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AIを使わない社員をどう動かした? ファストドクターの「Notion AI活用」3ステップ

ファストドクターは、多くの組織において課題となっている生産性向上に、全社で取り組み成果をあげている。本稿では、同社がどのようにAIを活用して情報共有の仕組みを構築したのか、活用事例とともに紹介する。

» 2026年02月17日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 社会の高齢化が進み、医師1人当たりが受け持つ患者数が増え、社会保障負担が増大する中、医療業界において生産性の向上が重要な課題となっている。

 「限られたリソースで、いかに効率良く、質の高い医療を提供できるかが重要だ」と語るのは、ファストドクターの西岡悠平氏(最高技術責任者)だ。

 本稿では、同氏による講演を基に、生産性の向上につながる社内情報共有の方法を3つのステップに分けて紹介する。

本稿はアイティメディア主催のオンラインイベント「変わる情シス」における、西岡氏の講演「ファストドクターが実践する 生成AI時代の社内情報共有」の内容を基に構成した。

ステップ.1 生成AIによる情報共有ループ

 生産性向上につながる情報共有体制を構築するために、ファストドクターがはじめに取り組んだのは「Notion」の導入だ。Notionをどのように広げ、どのような成果を得たのか確認してみよう。

Notionの導入

 西岡氏によると、ファストドクターでは内部統制を本格的に強化する前から、テクノロジー部門でNotionを使っていたという。その後、全社でセキュリティと管理性を見直す機会があり、一度はNotionのアカウント数を減らそうとした。そうした中で西岡氏はCEOとCFO(最高財務責任者)に対して、Notionの全社導入を提案した。

 「全社導入にこだわったのは、全従業員が同じツールを使えるようになることで『Notionは見られないからPDFで資料を送付してほしい』という情報のバリアがなくなるためだ。また、将来を見据えて従業員のスキルの底上げをするためにAI機能は必須だと考えた」と西岡氏は語る。

 また、西岡氏は当時を振り返り、「提案が承認された後のNotionへの移行には気合いが必要だった」と述べる。「Asana」などの他ツールも併用しており、それらのツールで行われていた業務をNotionに移行しなければならなかったためだ。移行の際は、意義を丁寧に説明し、移行ツールを使用したという。その結果、AsanaとNotionを一部の人数に限定して併用する案と比較して、大幅なコストカットを達成できた。

Notion AIで新しい情報共有の加速

 西岡氏は「Notion AI」機能について、「使用し始めて、情報共有のループを実現できた。これは予測できなかった嬉しい効果だった」と語る。同氏はNotion AIから情報取得できるところまでは予測していたものの、Notion AIを活用した情報発信や、それによるドキュメントの増加、情報取得から情報発信へのモチベーションの向上は予測していなかったという。

Notion AIによる情報共有ループ(出典:イベント講演資料)

 情報取得のために特に使用している機能として、西岡氏は「Notion AI Q&A」を挙げた。Notion AI Q&Aはワークスペース全体の情報を活用して、質問に対する答えを生成する機能だ。西岡氏の感覚によると、80%から90%という高い精度で回答を生成するという。Notionや「Slack」「Google Drive」の情報を活用でき、引用元が示されるため誤った回答も見つけやすい。

 情報発信の場面では、「ChatGPT」でもできることがNotionだけで完結する点が従業員の負担削減につながっている。ファストドクター内の情報をまとめてNotion AIに作らせ、たたき台を手直し、情報発信に役立てている。

 「Notion AIを活用して退職する従業員のための乾杯の音頭を作ることもできる。このようにNotion AIの導入により情報取得と情報発信のハードルが下がり、情報共有のループが生まれた。読んでもらえると分かっているからドキュメントを書くモチベーションが生まれ、ドキュメンが増加し、Notion AI Q&Aの価値が高まるという好循環を実現できた。これは事業スピードの向上にもつながっている」(西岡氏)

ステップ.2 全従業員が生成AIを使いこなすための施策

 ここまで確認してきた通り、Notionの導入によりファストドクターの内部にAIを活用した情報共有ループが生まれた。

 しかし、西岡氏は「情報共有ループを実現したとき、AIを日常的に使いこなす従業員と、AIを使わない従業員の二極化が起こっていることに気付いた。今後、AIを使いこなせないと生産性の観点で社会人として生き残るのが非常に厳しくなる。私は当初から全従業員にAIを使ってほしいと考えていた」とも語る。

 そこでファストドクターは、これまでAIを使っていなかった従業員にも活用を広げるための取り組みを進めた。

ツール拡充でAI活用を促す

 全従業員にAIを使ってもらうためにファストドクターが取り組んだ施策の一つが、AIツールの拡充だ。Notion AIの他に、「Gemini」と「Slack AI」を使える環境を整備した。Google DriveやSlackが日常業務に使われていたため、それらのツールの延長でAIを使えるようにする狙いがあったという。

