新SAP認定試験は「AIの利用OK」 実践型の新方式で備えるべきことは?
SAPの認定試験が、知識を問う従来型から実践型へと大きく変わった。さらに一部の試験ではAIの利用も可能になった。30年続くSAP認定試験で、知識よりも求めていることとは。
SAPは、認定試験の一部でAIツールの利用を認めている。さらに、従来の多肢選択式を中心とした試験から、実際のSAPシステムを操作し、業務を想定したシナリオに対応する実践型の評価へと移行した。
その狙いは、AIを使わずに知識を再現する能力ではなく、AIやドキュメントなどのツールを適切に活用しながら、現実の業務課題を自ら判断し、解決へと導く能力を評価することにある。
ここが変わったSAP認定試験 「知識」より「実践力」を評価
SAPは2025年11月から実践型の認定試験を導入し、対象を段階的に拡大してきた。2026年第2四半期の「SAP Learning」のリリースノートでは、SAP Certificationの全ポートフォリオが実践型の評価へ移行したとされている。現在は、各認定資格が「system-based」か「scenario-based」かを確認できる仕組みも整えられている。
今回の変更は、単に試験を実技に置き換えたものではない。従来の試験では、SAPの製品や機能、設定方法などに関する知識をどれだけ身に付けているかを問うものだった。新方式では、そうした知識を実際の業務課題にどう適用し、解決につなげられるかが重視される。
SAPは2026年5月の公式記事で、「knowledge recall」から「applied capability」へ移行したとしている。100以上の認定資格で従来の多肢選択式試験をscenario-based、system-basedの評価へと置き換え、すでに10万件以上の新方式による試験を実施したという。
SAPの実践型試験 実務能力を評価する「2つの方式」
では、実際の試験はどのように変わったのか。ポイントは、単にAIを使えるようになったことではない。具体的な違いは、「system-based assessment」と「scenario-based assessment」という2つの試験方式にある。
「system-based assessment」では、受験者がSAPシステムで実践的なタスクに取り組み、実際に設定や処理をして課題を完遂する。一方、「scenario-based assessment」では、現実の業務を想定したシナリオに沿って対応する。SAPによれば、AIアバターとのロールプレイによって、SAPソリューションを提案したり、アーキテクチャについて助言したりする形式もある。
新方式では、評価の考え方そのものが従来とは異なる。従来型の試験では、「この要件に対して正しい設定はどれか」といった問いに対し、提示された選択肢から正解を選ぶものだった。新方式では、知識を実際の業務に適用し、問題を解決するところまでが求められる。システムを操作しながら必要な設定をし、期待した結果が得られなければ原因を特定する。必要に応じてドキュメントなどを参照し、設定を見直して再検証する。
問われるのは、正しい知識を持っているかだけではない。その知識を状況に応じて使いる能力へと評価の軸を移している。
「AIを使ってOK」の理由 SAP認定試験が問う新たな実務力
今回の試験方式の移行で、大きく変わったのがAIの扱いだ。
資格試験では通常、試験中に外部の情報を調べたり、生成AIに質問したりすることは想定されていない。だが、SAPの新しい実践型試験では、オープンブック形式を採用している。
SAPの公式情報によれば、「SAP Help Portal」や「SAP Learning」「SAP Community」などのリソースを利用でき、対象となる試験では「SAP Joule for Consultants」などのAIツールも利用できる。一見すると、試験の難易度を下げるようにも見える。だが、SAPの狙いはむしろ逆だ。
実際の仕事では、分からないことを調べ、公式ドキュメントを確認し、AIに質問する。複数の情報を照らし合わせた上で、最終的に何を採用するかを自ら判断する。こうした仕事の進め方が一般的になれば、試験で何も見ずに答える能力を測るだけでは、実務能力を十分に評価できない。SAPが試験に取り入れようとしているのは、まさにこうした現実の仕事の進め方だ。
ここで重要なのは、AIを使えることと、AIを使って仕事ができることは同じではないという点だ。
例えば、「このSAPの設定方法を教えて」とAIに尋ねれば、回答は得られるかもしれない。だが、その回答が目の前の要件に適しているかは別問題だ。既存システムとの整合性は取れているのか。想定する業務プロセスに合っているのか。別の設定を変更する必要はないのか。実際にシステムへ反映した結果、期待した動作になっているのか。
