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「AIでいいや」で人材育成をしないと起こること 従業員を育てる5つの方法CIO Dive

若手人材の育成を犠牲にしてAIを優先する企業は自らの存在意義を失う。重要なのはAIが前提となる環境における人間の仕事の役割を根本から見直し、組織と人間を育てることだ。

» 2025年12月19日 10時00分 公開
[Phil FershtCIO Dive]
CIO Dive

 専門職に就いている多くの人が自身の仕事におけるAIの影響について考える中、企業はAI導入を理由に新卒採用を大幅に削減している(注1)。

 米国では、大学を卒業したばかりの若者の失業率が世界平均を大きく上回る約6%に達している(注2)。若者を採用しないのは戦略やリーダーシップに対する先見性の欠如を示しており、若手人材に機会を与えないだけでなく、将来に備えた人材パイプラインの構築を企業自ら妨げていることを意味する。

 長期的な成功と将来に備えた人材育成を重視する経営者や管理職は、手遅れになる前に立ち止まり、深刻に歪んだ考え方を改める必要がある。

本稿はHFS Researchのフィル・ファシュトCEOの寄稿記事です

「若者を育てるよりAIを使った方が楽でしょ」の末路

 現在われわれは大学卒業後の失業率が大幅に上昇する世界の始まりに立っている。その背景には、AIの進歩と企業の強欲さが深く関係している。若手人材の育成を犠牲にしてAIを優先する企業は自らの存在意義を失い、企業のロゴの集まる顔のない組織に変わるのだ。

 若者の採用が投資と見なされなくなったとき、職場から人間味が失われていく。「ChatGPT」に指示を出したり、「Gemini」や「Claude」を利用したりすれば済むのに、なぜ若手のアナリストを育成する必要があるのかという考え方が広がっているのだ。こうした流れを進めるのではなく、食い止めるのが企業のリーダーの責任である。

 キャリア初期の採用に関する問題は、企業が直面している課題の表れだ。リーダーたちはAIと人間の業務フローがどのように交差し、重なり合い、補完し合うのかを適切に理解できていない。これは将来の労働力設計に課題を残す。人間がAIの可能性を最大限に引き出すためには、必要なツールとノウハウを身に付けるためのリスキリングが不可欠だ。

 リスキリングを本当に意味のある施策にするためには、AIが前提となる環境における人間の仕事の役割を根本から見直す必要がある。AIが情報の統合や分析の大部分を担う中で、「有用である」「責任を負う」「専門性を持つ」とはどういうことなのか。経営層や人材育成の責任者は、どんなスキルを教えるかではなく、どんな役割に人間の思考が必要なのかという問いに向き合わなければならない。

 人材育成のあり方を見直すためには、従業員体験を顧客体験や事業成果と結び付ける必要がある。以下では、そのために求められる意識転換を実現する具体的な方法を幾つか紹介しよう。

 まず、トレーニングの内容ではなく、役割の再定義に焦点を当てることだ。リスキリングは単に新しいツールの使い方を教えることではなく、AIを前提とした企業における役割そのものの再構築を目的とすべきだ。これから求められるのは、AIアシスタントによって人間の能力が拡張されることで実現するハイブリッドな役割への進化だ。

 2つ目はキャリアパスのあり方を再考することだ。AIの導入で新たに生まれる職種に従業員が移行できるようなキャリアパスの設計が重要だ。職種をグループ化したロールクラスターや、異なる職種をつなぐブリッジロール、社内人材の流動性を高めるタレント・マーケットプレイス、部門横断型のプロジェクトなどを活用して、より柔軟でしなやかなキャリア形成を促せる。

 3つ目は体験を総合的かつ全体的に捉えることだ。従業員が利用するAIのインターフェースは、顧客向けツールと同じくらい直感的であるべきだ。また、従業員がAIをどれだけ信頼しているかは顧客への対応やサービスの品質に直結する。

 4つ目は測定および追跡可能な従業員体験の要素を設けることだ。顧客体験は、体験の質を測定および改善する議論の中心に置かれることが多いが、実際には従業員体験と顧客体験の間には明確なつながりがある。したがって、従業員体験のための施策は単なるエンゲージメントスコアの向上を目的とするのではなく、事業成果と明確に結び付くように設計すべきである。

 5つ目は実験的な文化を育むことだ。AIの進化に合わせて職場の設計も変化しなければならない。従業員が失敗しても安全な環境の中で実験し、新しい試みに挑戦できるよう奨励し、評価する文化を築くことが重要だ。同時に、AIの判断に基づく意思決定については、明確な責任の所在を定めるオーナーシップモデルや、適切なガバナンス体制を整備する必要がある。

 企業は人材によって成り立っている。その基盤を失えば、イノベーションの芽を摘み取ってしまう危険がある。今こそ、若い世代の中で最も大胆で優れた人材を惹き付け、育成し、鍛える方法を本気で考えるべきだ。

 企業には人材を育成する責任がある。中でも、これからの職場の中核を担う若い人材を育てることは義務だ。ソフトウェアのライセンスに頼って責任を回避するのではなく、明確な目的をもってキャリア開発を主導することこそが、企業の未来を形成する。

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