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AIエージェント時代、業務自動化は「こう変わる」 見直したい情シスの役割、変わる予算感とは?IT導入完全ガイド

生成AIの利用が拡大する中で、業務自動化の目的や対象業務の範囲が大きく変化している。AI活用が前提になりつつある今、システムや組織の在り方をどう変えるべきか。

» 2025年07月22日 07時00分 公開
[元廣妙子, 田中広美キーマンズネット]

 生成AI活用の本格化によって、業務自動化ツールの選択肢が増えている。中でも特に注目されているのが「AIエージェント」だ。

 周囲の環境を認知して自律的に計画し、具体的に行動するAIエージェントは、これまでは難しかった、人の判断や解釈を含む一連の業務を自動化する手段として期待を集めている。

 AIエージェントの登場によって、業務自動化はどう変わるのか。これまで企業で活用されてきたRPA(Robotic Process Automation)などの自動化ツールは、AIエージェントに代替されるのか。

 本稿では、まだ業務自動化に取り組んでいない企業に向けたツールの選び方や運用上の注意点の他、AIエージェントのユースケースやAI活用を前提としたシステム構成の在り方も紹介する。

この記事で取り上げる内容

1. 生成AI本格活用でここまで変わった、自動化の「目的」と「対象業務」

2. 業務自動化ツールの選び方、活用方法

3. 現時点でAIエージェントが得意なこと、苦手なこと

4. AIエージェントを実際にどう使っている?

5. AIエージェント時代、システムと組織はどう変わるべきか

生成AI活用の本格化でユースケースが激変

 ITコンサルティングと調査を手掛けるアイ・ティ・アールの舘野真人氏(プリンシパル・アナリスト)によると、2024年度のRPAの市場規模は対前年比約10%増と、以前の20〜30%増に比較すると落ち着き、「大手企業での新規導入が一巡している」(舘野氏)状況だ。一方で一部の既存ユーザーの中には、積極的にRPAへの投資を増やしている企業も存在する。また、中堅・中小企業におけるRPAの新規導入率は、多少伸びているが顕著な伸びは見られない。

 中堅・中小企業〜大企業の業務自動化を支援する日立システムズは、中堅・中小企業によるRPAの新規導入が頭打ち傾向にある背景について、「RPAはUIや画面構成が変更されると自動では追随できずにエラーが発生するため、修正する必要があります。中堅・中小企業の中にはこうした修正やメンテナンスが自社では実施できず、他社に依頼するに当たってのコストが負担になり、いったん導入したものの利用を取りやめる例も見られます」と指摘する。

 業種別では物流や倉庫、旅行代理店といったサービス業でRPAの新規導入率が伸びており、これまでと比べて幅広い業界で活用されていることが分かる。

 業務自動化を実現するツールには、RPA以外にも「iPaaS(Integration Platform as a Service)」や「ノーコード/ローコードツール」などがある。舘野氏によると、iPaaSは対前年比約20%増とRPAよりも伸び率が高く、ノーコード/ローコードツールも同15%増と堅調に推移している。

生成AI活用で自動化の目的と対象範囲が変化

 業務自動化のトレンドとして見逃せないのが、生成AIの活用によって自動化の対象となる業務範囲が拡大し、その目的も変化しつつあることだ。

 舘野氏は、企業が提供するCX(顧客体験)をいかに向上させられるかといった観点で自動化のテクノロジーが選ばれるようになるだろうと予測する。

 「これまで個々のタスクや業務を自動化して時間やコストを削減してきた企業は、一歩進んで収益に直結するワークフローそのものを効率化し、競争力の向上を目指すようになるでしょう。これは例えば、顧客がECサイトで商品を注文してから自宅に届くまでの一連の流れを最適化するということです」(舘野氏)

 企業における生成AIの活用は本格化しているものの、個人レベルの利用にとどまっているケースも多い。企業全体、もしくは部門全体の業務の効率化にはコストがかかるため成長戦略とセットで考える必要がある。

