウド型」(26.6%)が約3割だ(図4)。2020年3月に実施した調査結果と比較すると「オンプレミス型」が16.6ポイント減少し、「クラウド型」が16.1ポイント増加した。
アクセスポイントをオンプレミスで管理する理由として、「アクセスポイントの運用、管理などを内製化し、トラブル対応を迅速化するため」「費用と障害発生時の対応方法において社内管理の方がリスクが低いと判断したため」「運用台数が少ないためオンプレミスの方が適していると判断した」などのコメントが挙がった。
また「初期導入が早いため選択肢がオンプレミスしかなかった」「クラウド型を採用したいが社内のセキュリティ構築が複雑になるのを避けたかった」などの声もあり、クラウド型のメリットを感じながらもや無得ない事情でオンプレミスを余儀なくされている企業もあるようだ。
一方「クラウド型」を選んだ回答者からは、「本社から離れた拠点の設定変更を遠隔でしたいため」「一点集中管理でアクセスポイント運用を効率化したい」「コントローラーなどハードウェアの運用管理をできるだけ避けたいため」「フルテレワークで管理者が社内に不在のため」などが挙がった。物理的なコントローラーが不要でインターネットを介して遠隔地の無線LAN環境を管理できることから、拠点数の多い大企業を中心にクラウド型が採用される傾向にある。
最後に、無線LANに関するトラブルの発生頻度について聞いたところ「ほとんど発生しない」(57.6%)、「時々発生する」(26.3%)、「発生したことはない」(12.3%)、「頻繁に発生する」(4.1%)となった(図5)。
「時々発生する」「頻繁に発生する」とした回答者に対してトラブル内容を聞いたところ「ネットワーク回線の輻輳(ふくそう)」(40.5%)、「障害物による電波干渉」(37.8%)、「アクセスポイントにおける接続可能数の上限オーバー」(37.8%)が上位に挙がった(図6)。
オンライン会議やクラウドサービスの利用が急増したことで、従業員1人当たりのデータ通信量が増加傾向にあり、ネットワーク回線の処理上限を超えた輻輳(ふくそう)の発生リスクも高まっている。また、電波干渉やアクセスポイントの接続オーバーによるパフォーマンスの低下も問題になっている。無線LANサーベイサービスなどを利用して現状把握をした上で、高機能無線LAN機器や大容量回線の導入を検討したい。
前編では無線LANの導入状況や採用している通信規格、アクセスポイントの管理状況などの現状を取り上げた。後編では、無線LAN導入企業におけるセキュリティ対策状況や満足度、無線LAN環境の刷新予定やベンダーへの要望などの調査結果を紹介する。
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