ノークリサーチによると、AIエージェント活用で一足飛びに自律実行に取り組もうとすると、RPAと同様の障壁に直面するという。RPAの教訓をどう生かすべきか。
2025年はAIエージェント元年ともいわれ、IT市場を活性化させる起爆剤としての期待が高まっている。
一方で、かつてブームを起こしたRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)同様に、「導入してみたものの、使いこなせない」「導入後、なぜか動かなくなってしまった」といった事態が起こるのではという懸念を持つユーザーも多い。
そこで本稿では、ノークリサーチが発表した分析結果と、RPAの「教訓」を踏まえてAIエージェントを活用するための方策を紹介する。
ノークリサーチによると、「RPAと何が違うのか」といった質問を受けることが多いという。
RPAが注目を集めるようになった2017年当時、ノークリサーチがRPAの全体像を整理したのが図1だ。
同社によると、RPAには「認識・推論を伴ったヒトの判断が必要な業務(Judgemental Task)を自動化するCognitive RPA(狭義のRPA)」と、「ルールを明記できる業務(Rule-based Task)のルールに基づく自動化(Traditional RPA)」の2通りがある。このうち「広義のRPA」は「狭義のRPA」も内包する。
このうち「Cognitive RPA」によるタスクの自律実行はユーザー企業の業務効率を大幅に改善する手段として期待された。しかし当時はこうした概念に技術が追い付かず、その後は「Traditional RPA」が主体となった。
これがAIエージェントを活用するための「教訓」にいかに結びつくのか。
「Traditional RPA」では自動化の対象となるタスクフロー(業務シナリオ)を定義する必要がある。この点は中堅・中小企業にとってハードルが高く、RPAの普及を阻む大きな障壁の一つになっているとノークリサーチは指摘する。
こうした経緯を振り返ると、「AIエージェント」は「Cognitive RPA」の再来であるようにも見える。実際、RPA製品やサービスをAIエージェントとして刷新、再定義する動きも見え始めている。そこで重要なのはRPAで経験した「業務シナリオ定義」の障壁を繰り返さないことだとノークリサーチは説明する。
ノークリサーチは、AIエージェントを「ユーザーとの自然な対話を通じて情報システムのタスクフローを実行または定義できるアプリケーション」と定義する。タスク実行の自律レベルや対象業務の範囲などによって細かく分類する向きもあるが、AIエージェントをソリューションとして開発する際に最も重要になるのは、「タスクフローを誰が定義するのか」という点だ。
つまり、AIエージェントは「タスクフローの実行だけでなく自動で定義する『狭義のAIエージェント:』」と「タスクフローの実行のみが自動化され、手動で定義する必要がある『広義のAIエージェント』」の2つに分けられる。
前述の「狭義の自動化」は自らタスクフローを定義することまでは言及していないので、「広義のAIエージェント」に相当すると捉えられる。
ただし、生成AIの登場によって「マルチモーダル&非定型なデータの理解」「自然言語と業務フローロジックの橋渡し」が可能になった結果、「広義のAIエージェント」は「Cognitive RPA」と比較して扱えるデータ種別や人間が理解しやすい入出力といった点で大きく進歩している。こうした「ヒトに優しい」点がAIエージェントが大きな期待を集める理由の一つだとノークリサーチは分析する。
生成AIを利用中、あるいは利用予定のユーザー企業におけるAIエージェント活用意向(利用中、あるいは利用予定の合算を集計した最新データ)(図3)を見ると、中堅企業・大企業のみならず小規模企業でも活用意向のある企業が約半数に及ぶことが確認できる。
ただし、「広義のAIエージェント」はRPAと同様にタスクフローを定義する必要がある。この課題に対処しないまま進むと、AIエージェントもRPAと同じ障壁に直面する可能性が高いとノークリサーチは指摘する。
狭義のAIエージェントであればRPAが直面した障壁を乗り越えられるのか。生成AIのは急激に進歩しており、AIチャットやコンテンツ生成だけでなく、プログラミング作成や複雑な推論を伴う問題解決などにも適用範囲が拡大している。
しかし、生成AIの技術的な進歩だけでは解決が難しい側面もある。例えば「会議日程の調整」というシンプルなタスクフローを例に取っても、「誰の予定を最も優先するか」「代理での参加を認めるか」「社外の参加者への打診」など、AIによる判断が難しいポイントについてどこまでをAIの判断に委ねるか。ユーザーが具体的な指示を与えている限りはは「広義のエージェント」と本質は変わらず、RPAと同じ課題を抱えることになるとノークリサーチは指摘する。
そこで現実解として同社が示すのが、「まず単発タスクでの生成AI活用の成功体験を積む」というアプローチだ。「生成AIで何ができるか」「どこまでAIに任せられるか」「誤情報や誤判断はないか」などをユーザー側が十分に経験できていなければ、複数のタスクをつなぐタスクフローを定義することも難しいとノークリサーチは指摘する。
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