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経産省が「レガシーモダナイズ」に向けたレポート公開 明治の事例が示す現実解

経済産業省は「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」を公開した。このレポートが示すレガシーシステムからの脱却とDX推進の重要性は、明治ホールディングスが30年以上にわたり利用してきたメインフレームからの脱却への取り組みからも確認できる。

» 2025年06月18日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 経済産業省は2025年5月28日、「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」を公開した。このレポートは、DX推進の障害となっているレガシーシステムを柔軟でモダンなシステムへと刷新するための具体的な提言がまとめられており、「DXとレガシーシステムを取り巻く現状と課題」「市場動向調査の分析結果と問題への対処の方向性」「企業が採るべき対策」「政策の方向性」の4つの主要項目で構成される。

レガシーモダナイズのポイント(出典:経済産業省のリリース)

 このレポートが示すレガシーシステムからの脱却とDX推進の重要性は、明治ホールディングス(以下、明治HD)が30年以上にわたり利用してきたメインフレームからの脱却への取り組みからも確認できる。アイティメディアが2025年5月に主催したオンラインセミナー「Enterprise IT Summit 2025 春」で明治HDの白松妹佳氏によって語られた内容を一部紹介し、その関連性を考える。

非競争領域はパッケージソフトで対応

 明治HDは、全アプリケーションを一足飛びに移行するのではなく、数年をかけて段階的に移行した。これは、レポートが示唆するモダナイゼーションの段階的アプローチと合致する。同社の取り組みは大きく2つのアプローチで進められた。

 一つは、財務会計や管理会計といった「非競争領域」におけるパッケージソフトへの切り替えだ。消費税対応などの法改正に迅速に対応するため、国内会計基準に沿ったパッケージソフトを選定し、2022年度には財務会計システムの刷新とペーパーレスを実現した。これは、レガシーシステムが抱える「法制度への対応負担」という課題への対応策の一つとも考えられる。

 もう一つは、営業担当者向けの販売機管理システムや売上管理システムなど、ビジネスロジックの見直しを伴う「再構築」だ。牛乳やヨーグルト、お菓子、アイスなど、多様な温度帯カテゴリーが存在する中で、5つもの管理システムを統合、刷新し、メインフレーム処理の約40%をオープン化した。これにより、同社が抱えていた「処理の複雑化」や「シームレスなデータ連携の困難さ」といった課題への対応が進められた。

AWSの自動変換サービスの活用

 在庫管理システムや請求書発行などの脱メインフレームにおいては、明治HDは「Amazon Web Services」(AWS)の自動変換サービス「AWS Mainframe Modernization」を活用した。国内初の事例としてこのサービスを採用し、複雑な処理を最適な構成に再構築することで、維持費の増加や処理の重複といった課題への対応を図り、データ活用の速度向上につなげた。

 AWS Mainframe Modernizationは、ウオーターフォール型ではなく必要な工程のみを実行することで期間短縮とコスト圧縮に寄与した点、そして自動変換ツールに要件を組み込み常に最新のモジュールを管理できる点が、レポートが示す効率的なモダナイゼーションのアプローチと関連する。また、EBCDICでの稼働環境を維持しつつ既存ソースの大きな変更を避け、インフラも同時にモダナイゼーションし、アプリケーションサーバを7台構成で運用することで保守性とコスト削減の両立を目指した。

 明治HDの取り組みはツールの導入だけではない。ジョブを15000から2300本へ、スケジュールも9500本から2000本へ、そして年間9万枚の帳票の電子化といった棚卸しと業務整理が伴っていた。また、24時間365日のジョブ監視をAWSのサービスで自動化し、自社では対応できないアセンブラの再構築をするなど、自社での労力とスキル蓄積に投資したことも、レポートが提言する「外部ベンダーへの丸投げではない、社内スキルの維持・向上」の重要性を示すものとなる。

人材育成と意識改革の重要性

 明治HDではメインフレームの運用担当者のキャリアアップを目的とした人材流動化を図った。この経験がプロジェクト関係者にとってさまざまな気付きや学びとなり、プロジェクト後に実施したアンケートでは「人材の成長につながった」という多くの回答が集まった。インフラや言語の変更以上に、「デジタル部門の意識が変わった」という同社の認識の変化から、技術導入だけでなく、組織文化と人材の変革がDX推進の一要素であることが分かる。

 今回の取り組みにより、明治HDはメインフレームを継続した際と比較して約80%の費用削減という試算を出した。また、最新技術との連携が容易なデータ基盤を整え、データドリブン経営を推進できる環境を構築しことは、経済産業省のレポートが示す「企業のDX成熟度評価」や「IT資産把握」の重要性、そして「レガシーシステムからの脱却による経済的効果」に関連する。

 同社がシステムを「競争領域」と「非競争領域」に切り分け、それぞれ異なるアプローチでモダナイゼーションを進めた点は、近年注目される「コンポーザブルERP」の概念に対する現実的な対応ともいえる。

 会計のような「非競争領域」はパッケージソフトで対応し、ビジネスの差別化につながる「競争領域」は再構築によって柔軟性を持たせるというアプローチは、データの一貫性を損なうことなく、必要な部分で柔軟性と拡張性を確保するというコンポーザブルERPの一形態とも捉えることができる。

 明治HDの取り組みは、「今が問題ないと感じても、将来の経営の足かせになる」というレガシーシステムの課題に対する対応の一例といえる。

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