 「これまでのように、まず特定のタスクや業務を自動化しようと考えるのではなく、新しいビジネスやイノベーションの創出を前提として、それを支える仕組みをいかに人手を介在させずに提供するかという発想に今後はなってくるでしょう。そうなるとある程度デジタル化が進んでいる大企業が有利だといえます。中堅・中小企業は多少不利な面はありますが、自動化の優位性が明らかになれば、デジタル化が一気に進む可能性もあります」(舘野氏)

 生成AIの活用が本格化したことによって、具体的にどのような業務が自動化されるようになったのか。

 日立システムズは、従来のような繰り返しの多い単純作業に加えて、プログラムのソースコードの生成やチェック、製造業の設計工程における設計書のチェックや製造企画、生産管理、さらに製造現場における熟練技術者の暗黙知の形式知化による技術の伝承といった「PCの外で実施される業務」にまで自動化が広がっていると指摘する。

 技術の継承が業務自動化の範囲に収まるのかどうかについては意見が分かれる可能性があるが、マルチモーダルAIによって「調子が悪い時の機械の動作音」や「故障につながる可能性のある微細な亀裂」といった熟練技術者の暗黙知を伝承することは「人手不足で悩む日本の製造現場にとって大きな価値をもたらすと考えています」と日立システムズは強調する。

 一方、舘野氏は自動化の範囲が「専門的で、ある程度すぐに結果を出さなければならない、ミスができない業務」に拡大していると指摘する。金融業界における与信や審査といった業務はワークフローの一部に生成AIを使うことで自動化が可能になり、コア業務である保険金の払い出しをスムーズに実施できるようになる。

 「ただし、生成AIにはハルシネーションのリスクがあり、専門家の代わりを務めるわけではありません。蓄積されたノウハウを基にして業務のスピードを上げ、コア業務の品質を上げるために使われるようになるでしょう」(舘野氏)

業務自動化ツールの選び方、活用方法は?

 自動化に取り組む多くの企業から聞かれるのが、「どの業務をどのツールで自動化すればよいか分からない」という悩みだ。自動化を実現する選択肢と対象となる業務の両方が増加している今、この悩みはますます深刻化していると言えるだろう。

 日立システムズはこうした悩みを持つ企業に向けて業務の棚卸しを勧めている。「自社の業務全体を洗い出し、どの業務にどのぐらい時間がかかっているのかを把握して、生産性向上や効率化の効果が大きく見込める業務から順番にPoC(概念実証)を実施して優先順位を付けた方がいいと考えています」(日立システムズ)。

 日立システムズは、定型業務の自動化にはRPAが引き続き有効だとする。ノーコード/ローコード開発ツールは高度なプログラミング知識を持たない人でもアプリケーションを作成できるが、「ある程度体力のある企業が内製化を進めるために利用している傾向があります。また個人でなく、組織全体での利用を考えたときに本当に使えるかどうかの検討が必要です」(日立システムズ)

 業務自動化の目的が個人が担当する作業の効率化ではなく、企業全体の生産性向上や効率化である場合、システム全体の中でノーコード/ローコード開発ツールで作成したアプリケーションがどのような役割を担うのか、「野良アプリ」の発生を防止するための体制を整備できているのかどうかも含めて考える必要がありそうだ。

 舘野氏はノーコード/ローコードツールが、自動化プロセスに人を関与させるための手段として定着しつつあると指摘する。

 「業務自動化(オートメーション)は、大企業を中心に個々のタスクや業務の自動化から、人の判断や解釈を含む複数のタスクや業務を連携させた最適化(オーケストレーション)へと変化しつつあります。人が関与するプロセスの効率化には、アプリケーションというインタフェースが必要になると考えています。電子メールやチャットで確認を促し、人が返信するという方法もありますが、今後はアプリケーションによる効率化が求められるようになるでしょう。こうした背景から、ノーコード/ローコードツールでアプリケーションを開発し、業務を効率化する企業はさらに増えると予測しています」(舘野氏)

