情シスは「外注の準備」をする暇もない? 7割が負担減でも進まない理由
外部委託で負担が軽くなると分かっていても、なぜ踏み出せないのか。壁は費用だけではない。任せる範囲を切り出すための業務整理そのものが、後回しになっている。調査から情シスの実態を探る。
情シス業務を外部に任せた回答者の72.7%が、負担が軽減したと答えた。それでも外部委託は簡単には進まない。背景には費用不足だけでなく、日々の問い合わせや障害対応に追われ、委託に必要な業務整理にも手が回らない事情がある。調査から、情シスを縛るもう1つの負の循環を追う。
キーマンズネットは「情シスの業務負荷と運用体制に関する調査/2026年」(実施期間:2026年7月30日~8月23日、回答件数:228件)を実施した。前編では、情シスの人数や担当体制、負担が重い業務と後回しになっている業務を取り上げた。後編では、業務が後回しになる理由とその影響を確認し、負担軽減の選択肢の1つである外部委託の効果と、導入を阻む壁を見ていく。
「何から着手すべきか分からない」は8.9%
まず、特に負担が重い業務についての設問に回答した118人に、選択の理由を聞いた。「突発的な対応が多く、予定を立てにくい」が55.9%で最も多く、「手作業や個別対応が多い」が46.6%、「特定の担当者に知識や業務が集中している」と「専門的な知識や判断が必要になる」がともに42.4%で続いた(図1-1)。「担当者が不足している」は37.3%、「対応件数が多い」は36.4%だった。負担を生んでいるのは仕事の量だけではない。予定を崩す割り込みや、簡単には他の人へ渡せない仕事の性質も影響している。
次に、前編で取り上げた「IT資産台帳や手順書、社内ルールの整備」「ユーザー部門のIT導入や業務改善支援」「セキュリティ対策や監視、インシデント対応」などが後回しになる理由を、該当する112人に聞いた。上位は「担当者が不足している」(49.1%)、「日々の問い合わせ対応を優先せざるを得ない」(48.2%)、「障害やトラブルへの対応を優先せざるを得ない」(42.9%)、「必要な知識やスキルを持つ担当者がいない」(32.1%)だった(図1-2)。
一方、「何から着手すべきか判断できない」は8.9%にとどまる。何をすべきか分からないというより、必要な仕事を認識していても緊急性の高い業務を優先せざるを得ない状況が見えてくる。
後回しにするほど属人化が進む
業務が後回しになることで生じている影響では、「特定の担当者への依存が強くなっている」と「手順書や社内ルールが更新されていない」がともに40.2%で最多だった。次いで「障害やインシデント発生時の対応に不安がある」(37.5%)、「「セキュリティ上の問題や脆弱(ぜいじゃく)性への対応が遅れている」」(34.8%)が続いた(図1-3)。「現時点で明確な影響は出ていない」は5.4%にとどまった。
前問では「業務の進め方が特定の担当者に依存している」が後回しの理由として24.1%を占め、この設問では「特定の担当者への依存が強くなっている」が影響の最多となった。2つの設問から因果関係までは断定できないが、属人化が仕事を遅らせ、その先送りがさらに属人化を深めている可能性がある。問題は、業務改善やIT戦略といった「攻めのIT」が進まないことだけではない。手順書が更新されず、セキュリティ対応も遅れることで、現在の運用を安定して続ける力まで損なわれる懸念がある。
外部委託で72.7%が負担軽減 ただし利用は「穴埋め」寄り
こうした状況を変える方法の1つが、外部の事業者やサービスの活用だ。情シス業務に関わる134人に現在の委託状況を聞くと、「外部には任せていない」が37.3%だった。委託している業務では「ネットワークやサーバ、クラウド基盤の運用」(32.8%)と「セキュリティ対策や監視、インシデント対応」(28.4%)が多く、「PC、スマートフォンなどの調達や設定、端末管理」(14.2%)、「社内からの問い合わせやヘルプデスク対応」(13.4%)、「アカウントやID、アクセス権限の管理」(9.0%)が続いた(図2-1)。外部委託は、専門性や継続的な対応が求められるインフラ、セキュリティ領域を中心に利用されている。
提示した業務のいずれかを外部に任せていた77人に理由を聞くと、「社内に必要な知識やスキルを持った人材がいなかった」(42.9%)、「社内で担当できる人員が不足していた」(40.3%)、「担当者の負担を軽減したかった」(32.5%)が上位だった。「障害やセキュリティ上のリスクを減らしたかった」は24.7%で、「自社の担当者を企画や業務改善に集中させたかった」は19.5%だった(図2-2)。現状では、戦略的に仕事を組み替えるというより、社内で不足する人員や専門性を補う目的が強い。
外部委託を実施した回答者には、負担軽減の効果が表れている。「ある程度軽減した」が55.8%、「大きく軽減した」が16.9%で、合計72.7%が負担の軽減を感じていた(図2-3)。一方、「あまり軽減していない」は18.2%、「外部との調整が増え、かえって負担が重くなった」は5.2%だった。外部委託そのものが自動的に負担を減らすわけではない。委託範囲や判断権限、問題発生時の連絡経路が曖昧なら、社内担当者に新たな調整業務が生じる可能性がある。
