メディア

日本MSの西脇氏「AIを使わない方がリスク」 今後求められる「問い立てる力」とは

内田洋行のビジネスITフェアで、日本マイクロソフトの西脇氏が生成AIの最新動向を解説した。生成AIの進化により「問い立てる力」が重要になってきたことや、AIを使うことによるリスクよりも「使わないリスク」が大きくなってきていることに言及した。

» 2025年11月05日 07時00分 公開
[南出浩史キーマンズネット]
日本マイクロソフトの西脇資哲氏(出典:編集部撮影)

 内田洋行は2025年10月24日、「UCHIDA ビジネスITフェア2025 in TOKYO」を開催した。会場で行われたセミナーの一つとして、日本マイクロソフト業務執行役員エバンジェリストの西脇資哲氏が「生成AIで変わる企業戦略:明日から使える実践ノウハウ」と題し、AI最新動向の解説を行った。

AIを使うよりも「使わない方がリスク」の時代へ

 西脇氏はAIの能力の現状を説明し、「これからはフィジカルAIの時代もやってくる。生成AIが機械や装置、乗り物、あるいはヒューマノイドロボットといったものにどんどん統合されていく」と、フィジカルAIの時代の幕開けを主張。機械製造メーカーなどからも、AIの技術を交差して新しいサービスを出したいといった声が多く、可能性がとてもある分野だとした。

 セミナーの中盤では、内閣府が2025年9月に発表した資料に言及。「人工知能基本計画」において「AIを使わないことが最大のリスクであり、日本のAI投資・利活用の推進は急務」と記載があることに触れた。また、同府では3年前の2022年時点で、生成AIの使用に関してセキュリティやコンプライアンスなどの“使用するリスク”について主に言及していたことと比較し、国家戦略としても生成AIが最重要視されている現状を語った。

 生成AIの利用スタイルの変化に関しては、「3年前の時点ではプロンプトを丁寧に書くことが大切だとされていたが、現在ではエージェントへの音声入力が主流になっている。各社、プロンプトといった言い方をせずにメッセージと言うようになった」と説明。より使いやすくなったことにより、誰もがAIによって世界中の多くの公開情報を活用することが可能となり、ペンシルベニア大学MBAや米国医師免許試験、司法試験などに合格できる能力を、AIを駆使することで誰もが発揮できるとした。

 西脇氏は「経営者だったら、それらの能力を持っている人を絶対採用したいと思うはず。しかし、それを兼ね備えた人はそもそもいない。そこで、AIを活用することで、会社のノウハウや経験値を持っている従業員に、その能力を与えることができる」とし、AI活用の大切さを述べた。

 また、企業として生成AIを導入していくことの重要性についても述べ、「大企業は生成AIを会社単位で使用しているが、中小企業では個人ごとに使用することが多い。これは一見すると自主的な活用ということで良いことのように思えるが、機密情報が流出するリスクが高まる」と、セキュリティ面でも生成AIの活用を積極的に行うべきであるとした。

企業規模別の生成AI利用率(セミナー提供資料)

AI選びに迷うよりも今すぐ使うことが重要、大切なのは「問い立てる力」

 生成AIは数多くあるがどれを使用すべきかという話題については、「日本マイクロソフトのエバンジェリストとしては『Microsoft 365 Copilot』推しだけれども、私は何でもいいと思っている」とした。その理由として、生成AIの性能ランキングの推移に触れ、多額の投資を重ねて性能競争が行われている背景を説明。随時変わっていく性能ランキングにこだわって選ぶことよりも、今すぐ使うことを優先するべきだと言及した。

 続いて、画像生成AIの使用について実例をデモンストレーションし、「どのAIモデルがより良い出力結果を出すかよりも、使いこなすことが重要。出力結果が思うようにならないのは、生成AIの能力ではなく、利用者の指揮をする能力が不足しているため」とし、生成AIへの指示を的確に出せる能力を得ることの重要性を述べた。

(セミナー提供資料)

 西脇氏は、「この3年間で、AIに対しての指示する能力が非常に大切だと分かってきた。AIを活用するためには、出力結果にこだわるだけでなく、指示を的確に出さないといけない」とし、経済産業省の定義する「生成AI時代」においても、スキルの考え方の筆頭となるものが、ITスキルやプロンプトの書き方から「問い立てる力」へと変わっていることにも言及。出力された結果を仮説検証して選択する力の重要性を主張。

 「重要なのは、AIに求める成果を作らせるには、どういった工程でどのような指示をすれば完成するんだろうかと、ゴールに向かって目的を細分化できる能力だ。この細分化された内容を言語化できる人が、生成AIを上手に使いこなせる人だといえる」とした。

 さらに、AIと会話をして仕事をする利点について、「自身よりも知識を持ったバディが、隣で一緒に仕事をやってくれているようなもの。AIをそのような存在として利用することで、生産性は桁違いに上がる。このような付き合い方を生成AIとしていきたい」と述べた。

 西脇氏は最後に、「今日一貫して私が申し上げたのは、AIと会話をし“問い立てる”能力を駆使し生成AIと向き合うと、仕事のやり方が変わってくる。従業員全員がその能力を使うことは、IT戦略に収まらず、人材戦略であり、経営戦略でもある」とし、「生成AIを使わないことがリスクだという理由として、私は不可逆だからだと考える。不可逆というのは元に戻ることができない。そろばんが電卓になり、PCやスマートフォンなどのテクノロジーが普及して業務に不可欠な存在となったように、生成AIも不可逆のテクノロジーとなる。このテクノロジーを使いこなす側に回っていただければ幸いだ」とセミナーを締めた。

(セミナー提供資料)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。

アイティメディアからのお知らせ