AGI(汎用人工知能)の開発競争が過熱する裏側で、IT製品のサプライチェーンに異変が起きている。その結果、あるITメーカーは製品価格を突然50%引き上げる事態に。この裏にはある資源の争奪戦があった。
世界中のAI企業が注目している「AGI」(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)。人間の知性を広範に再現し、仕事や推論、学習、創作、戦略など多くの分野で活躍することが期待されている。2020年代後半〜2030年にかけて実用化するとも言われ、OpenAIやGoogle、Microsoft、Anthropic、Metaといった大手テクノロジー企業が激しい開発競争を繰り広げている。
これに伴い、世界各地でAGIデータセンター建設ラッシュが進み、その余波でメモリ価格の急騰やHDDの長期品薄、さらにはSSDの値上がりといった事態が起きている。そして今、IT製品の根幹を支える“ある重要な資源”を巡る争奪戦が始まっているという。その影響で、某大手ITメーカーはある製品の価格を50%引き上げた。企業ユーザーにとっても無関係ではない、この争奪戦とは。
多くのAI企業がAGIの研究・開発に本格的に取り組み、大規模AIデータセンターの建設が急速に進んだ結果、世界的にHDDの供給不足が生じ、SSD市場にも急激な変動が起きている。AGI開発競争がもたらした“副作用”と言える。
これについて、Tech系情報サイト「Tom's Hardware」は2025年11月9日に記事を掲載した。記事ではまず、HDDやSSDの問題が表面化する以前に、DRAM(メモリ)分野で既に深刻な事態に陥っていたことを指摘している。
ご存じの方も多いだろうが、2025年9月下旬頃から世界的にメモリ価格が急騰し、特にDDR5メモリは一部で2〜3倍にまで高騰している。記事によれば、この背景にはデータセンター建設ラッシュがあるという。AI企業がサーバ向けDRAMを大量に発注しているため、メモリメーカーは高性能なDDR5およびHBM(High Bandwidth Memory)の生産を優先し、DDR4の生産縮小やDDR5の値上げが進んでいるのだ。
ストレージにも同様に影響が及んでいる。HDDについては、サーバ向けエンタープライズグレードの大容量モデルの注文が殺到し、納入が最長で2年遅れているという。AI企業が求めているのは、安価で大容量な「コールドストレージ」や「ニアラインストレージ」用のHDDであり、その供給が著しく窮迫している。これはAGI用途以外でHDDを必要とするハイパースケーラーを含め、あらゆる企業にとって大きな問題となっている。
そこで注目されているのがQLC SSDだ。QLC NANDは、一般的なTLC NANDよりも書き込み速度や耐久性では劣るが、セル当たりの容量が大きく、より大容量かつ低価格なSSDを実現できる。そのためコールド/ニアラインストレージとしては十分実用的で、HDDが入手困難な状況で代替として需要が高まっている。
その結果として、今度はQLC NANDの争奪戦が起きている。低価格帯SSDの多くがQLC NANDを採用しているため、市場では既にQLC SSDの価格が上昇傾向にある。記事では、あるNANDメーカーのQLC生産ラインが2026年末まで完全に予約済みだとされており、今後は需要に応じてTLCよりQLCの生産が優先される見通しだ。実際、SanDiskは既にNAND価格を50%引き上げたという。
記事は「メモリやストレージが世界的に品薄となり、高騰する状況はほとんど予想されていなかった」としつつ、「AI企業の野心を考えれば、これほど短期間で価格が急上昇したことは驚くべきことではない」と結んでいる。
メーカーが需要に応じて価格を上げるのは当然の動きとはいえ、AGI開発の過熱によって、私たちが日常的に使うPC関連機器の価格まで上昇してしまう状況は、どこか理不尽にも感じられる。早期の改善を望みたいところだが、AI企業のAGIへの取り組みを見る限り、しばらくはこの流れが続きそうだ。
上司X: AGIの開発競争が、世界的なHDD不足とSSDの市場状況の変化を推し進めている、という話だよ。
ブラックピット: あとメモリの高騰もですよね。
上司X: そうそう。でも、どれほどの設備を必要とするのかは各社とも明らかにしていないし推し量るのも難しいけど、AGIを実用化しようと思えば、とにかくメモリもストレージも大変な量が必要なんだろう。
ブラックピット: そんな感じで複数のAI企業がこぞってデータセンターを作ろうとしているんですものね。そりゃ世界的な影響が及ぶわけですよ。
上司X: メーカーだって、高く売れるならそれに越したことはないだろうしな。ただ……。
ブラックピット: ただ、われわれのような一般市民にとって必要なIT機器が高騰してしまうような事態はいただけませんなあ。
上司X: 無論その通りなんだけど、それこそ一般市民にはあらがえないところでな。存在感のあるAI開発企業が高値でもそうした部材を買うとなれば、われわれにはどうしようもない。
ブラックピット: 数年後にAGIが登場して、僕たちの生活がもっともっと便利になることを願うばかりですねぇ。
上司X: そうだな。しかし、メモリとかストレージとかの部材の話だけじゃなくて、AIやAGI向けデータセンターは電力や水冷用の水、はたまたCO2の排出とか、建設された地域の環境に影響するような要素も少なくないからな。AIやAGIで革新的な社会が来るのは期待したいけど、何かが犠牲になるのはなあ……。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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