求められるのは、AIの回答をそのまま使うことではない。その内容を評価し、必要に応じて修正し、実際の成果につなげる能力だ。
SAPのsystem-based assessmentでは、タスクの完了状況やシステムの出力などを基に評価する。一方、scenario-based assessmentでは、回答の正確性や完全性、効率性などを評価する。問われるのはAIを使ったかどうかではない。AIを含むツールを適切に使いながら、自ら判断し、課題を解決できるかどうかだ。
AI時代に資格は何を証明する? SAPが考える「認定」の意味
SAPの認定制度は2026年で30周年を迎える。これまで資格試験は、製品や機能について一定の知識を身に付けていることを証明する認定制度だった。だが、生成AIの登場によって、その前提が変わりつつある。
必要な情報を探すことは以前より容易になり、分からないことがあればAIに質問して回答を得られるようになった。だからといって、専門知識の重要性が失われるわけではない。むしろ、AIの回答が正しいのか、目の前の状況に適しているのかを判断するには、基礎となる知識が欠かせない。一方で、資格が証明すべき能力の重心は変わり始めている。
重要なのは「知識をどれだけ覚えているか」ではなく、「必要な情報を探し、AIなどのツールを適切に使い、自ら判断して問題を解決できるか」だ。
もっとも、実践型試験に変えれば、それだけで仕事ができることを証明できるわけではない。実際のSAPプロジェクトでは、顧客との調整や社内外の関係者とのコミュニケーション、予算や納期、既存システムとの兼ね合いなど、試験環境では再現しにくい要素が数多くある。また、AIを利用できる試験では、AIの回答品質や使い方によって結果が左右される可能性もある。
「AIを使って仕事をする能力」を、どこまで公平かつ再現性を持って評価できるのか。これはSAPに限らず、今後の資格制度が向き合うべきテーマだろう。試験を現実の仕事に近づけるほど、「試験で実践力を示すこと」と「実際のプロジェクトで成果を出すこと」の間にある違いも、改めて問われる。
AIを禁止する資格から、AIと働く人を評価する資格へ
SAP認定試験の変更を、単なる試験方式の変更として捉えれば、「選択式から実技になった」という話で終わる。だが、その背景にあるのは、資格が証明すべき能力そのものの変化だ。
AIによって、知識を検索し、整理し、回答を得ることは以前より容易になった。その環境で何も見ずに正解を選べることだけを測っても、実際の仕事で求められる能力とは一致しにくい。SAPが選んだのは、AIを試験から締め出すことではなく、AIや公式ドキュメントを利用できる環境で、現実の業務に近い課題を解決できるかを評価する方法だ。
2026年5月時点で、SAPは既に10万件以上の新方式試験を実施したとしている。30年続いてきた認定制度は今、知識を「持っていること」から、知識やAIなどのツールを「使って成果につなげること」へと、評価の軸を移しつつある。
資格試験からAIを排除するのではなく、AIとともに仕事を進める能力を評価する。SAPの認定試験改革は、生成AI時代にIT資格が何を証明すべきなのかを考える上でも、考えさせられる事例になりそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
編集部コラム
こんなメディアも見られています
キーマンズネットに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「パスキーはワナだ、使うな」にネット騒然 プロが“待った”をかけるワケ:902nd Lap
-
2
今、IT資格を取るならどれ? ランキングに見る「急浮上の資格」と「不動の資格」
-
3
「Gemini Notebook」で始める「AI×自動化」実践ガイド
-
4
大田区、年1000時間の問い合わせを「AI電話」で削減できるか? 実証実験で見えた課題
-
5
なぜ、突如「PHPパニック」は起こったのか? 緊急メンテ続出の理由とその後
-
6
48年も愛された名作CPU「Z80」を、引退に追い込んだ“抗えない事情”
-
7
止まらない不正アクセス、広がる情報漏えい 大手企業・公的機関を襲った10事案
-
8
「言い訳文化」から脱却のNECが足立区に伝授した生成AI活用術とは データ活用“逆算”の鉄則
-
9
Microsoftの“あのキャラ”がまさかの復活? 公式「X」乗っ取り事件の珍騒動:901st Lap
-
10
磐田市、財務会計業務への生成AI導入実証 年間590時間、約177万円の削減効果を確認
キーマンズネット SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
キーマンズネットをフォロー