アメリカに本社を置く食品メーカー Kraft Heinzは、AIエージェント「The Cookbook」の試験運用を開始した。自社製品の製造プロセスへとアクセスしやすくなることで、業務の効率化や知識継承を促進する。
食品メーカーのKraft Heinzは従業員が自社のケチャップ製造プロセスに関する情報により容易にアクセスできるよう支援するAIエージェントを試験運用しており、今後はさらに多様な用途への展開を計画している。
AIエージェントであるThe Cookbookは、アイデアの段階から3カ月でプロトタイプの完成までたどり着いた。また、開発においてMicrosoftとの連携がされ、「Azure OpenAI」を活用して構築された。本ツールを通じて、従業員はケチャップ製造に関してKraft Heinzが蓄積してきた150年分の専門知識にアクセスできるようになっている。
Kraft Heinzは効率化と知識の継承を目的として、自社のAIポートフォリオに新たなエージェントを追加している。The Cookbookに先立ち、同社は製品開発とマーケティングのスピードの向上を目的とした「TasteMaker」を導入していた。
Kraft Heinzにおいて、意思決定のためのインテリジェンス製品およびプラットフォーム部門の責任者を務めるパット・ネスター氏は、CIO Diveに対して電子メールで次のように語っている。
「The Cookbookは当社で導入された最初のAIエージェントではない。今後も当社は組織全体で拡張性と連携性を高め、事業や従業員、消費者にさらなる価値をもたらす統合型AIソリューションの探求を続けていく」
The Cookbookは、世界中で食品および飲料に関する事業を展開するKraft Heinzが自社のイノベーションプロセスを洗練させる流れの中で誕生した製品だ。その背景には、適切なユースケースの特定や成果を追跡するための事業価値評価の策定といった取り組みが存在した(注1)。
ネスター氏は2025年の初めにCIO Diveに対して、「当社はユースケースを事前に検証し、定量的指標と定性的指標を組み合わせてAIプロジェクトをモニタリングしている」と語った。このプロセスにより、割り当てられたリソースが適切なユースケースに投入されているかどうかを確認し、さまざまな企業を悩ませているプロジェクトの行き詰まりを回避できる。
金融データの分析サービスを提供するS&P Global Market Intelligenceが2025年3月に発表した報告書によると、2025年は企業の42%がAIプロジェクトの大半を放棄しており(注2)、この割合は2024年の17%から大幅に増加しているという。多くの場合、企業やCIO(最高情報責任者)はユースケースと事業目標の結び付けに苦労しており、ベンダーによる誇大広告の真偽を見極められず、責任あるAI活用の優先順位付けにも失敗するなど、導入面でさまざまな課題に直面している(注3)。
Kraft Heinzの経営陣はピクルスの製造工程やサプライチェーン全体におけるAIの有益な活用事例を従業員に強調している(注4)(注5)。
ネスター氏は2025年9月23日(現地時間、以下同)に次のように述べた。
「The Cookbookの試験運用で得た主要な知見や洞察を当社の他のブランドや製品、各事業へと展開していくことを目指している。また、本ツールのさらなるユースケースも検討している。私たちは、社内の専門家たちの知識と品質に対するこだわりを保存し、守っていくことが不可欠であると理解している」
AIの導入が進む一方で、Kraft Heinzには今後大きな変化が待ち受けている。
Kraft Heinzは2015年に行われた460億ドル規模の合併を大幅に見直し(注6)、会社を2社に分割する計画を立てている。一社はソースやスプレッド、調味料に注力し、もう一社は、子ども向けのランチ用食品ブランドであるLunchablesや、加工肉ブランドであるOscar Mayerなどの日常食品を取り扱う見通しだ。このような会社分割や合併は、業務負荷の移行や技術的負債の整理をはじめとするテクノロジー面での課題を伴うのが一般的だ(注7)。
業界の他企業と同様に、Kraft Heinzは消費者の行動の変化や厳しいマクロ経済環境といった課題に直面している(注8)。こうした混乱を受け(注9)、企業がプレッシャーを和らげる手段を模索する中で、全体的にテクノロジーへの注力は一層強まっている。
Kraft Heinzのカルロス・エイブラムス=リベラ氏(CEO)は、2025年7月に開催された同年第2四半期の決算説明会で次のように述べた(注10)。
「当社のテクノロジーへの投資、特にAIへの投資は、われわれの働き方に大きな変革をもたらした。需要予測の精度向上から工場現場のプロセス最適化に至るまで、当社はエンド・ツー・エンドの改善を推進している」
出典:Kraft Heinz pilots AI agent to streamline ketchup production(CIO Dive)
注1:How Kraft Heinz measures AI project value(CIO Dive)
注2:AI project failure rates are on the rise: report(CIO Dive)
注3:5 ways generative AI projects fail(CIO Dive)
注4:How Kraft Heinz is using artificial intelligence to produce a better Claussen pickle(Food Dive)
注5:AI, automation enrich Kraft Heinz’s supply chain(Supplychain Dive)
注6:Kraft Heinz to break up a decade after mega-merger(Food Dive)
注7:How CIOs can steer legacy tech overhauls(CIO Dive)
注8:Kraft Heinz to explore ‘strategic transactions’ as sales decline(Food Dive)
注9:Industries prioritize AI investments as uncertainty looms(CIO Dive)
注10:Kraft Heinz(Kraft Heinz)
© Industry Dive. All rights reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。