 中小企業の中には、業務自動化に取り組みたいと考えつつも、これまでIT人材が不足していたり予算が捻出できなかったりで二の足を踏んでいたところも多いだろう。こうした企業がこれから業務自動化に取り組む際にとっかかりになりそうなのが生成AIだ。「生成AIは世間一般でもブームになっていることもあり、多くの企業が投資しているという状況に後押しされて挑戦するハードルが下がっています」(日立システムズ)

 「ChatGPT」をはじめとする生成AIツールは、無料版や無料トライアルが可能な製品が増えている。「まずツールを入れて触ってみるというアプローチも有効だと考えています。触ってみて使えそうであれば、実際の業務にどう組み込めるかというユースケースを考える。その後、どう定着させるか、全社にどのように展開するかという問題が次に出てきますが、これまで自動化に取り組んでこなかった企業にとっては第一歩を踏み出すのがまず重要ではないかと思います」(日立システムズ)

 生成AIによって自動化を実現する手段も多様化している。舘野氏は、生成AIの登場で開発のハードルが下がり、異なるツールで開発されたワークフロー同士の連携が可能になったと分析する。

 「自然言語による指示で開発できるようになり、以前と比べて開発のハードルは大幅に下がりました。例えばノーコード/ローコードツールで開発したアプリケーションとRPAのロボットを生成AIで連携できるようになり、人の判断や解釈が必要な一連の業務の自動化が可能になりました」(舘野氏)

 人の判断や解釈が必要な業務を自動化する際に懸念されるのが生成AIによるハルシネーションだが、日立システムズは技術の進歩によってハルシネーションは抑制される傾向にあると指摘する。「ハルシネーションの発生率が0%になることはなくても、いずれは10%程度になるだろうと考えています。いずれ単純作業を生成AIがRPAに替わって実行することもあり得ると思います」(日立システムズ)

AIエージェント時代の業務自動化の展望

 最近バスワード化しているAIエージェントは、業務自動化の手段としても注目を集めている。AIエージェントとは周囲の環境を認知して自律的に計画し、具体的に行動するシステムのことだ。

 舘野氏はAIエージェントについて、「業務自動化ツールの候補に入ると思うが、これからの技術だと考えている」と語る。

 「今日の大規模言語モデル(LLM)をベースとしたAIエージェントは、複雑なタスクを分解したり解決策を検討したりする推論・計画に関わる能力はかなり向上していますが、最終的な実行フェーズの精度には課題があると見ています。特に、複数ツールの使い分けが求められるようなシーンにおける効力は限定的です。従って、ツール横断型の自動化であれば、動作を細かく定義できるRPAの方が現実的だとも考えられます」(舘野氏)

 AIエージェントはどのような業務の自動化に適しているのだろうか。舘野氏は、複雑な判断が求められるタスクの中でも、明確な検証基準のあるソフトウェア開発や、利用するツールの種類が限定されているフライトや宿泊の予約受付・変更、システムサポートといったタスクの自動化にはAIエージェントが有効だと指摘する。また、アプリケーションベンダー各社が提供するAIエージェントであれば、短期的には、AIエージェントの弱点であるツールの呼び出しと実行の不安定さをカバーできる可能性があると見ている。

 一方、日立システムズは自社の営業部門での試用を既に開始している。具体的には業界動向を探るための情報収集や、顧客企業のWebサイトや自社の取引履歴などから得られた情報を基にした課題の抽出、年間計画の提案をAIエージェントに一部任せている。「顧客が多くの情報を得られる環境になった今、営業担当者が持っている情報が顧客より少ないという状況は避けなければなりません。AIを活用して顧客が必要とする情報を効率的に収集し、提供できる仕組みの構築を目指しています」(日立システムズ)

 ただし、AIエージェントは、ハードコーディングされたプログラムと違って間違う可能性がゼロではないため、その点を踏まえて運用しなくてはならない。

 「AIエージェントは原理的に100%の精度にはなりません。ある程度失敗するという前提で、早い段階からガバナンスを効かせる必要があります。運用する場合は、ミスなく稼働し、結果が正しく顧客に届いているかどうかをダッシュボードなどで可視化して常に確認する必要があるでしょう」(舘野氏)

