メディア

今使えるAIはどれ? 記者が展示会で見たAI業界の最新事情【現地レポ】

2025年春「Japan IT Week」の「AI・業務自動化展」は今回のJapan IT Weekで最大のスペースを占め、「データドリブン経営EXPO」も少し離れたスペースに30社超のブースを出していた。どのエリアもAI機能やAIエージェントなどの話題で持ちきりだった。

» 2025年05月30日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 2025年春の「Japan IT Week」は2025年4月23日〜25日までの3日間、東京ビッグサイトで開催され、合計5万7802人が来場し大盛況となった。このビッグなIT総合展示会から、今回はデータ分析とAI領域の展示概要を紹介しよう。

 「AI・業務自動化展」は同イベントで最大のスペースを占め、100を超える出展社ブースに来場者が押し寄せていた。「データドリブン経営EXPO」も、少し離れたスペースに30社超のブースを出していた。

ITインフラのクラウド化サポート企業、AI機能が前面に

 中でもひときわ集客していたのは、Google Cloude Japanの共同出展ブースだ。ここでは同社の他、ファストリーや丸紅I-DIGIOホールディングス、G-gen、USEN Smart Works、サテライトオフィス、ミトリなどのGoogle Cloudのパートナー企業が出展し、「Google Cloud」を活用したソリューションを紹介していた。

 Googleパートナー経由でGoogle Cloudをを導入すると、割引を受けられる場合がある。G-genの請求代行サービスでは、Google Cloud利用料金が5%OFFとなり、24時間365日の技術サポート、円建て請求書払いもできる。もちろんそれがパートナー各社のサービスの本質ではない。各社サービスはそれぞれ幅広いが、ITインフラのクラウドリフト&シフトやその他の移行支援や運用といったサービスはほぼ共通している。今回の展示会の目玉は、それに加えて「Gemini」をはじめとする生成AI技術を活用した業務プロセス改善ソリューションである。

 G-Genは生成AIを利用するアプリケーションの短期開発によるPoC支援サービスの他、典型的な生成AI適用アプリケーションのプロトタイプとして使える「生成AIノートブック」「生成AIチャットボット」をPoCパッケージとして提供している。

 ミトリは「Google Drive」のラベル機能を拡張する「Drive Laveler」を発表していた。これはGoogle Driveに備わっていないラベル情報の一覧と集計、一括出力(CSV)、前回データの引き継ぎ入力、取引先マスターなどを利用した入力補助、ラベル情報の一括出力機能などを追加するものだ。注目すべきはAIでファイルからラベル情報を自動抽出して設定できる点だ。手書きを含むさまざまな帳票のどの部分の情報を抽出すればよいかの設定も、自然言語のプロンプトで指示できる。手入力の手間を省きチェック工数を減らすという、一見してニッチな領域に見えるが、大上段に構えたAIエージェント開発を目指すより、案外このような日常業務のAI利用による改善のほうが現場ニーズに応えることになるのかもしれない。

 AIを活用することで、インフラ移行にかかる期間やコストの削減も期待できる。丸紅I-DIGIOはOracleデータベースを「Cloud SQL」へ移行するのにGeminiによるオブジェクト変換を利用したところ、変換に必要なオブジェクトは47%から2%と劇的に削減したという。Google Cloudの専門知識と経験をもつプロフェッショナルサービスによれば、インフラ移行やその後の運用、新しいシステムの開発でも、コストを抑えた最適な解決策を実現できる可能性が高まるという。移行や運用、開発サービスの実績を知るには、こうしたイベントが最適だ。

AIエージェントの文字が氾濫する会場

 今回の展示会では「AIエージェント」というキーワードをさまざまなブースで目にした。「AI、業務自動化」カテゴリーに登録している出展は439件、AIエージェントにカテゴリーされる出展社は127件にも上る。

 とりわけ広いブースで積極にアピールしていたのがギブリーだ。同社は「AIエージェント開発」を前面に掲げ、生成AI活用プラットフォーム「MANA Studio」を提供している。これはマルチLLMに対応した対話型生成AI「MANA AI Chat」機能と、新機能「ミッション志向型AIエージェント作成機能」を備えるツールだ。

 日本企業のニーズに沿ったAIエージェントとカスタマイズサービスを提供しているのがJAPAN AIだ。マーケティングに軸足を置きながら、リサーチやバックオフィス、採用、オフィス業務、文章生成、翻訳アシスタント、営業提案資料作成など各種の業務特化AIエージェントを提供し、カスタマイズして業務ワークフローの自動化を図れるという。

 サイバーエージェントの連結子会社のAI Shiftも、AIエージェントの活用戦略の策定から実装、運用までを包括的に支援する「AIエージェント構築支援サービス」の提供を始めた。これは同社が開発した営業職特化の営業AIエージェント運用を通して獲得したノウハウをベースにAIエージェントの提供だけでなく、AIエージェントの活用戦略の策定から開発、運用まで包括的に支援する。

 AIエージェントの定義は一般に、目的達成に必要なタスクを自律的に遂行する仕組みを指すが、AIエージェントをキーワードにしている製品やサービスが全て「自律的」にタスクを組み合わせて実行するレベルに達しているわけではないようだ。RPAやワークフローで業務自動化を図る中の一部に生成AIを利用して効率化や最適化を図っている製品やサービスも多いようだった。

データ分析はAI機能の搭載でより簡単に

 データ分析の領域ではウイングアーク1stのデータ分析基盤「Dr.SUM」とBIツール「MotionBoard」は相変わらずの人気ぶりだった。同社は全製品に生成AIを適応させる取り組みを続けている。最近では「Dr.Sum Copilot」がリリースされ、SQLコマンドの生成AIによる自動解析と改善案提示、エラー解析などができる。従来はコミュニケーションが主機能だった「dejiren」はLLMインタフェースの役割を果たすAIプラットフォームに生まれ変わり、BI出力の要約や整形レポート、帳票OCR、社内に蓄積された情報の生成AIによる抽出などに対応した。

 ベンダー独特のノウハウをデータ分析プラットフォームに組み込んだ製品もある。キーエンスは有数の高収益企業だが、その収益ノウハウを凝縮した「データプラットフォームKI」を展示した。これはグラフ・ダッシュボードなどのBI基本機能に加え、要因をその場で深掘りできる「要因ツリー」、生成AIが分析をサポートする「AIアシスト」、ノーコードで作成できる「ワークフロー」など、同社事業での必要性を基礎にした機能をパッケージした製品だ。

 NTTデータ数理システムは自社開発のデータ分析ツール「Alkano」を出展した。これはノーコードでデータ取り込みから前処理、可視化、モデリング、運用までの一連の分析プロセスを遂行できるのが特徴で、同社の長年のデータサイエンス領域での経験を生かした分析アルゴリズムを搭載してデータサイエンティストの高度な分析を簡単に実行できるという。自社開発であるためにカスタマイズにも対応する。

 どの領域でも生成AIは多くの製品やサービスに組み込まれており、既に一般化した要素技術となっているようだ。将来的にはこうした製品やサービス群の中からAIエージェントがビジネス目的に合わせて選定して複数ツールを組み合わせたワークフローを自律的に作り上げることもできるようになるのだろう。そんな未来を予測させるのに十分な内容の展示会だった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。