ERP導入を検討する際、多くの企業で「SAP S/4HANA」が候補と挙がるだろう。ただ、ユーザーが求める機能と拡張性を備えた製品は他にも存在するかもしれない。本記事は調査企業が高く評価した製品との比較を実施した。
企業のCIO(最高情報責任者)がERP導入を検討する際、第一の候補となるのが「SAP S/4HANA」かもしれない。しかし、「Oracle Fusion Cloud Applications」「Microsoft Dynamics 365」を筆頭に、市場の主要な選択肢の全てを検討すべきだ。
選択したERPが自社のビジネス戦略に合致したものかどうかを確認し、新しいシステムが組織にどのように貢献するか、明確な目標を設定した上で確認する必要がある。また、ベンダーが提供するAI機能と将来のロードマップも考慮する必要がある。
本記事では、S/4HANAの代替案となる主要な製品と、専門性の高いニーズに特化したソリューション、中堅・中小企業向けの選択肢を紹介する。ここから紹介するERPベンダーは、調査企業であるGartnerやG2などによって高く評価されている。本記事はそれぞれの公式サイトを参照し、筆者自身の経験も踏まえた上で各ベンダーを評価し、リストを作成した。ベンダーはアルファベット順に紹介する。
Microsoft Dynamics 365は、「Finance and Operations」と「Business Central」という2つのサブプロダクトで構成されている。S/4HANAを検討している企業の多くは、Microsoft Dynamics 365のFinance and Operationsのコンポーネントも検討しているだろう。一方、Business Centralは、中堅・中小企業向けの製品としてNetSuiteのSaaSの競合として展開されている。
Microsoft Dynamics 365はS/4HANAよりも柔軟性の高いERPだ。Microsoft Dynamics 365はオープンアーキテクチャで構築されているため、多くの製品と統合できる。オープンアーキテクチャで構築されているということは、多くのソフトウェア開発者がMicrosoft Dynamics 365を扱えるということだ。一方、S/4HANAを扱うには専門的なスキルが求められ、それを持つ開発者は限られる可能性がある。
さらに、Microsoft Dynamics 365の方が導入が比較的容易だ。Microsoft Dynamics 365は高い柔軟性を備えており、導入コストの面でS/4HANAよりも安価になる可能性がある。
総合的に見ると、Microsoft Microsoft Dynamics 365はS/4HANAよりも機能面で優れており、統合しやすい。しかし、業務の標準化や生産のスケールアップ、企業全体での一貫性の確立を目指す場合、Microsoft Dynamics 365はS/4HANAほどの標準化を提供できない可能性がある。
Microsoft Dynamics 365は、特に中堅・中小企業にとって、S/4HANAの有望な代替案となるだろう。
ITリーダーがS/4HANAと並んで最もよく検討するシステムの一つがOracle Fusion Cloud Applicationsだ。これは「Oracle Cloud ERP」や「Human Capital Management」などを含む製品群の名称だ。Oracle Fusion Cloud Applicationsは拡張性に優れ、多機能を搭載した製品群であり、幅広い業務プロセスを管理できる。
Oracle Fusion Cloud ApplicationsとS/4HANAには重要な違いが2つある。1つは柔軟性で、もう1つは業績管理やビジネス向けの分析機能だ。Microsoft Dynamics 365と同様に、Oracle Fusion Cloud ApplicationsはS/4HANAよりも柔軟性が高いと考えられている。これは、S/4HANAの方が設定や拡張が難しいためだ。
また、Oracle Fusion Cloud Applicationsは、より強力なレポート機能とビジネスインテリジェンス機能を備えている。Oracleは、レポーティングの領域で業界標準とされる製品を戦略的に買収しており、その代表例が現在「Oracle Enterprise Performance Management」の製品群の一部となっている「Oracle Hyperion」だ。
S/4HANAは独自の埋め込み型分析機能を搭載しており、Oracle Hyperionとの統合も可能なため、Oracleとの機能の差を埋めることはできる。しかし、企業が高度な定量分析機能を求める場合、SAPよりもOracleの方が適しているだろう。
全体的な機能およびエコシステム、システムインテグレーターの質、市場での競争力を支えるリソースといった面から、両製品はほぼ同じ競争力を持っている。
総合的に見て、Oracle Fusion Cloud ApplicationsはS/4HANAの有力な比較対象となる。
S/4HANAの代替案として検討する価値があるOracleのもう一つの製品が、「Oracle NetSuite」だ。中堅・中小企業がS/4HANAを選択する傾向があるのは、SAPのブランド力を評価したり、同製品は自社の将来の成長を支えてくれると考えたりするためだ。
しかし、中堅・中小企業がS/4HANAのような複雑なシステムを導入する際には困難な場合がある。そのような場合にはNetSuiteが適切な代替案となる。
S/4HANAと同様に、NetSuiteは業務プロセスやワークフローが標準化されていることで知られている。一方、柔軟性に欠ける面もある。しかし、業務の標準化を通じて成長を目指す企業にとっては、この統制がプラスに働く場合もあるだろう。
QAD Adaptive ERPは、S/4HANAの代替案となる他の製品のような認知度はないが、長い実績を持つERPだ。
QAD Adaptive ERPは幅広い機能を備えており、特に製造業に適したソリューションだ。2023年には、労働力管理ソフトウェア「Redzone」を買収し、機能がさらに強化された。
QAD Adaptive ERPは拡張性に優れ、企業の成長に対応できる他、業務プロセスの標準化にも役立つ。また、QADは広範で確立されたベンダーネットワークを持ち、SAPよりも長くクラウド製品を開発してきた実績がある。そのため、長い時間をかけてERPの主要機能を構築しており、研究開発への投資も進んでいる。
QADはローコード開発を採用しているため、ユーザーはマイナーアップデートの際にERPのプログラムコードを変更する必要がない。ローコードアプローチは、最大限の柔軟性を求める組織にとって特に有益なものとなるだろう。
S/4HANAの潜在的な顧客は、業界固有の製品も検討する必要がある。これらのプレーヤーはS/4HANAと競合でき、スケーラブルで競争力のあるERPを提供している。
専門ベンダーには、複数の業界にわたる製造業に特化した「Epicor」、製造および流通管理に特化した製品を備えた中小企業向けクラウドベースのERPを提供するAcumatica、バッチおよびプロセス製造をターゲットとする「Deacom」などがある。
また、建設業界や、フィールドサービス機能とモバイルワークフォース管理を必要とする組織にはIFSのERPが適している。プロジェクトベースの製造ニーズを持つ企業にはInforが向いている。
焦点が狭く、多様化や複雑化のニーズがない企業は、第2層および第3層のERPベンダーとその製品を評価する価値がある。上記の製品は、1つの取引に焦点を当てた完全なERPだが、ターゲット製品は主に1つの主要なビジネス機能に集中している。例えば、「Workday」は人材管理と財務機能に強みを持ち、「Salesforce」は市場をリードする顧客関係管理ソフトウェアだ。
企業の特定の領域に特化したソフトウェアを必要とする場合、S/4HANAよりもこれらの製品の方が適していることがある。
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