通信内容を第三者に盗み見られないよう、暗号化などの対策はもはや必須だ。しかし、あるセキュリティエンジニアは「メール暗号化はムダだ」と断言する。その理由は、メールのセキュリティ設計そのものにあるという。
電子メールは1970年代初頭、ARPANET時代に誕生したレガシーな技術だ。2026年の現在においても、電子メールは依然として広く使われている情報伝達手段の一つである。
一方で、インターネット全体の通信環境は、この数十年で大きく様変わりした。Web通信ではHTTPSが常識となり、チャットやメッセージングアプリではエンドツーエンド暗号化(E2EE)が標準機能として組み込まれている。通信の暗号化など内容を第三者に盗み見られない対策は、もはや特別な配慮ではなく、前提条件となった。
だが、あるセキュリティエンジニアは「メール暗号化はムダだ」と断じた。運用の問題や利用者の不注意ではなく、電子メールが抱えるセキュリティ設計そのものに現代のセキュリティを前提としていない根本的な欠陥があるという。電子メールが抱える欠陥と、暗号化以外の有効策とは。
暗号化通信が当たり前となった2026年において、取り残されているのが電子メールだ。だが、電子メールは今なお、インターネットの重要な情報伝達手段の一つであり続けている。この矛盾した状況に疑問を抱く人は少なくないだろう。その問いに対する一つの明確な回答が、セキュリティエンジニアのソートック氏によって示された。
ソートック氏は、2026年1月4日に自身のブログ「soatok.blog」に掲載した記事の中で、現代における電子メール暗号化の問題点を論じている。同氏は長年にわたり情報セキュリティおよび暗号技術の分野に携わってきた人物であり、その指摘には技術的な裏付けがある。
同氏はまず、電子メールを封書ではなくハガキに例えている。つまり、電子メールは設計上、機密性を前提としておらず、通信経路上の関係者であれば内容を容易に閲覧できる仕組みだという指摘だ。にもかかわらず、電子メールは個人間の連絡にとどまらず、グループ配信や本人確認、業務連絡など多様な用途を担い、確実に届く信頼できる通信手段として利用されている。その結果、機密性の高い情報であっても電子メールでやりとりされることが常態化している。
だが、技術的に見れば電子メールは決して安全とは言えない。SMTPはもともとTLSを前提として設計されておらず、後付けで導入されたSTARTTLSも中間者攻撃に弱い。また、プロトコル自体がE2EEを前提としていないため、根本的な安全性の欠如を抱えている。
こうした問題を解決するため、エンジニアたちはPGPやS/MIMEといった電子メール暗号化技術を導入してきたが、ソートック氏はそれらが実運用では失敗していると指摘する。暗号化メールには鍵ペアの生成や公開鍵の配布、相手の正当性確認など多くの前提条件があり、一般ユーザーにとってハードルが高い。また、暗号化し忘れや自動引用による平文の「全員に返信」など、運用上のミスによって暗号化が無意味になるケースも後を絶たない。これらは利用者の不注意ではなく、電子メールという仕組みそのものの設計上の欠陥だと同氏は述べている。
そのためソートック氏は、暗号化ではなく、「Signal」に代表される秘匿性の高いメッセージングツールの利用を推奨する。これらのツールは常にE2EEが前提であり、平文で送信するという選択肢自体が存在しない。その結果、電子メールで頻発するような“うっかりミス”が構造的に起こりにくいという利点がある。
さらに同氏は、たとえ電子メール本文を暗号化しても、大量のメタデータが平文のまま送信される点を問題視する。ToやCc、件名、送受信時刻、添付ファイルのメタデータ、IPアドレスなどは暗号化されず、攻撃者は容易に通信の全体像を把握できてしまう。特に件名はメールの内容を端的に示すため、攻撃対象を絞り込む上で極めて有用な情報となる。
では、これほど明白な問題が存在するにもかかわらず、なぜ誰も解決できなかったのか。ソートック氏はその背景として、電子メールがオープンプロトコルでありながら、実際にはGoogleやMicrosoftといった巨大企業に事実上支配されている点を指摘する。これらの企業がTLSの導入や暗号化標準の適用を主導すれば一定の改善は期待できるものの、プロトコル自体の設計を根本から変更するには、多数の関係者の合意が必要となる。これが、電子メールのE2EE化が普及しない根本的な理由の一つだという。
最終的にソートック氏は、「電子メールの暗号化を気にする必要はない。無駄な努力だ」と結論づける。2026年現在、メール暗号化を本質的に改善しようとする政治的意志は見られず、当面この状況が変わる可能性は低い。電子メールが“ハガキ”から脱却し、完全なE2EE通信手段となる日は、まだ遠い未来の話になりそうだ。
上司X: 2026年になった今も、メールが完全に暗号化された安心できるツールになっていない理由についての話だよ。
ブラックピット: 何げなく毎日使っているメールですけど、確かに暗号化についてはスルーしてますね。
上司X: 昔からPGPの使用を訴えている人はいたけど、結局普及しないな。ソートック氏が言う通り、事前準備が面倒なんだよ。
ブラックピット: ですよねえ。メールをやりとりする多くの人たちとそれぞれで暗号鍵をやりとりして管理するって現実的ではないでしょうね。
上司X: Signalみたいに暗号化されている標準仕様になっていないからな。
ブラックピット: 結局のところ根本的な仕様がもう現実に沿っていないということですよね。だからといって、暗号化できないからメールを使うのをやめてSignalみたいなチャットツールに移行できるかといえば、難しいですよねえ。悩ましいところです。
上司X: そうなんだよな。メールはネットの中でもまさにレガシーな存在だけれど、これからも時代に沿ったリニューアルが施されるのも難しい状況で使われていくことになりそうだ。状況が変わるのは一体いつになるのだろうなあ……。
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昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
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中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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