 並行して生成AIのガイドラインを作成した。作成に当たっては、医療情報の安全な取り扱いを目的とする「3省2ガイドライン」などを参考した上で、生産性と安全性のバランスを取るように心掛けたという。

 各種のAIを使いこなすためのトレーニングメニューやワークショップの提供も開始した。さらに、Slack上に生成AI相談コミュニティーを作り、AIに関する疑問をいつでも質問できるようにした。

ワークショップの内容

 ここでは、ファストドクターで開催されたAI活用のためのワークショップの一例を紹介する。ワークショップは2年後のファストドクターの姿を想像するもので、「オンライン診療」「在宅医療」「医療経営支援」「地域医療」「ファーマ(製薬・流通)」「医療AI」「その他(自由テーマ)」という7つのテーマから1つを選び、生成AIを活用して30分で以下の6つの項目を1枚のスライドにまとめるという課題が出された。

  • 本日のテーマ
  • テーマの市場環境
  • 私たちの現状・強み・課題
  • 未来戦略
  • キャッチコピー
  • チームロゴ作成

 利用可能なツールは「Notion AI」「Gemini」「notebookLM」に限られ、テンプレートへの手入力は禁止された。

 以下の図はワークショップで実際に作成された1つの例だ。

ワークショップのスライド(出典:イベント講演資料)

 このようにファストドクターはワークショップなどの取り組みを活用して、生成AIを好きになってもらい、今日の業務から使えるというイメージを持ってもらうことに取り組んでいる。

 「ワークショップを通じて最初の一歩を踏み出すことで、多くの従業員がAIに対する偏見を取り去ってくれた。情シスを中心に、これらの取り組みのアンケートを取り、利用率を常に把握し、全従業員がAIを活用する組織を目指していきたい」(西岡氏)

ステップ.3 AIエージェント導入でさらなる未来へ

 西岡氏は、全従業員がAIを活用するようになった後の未来もイメージしている。それはAIエージェントの導入だ。

AIエージェントとは

 西岡氏はAIエージェントについて「今、AIエージェントに大きな注目が集まっている。生成AIはあくまで人間が使用するツールの一つだが、AIエージェントの場合、仕事を任せるとAIが自ら考えて仕事に対応してくれる」と語る。

 AIエージェントと一口にいっても、どこまでの機能を求めるかにより導入方法は分かれる。どの企業にも存在する業務を任せる場合は、サードパーティー製のAIエージェントで十分対応できるだろう。一方、独自性は高いものの複雑ではない業務を任せるためには、ローコードツールなどを活用したDIY(自作)が求められる。独自性が高く複雑な業務を任せる場合は、専門チームによるオーダーメイド開発が理想だ。

情報共有とAIエージェントの事例

 ファストドクターの場合、複雑な過程で起きえるオペレーション上のヒヤリハット対策や重大インシデント防止を目的とする定期的な振り返り会や勉強会にAIエージェントを活用している。

 AIエージェントを導入する前は、振り返り会と勉強会の開催には課題があったという。それは分析やレポートを作成する際に、取得すべき情報量が膨大で、情報が各ツールに分散しており、分析が難しいという課題だ。これをAIエージェントが解決した。

 「さまざまなツールの得意分野を生かすことで人間には実現できないスピードで分析やレポートを作成できるようになった」(西岡氏)

データの流れ(出典:イベント講演資料)

  現場から報告されるオペレーション上のインシデント疑いの投稿を「Claude」が要約し、振り返りや学習に活用するためのインシデント種別ごとの報告書にまとめている。「Google Apps Script」は、その情報を統合し、報告書から振り返りを支援するための統合報告書を作成するまでの流れに自動対応しており、統合報告書の内容を最終的にGeminiに読み込ませている。

 西岡氏は「人には作成が難しい重厚感のある質の高い分析レポートを作成できるようになった。AIエージェントにより、インシデント防止業務の質が向上し、効率化を達成できた」と語る。

生産向上につなげるために AI導入3つのステップ

 本稿で紹介した通り、ファストドクターは3つのステップで社内情報共有の体制を構築した。全社にNotionを導入して情報共有のループを実現し、AIを使わない従業員のための施策を展開した上で、AIエージェントを業務効率化に役立てている。

 これらの取り組みは、自社で生成AIやAIエージェントを活用する際の参考になるだろう。ファストドクターの取り組みの具体例を参考に、生産性向上のための施策をブラッシュアップしてほしい。

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