生成系AIは働き方をどう変えたのか 生産性、教育、管理職に与える影響
「ChatGPT」などの生成系AIは仕事に役立つという意見がある。AIを使ったソリューションも販売されている。だが、実際に効果があるのだろうか。
生成系AIは仕事に役立つのか。役に立つとすれば誰にどの程度の効果があるのだろうか。生成系AIを使った従業員とそうでない従業員を比較して効果を調べた研究結果を紹介する。
ソフトウェア企業に勤める5000人はどう答えたか
研究の対象となったのは「Fortune 500」のソフトウェア企業でカスタマーサポートを担当する5179人だ。通話データを測定対象とした。OpenAIが開発した最新のGPT(Generative Pre-trained Transformer)を利用したカスタマーサポートについて調べ、クレーム解決までにかかった時間や問題解決の質、サポートの結果を追跡した。
米経済研究所(NBER:National Bureau of Economic Research)やMITに所属する3人の研究者エリック・ブラインジョルフソン氏とダニエル・リー氏、リンゼイ・レイモンド氏は、各種の生成AIツールが生産性向上について実験室では良好な結果を出しているものの、実際の経済的影響に関する研究がほとんどないことから、今回の実証研究に取り組んだ。職場で大規模に展開された場合の生成AIの影響に関する最初の研究なのだという。
導入したAIツールは顧客との対話に特化したML(機械学習)ツールとGPTを組み合わせたものだ。カスタマーサポートエージェント(従業員)の仕事を手伝うためのものであり、顧客からの問い合わせに対する回答候補をリアルタイムに提示する。AIの提案を受け入れるか、あるいは無視して独自の回答を入力するかを選択できる業務だ。今回研究対象にカスタマーサポートを選んだのはこの分野のAI導入率が最も高いと考えられるからだという。実験を行ったソフトウェア企業では1件のサポートに要する時間が実験前では平均40分であり、比較的長かった。
グラフのX軸はAI導入前後の月数だ。0時点でAIツールを導入した。当然のことながらー10~0の生産性の変化はほぼ0だ。導入時点では、1時間当たり導入前よりも約0.3件多い苦情を解決できた。導入後3カ月で0.6件まで上昇し、その後0.6件をわずかに下回る水準に落ち着いている。
つまりAIツールを利用したカスタマーサポートが1時間当たりに解決した顧客問題の数が13.8%増加したことになる。理由は幾つかある。複数の顧客対応チャットに同時に参加できる従業員が、1回のチャットに費やす時間が約9%短縮し、1時間あたり約14%多くのチャットを処理できた。
誰の役に立ったのか、副作用はなかったのか
得られたデータを従業員の勤続年数別に分析したところ、経験が浅くスキルの低い従業員で効果が最も大きく、約35%向上した。だが、成績上位者や最も経験のある従業員にはほとんど影響がなかった。また、入社2カ月の従業員がAIツールを使用した場合、入社6カ月の従業員がAIツールを使用しなかった場合と同程度の成果を上げた。新人や低スキルの従業員は、高スキルの従業員よりも学ぶべきことが多く、AIツールによって、より経験豊富な従業員のスキルや行動をより早く取り入れることができる可能性がある。従業員の会話をテキスト分析した結果は、このような解釈を裏付けている。
AIツールを導入後、全ての従業員についてコミュニケーションのパターンが変化した。変化の大きさは生産性の低い従業員の方がより大きかった。なぜだろうか。企業で最も生産性の高い従業員のワークスタイルとアウトプットを基にAIが提案したため、より良い行動パターンが、不慣れでスキルの低い従業員にも広がったためだと考えられる。つまり生産性の高い従業員が持っている「暗黙知」を学習でき、それを他の従業員に伝達できたのかもしれない。
研究結果によれば、最も生産性の高い従業員が顧客の説明を受けた後、根本的な技術的問題を見つけ出すスピードは、生産性の低い従業員の2倍に達することが分かった。最も生産性の高い従業員の例(やりとり)を使ってAIツールを訓練したことで、問題解決に役立つような特定の質問を顧客に投げ掛け、解決策と結び付けることを学習できた。
マネジャー代わりにも使える
直接顧客と向き合う従業員以外に、マネジャー代わりにも役立ちそうだ。AIツールは人間のマネジャーよりも頻繁に部下にフィードバックを与えることができたからだ。入社したばかりの従業員や成績の悪い従業員は、管理職のレビューに従うだけでなく、電話をかけるたびに良い例を反復できたことで、AIツールを使わない場合よりも早く仕事の進め方を改善できた。
顧客にもメリットがあった。AIを活用した従業員と接した場合、そうでない場合と比べて、顧客はポジティブな感情を示しやすく、従業員が上司に助けを求めることも少なかったという。顧客満足度が悪化することはなかった。
さらにAIを使うことで従業員の離職率も下がった。業務における顧客とのやりとりを改善でき、ストレスが減ったためか、AIツールを利用した従業員の離職率は、利用しなかった従業員の離職率よりも8.6%低かった。
実験から分かったことをまとめると次のようになる。
生成AIは熟練労働者の暗黙知を非熟練労働者に伝えることで「生産性の底上げ」ができ、人間のマネジャーよりも「部下の育成」に役立ち、従業員の「離職率」も下がる。「顧客の評価」は下がらない。
今回の研究の計測期間は2020年11月~2021年2月(5000人へ徐々に展開した)。GPTを使っていない人員のデータも対照群として集めた。
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