AIは日々進化し、それに伴って実現できることが飛躍的に増えている。古い知識で判断すると誤解を生んでしまう可能性があるため、絶えず知識をアップデートしなければならない。

 具体的には、AIエージェントを自社に導入して業務を効率化する場合、LLMもマイグレーションが必要になる。これは、テクノロジーのライフサイクルに合わせて自社の環境を絶えず変化させることを意味する。舘野氏は、あらかじめ業務を可視化し、計画的にツールを導入することを提案する。

 「便利だからといって、生成AIやAIエージェントを思い付くままに現場に導入してしまうと、最終的に制御できなくなってしまう恐れがあります。まずは効率化する業務を構造化し、可視化した上で導入するツールを決めるべきです」(舘野氏)

 気になる価格についてはどうだろうか。「将来的には、これまで5人の従業員が担当していた業務を2人とAIエージェントでこなせるようになる可能性があります。この構成の場合、5人の従業員を雇うのに比べればコスト削減につながると思っていただいていいかと考えています」(日立システムズ)

AIエージェント時代における情報システム部門の役割は?

 今後、生成AIの活用がより進み、AIエージェントの導入が本格化する中で、情報システム部門の役割はどう変わるのか。

 これまで情報システム部門はツールの選定や自動化プロジェクトの策定や実施に携わることが多かったが、今後はAIエージェントによる導入成果をより拡大するための施策や、AIの活用を前提としたシステム構成の実現も担うことになりそうだ。

 AIの利用を前提としたシステムの在り方について、日立システムズは社内データを整備する重要性を指摘する。「ハルシネーションを抑制するためにも生成AIが社内データを活用しやすい環境を整えることが必要です。具体的にはデータレイクを1つに統合し、社内ドキュメントは生成AIが理解しやすい構造で作成するなど『AI Ready』なデータ環境の実現を図ることが重要です」(日立システムズ)

 舘野氏は、プロセス全体に責任を負うリーダーの必要性を指摘する。

 「日本企業は部門ごとの縦割りで従業員が動く体制になっていますが、人の判断を挟む自動化を実現するためには横につなぐリーダーが必要です。各部門のリーダーではなく、プロセスを横断的に見て、一連の業務に責任を持つリーダーです。こうしたリーダーが存在しないことが日本企業で自動化がスケールしにくい原因の一つであり、組織の在り方や、誰がどこにどう責任を持つかといったことが、技術よりも実は重要なのではないかと考えています。複数の部門にまたがるような業務の効率化は、情報システム部門だけでも事業部門だけでも実現が難しいため、経営層や事業部レベルのリーダーがしっかりと考えた上でリーダーシップを取らなくてはなりません。こうした適切なリーダーシップの下でなければ、AIエージェントを活用するような高度なオーケストレーションの世界に進むのは難しいのではないでしょうか」(舘野氏)

大きく変わった業務自動化 今後の展望は?

 ここまで生成AIの活用が本格化し、AIエージェントの導入が進みつつある業務自動化の変化を見てきた。

 前回のガイド記事と比べて生成AIの技術が進歩し、企業における活用が格段に進んだことで、業務自動化の目的が変化しつつあるのと同時に、自動化の対象となる業務の範囲が大幅に拡大していることがお分かりいただけたかと思う。

 今後、自動化の目的がビジネス的なニーズにより直接的に貢献するものに変化し、対象業務の範囲がさらに拡大すれば、業務自動化に従来よりも多くの予算を振り分ける動きにもつながりそうだ。この動きは既にAIや生成AIへの投資という形で現れているが、これまでの自動化ツールに比べてさらに高価なAIエージェントの導入が本格化すれば、より顕著な傾向になるだろう。

 予算規模が拡大すれば、自動化ツールの導入効果はこれまで以上に厳しく問われることになる。今後も業務自動化のトレンドを追いつつ、自動化による効果を最大化するための取り組みも併せて紹介していきたい。

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