外注したいのに、外注の準備ができない
現在は主に社内で対応しているものの、今後外部に任せたい業務を134人に聞いた。上位は「セキュリティ対策や監視、インシデント対応」(32.8%)、「ネットワークやサーバ、クラウド基盤の運用」(29.1%)、「社内からの問い合わせやヘルプデスク対応」(27.6%)だった(図3-1)。「業務アプリケーションを中心としたシステム開発」は14.9%、「データ基盤構築、データ整備」は13.4%で、DXやデータ活用に関わる領域にも一定の委託需要が見られた。一方、「外部に任せたい業務はない」は23.1%だった。
外部に任せたい業務があるにもかかわらず、現在は任せられていない理由を該当する83人に聞いた。最多は「委託費用を確保できない」の49.4%だった。これに「現在の業務手順や情報が整理されていない」(37.3%)、「社内固有の事情や業務知識が必要になる」(33.7%)、「適切な委託先を見つけられない」と「セキュリティや情報漏えいに不安がある」(ともに31.3%)、「外部に任せても負担が減るか分からない」(30.1%)が続いた(図3-2)。費用だけでなく、契約以前の業務整理や知識の切り出しにも壁がある。
自由回答からは、その壁がより具体的に見えてくる。1つ目は、日々の対応に追われる中で業務の属人化やブラックボックス化が進み、外部委託に必要な情報を整理できていないことだ。「今はオンプレミスで運用しているが、次期更新時にクラウドサービスに移行する。その際、整理できていない部分の移行に不安がある」「人数が少ないため導入にかかわった本人のみ運用をおこなう体制のため属人化されている」といった声があった。「属人的業務の棚卸を行い、その手順の一般化を進めている。同時に新しいツールやAIの活用も検討しているが、そもそもの業務の深さや前後のつながりが複雑で進行が遅い」と、脱却に着手しながらも進まない実情も寄せられた。
2つ目は、社内固有の事情や業務知識を外部へ伝える手間だ。「全く業務内容を知らない第三のパートナーに業務委託するのは時間、金とも無駄である」「リソースが少ないので、トラブル発生時に対応に時間がかかり、自己完結する方が早い場合がある」との回答があった。外部委託によって将来の負担を減らせるとしても、要件や判断基準を説明する初期負担を乗り越えられず、「自分で対応した方が早い」という判断に戻ってしまう。
3つ目は、委託費用の確保と経営層の理解だ。「経営層が理解できず予算化されない。コストを渋る」「経営者に、ただでできることには限界があることを知って欲しい」「予算が付かないことで、全てが後回しになっている。増員が認められないため、できることが増やせない」といった声が寄せられた。外部委託の費用だけを見れば支出は増える。現在の業務を続けるコストや、後回しによって高まる運用・セキュリティ上のリスクまで含めて説明できなければ、予算化は難しい。
外部委託によって負担が軽減した回答は7割を超えた。それでも、委託に必要な業務手順や情報が整理されていないため、実行に移せない企業がある。前編で最も後回しになっていたのも、まさに台帳や手順書、社内ルールの整備だった。時間をつくるために外部へ任せたいが、外部へ任せる準備をする時間がない。これが情シスを縛るもう1つの負の循環だ。
この循環を断つには、委託先を探す前に、どの作業を切り出し、どの判断を社内に残すのかを整理する必要がある。全てを一度に整備するのではなく、対象を定型化しやすい業務に絞り、手順と責任分界を明文化して小さく始める方法も考えられる。ただし、その準備まで多忙な担当者個人に委ねれば、再び後回しになりかねない。業務整理のための時間と予算を組織として確保できるかどうかが、外部委託を本当の負担軽減につなげる分かれ目になる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
IT担当者300人に聞きました
業務課題、注目のITツール……。話題には上るけれど、実際のところはどうなのか。キーマンズネット会員の声で知る、隣のカイシャのIT事情。読者のホンネを紹介します。
関連記事
こんなメディアも見られています
キーマンズネットに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Googleの自動化ツール「Workspace Studio」×Gemini、4つの業務効率化アイデア
-
2
M365 Copilotを配っても「使われない」 でもAI活用が進んだ福島県庁の"逆張り"戦略
-
3
「Copilot、Word文書まとめて」で社内全滅? 勝手に増殖するAIウイルスで大騒ぎ:895th Lap
-
4
「Gemini 3.8 Flash」の狙いは“賢さ”ではない? 発表から見えた3つのポイント
-
5
ゼロから分かる「Python in Excel」 プログラミング未経験の筆者がデータ分析してみた
-
6
情報処理安全確保支援士試験、10月6日に申込み開始 CBT化で受験対策はどう変わる?
-
7
情シスは「外注の準備」をする暇もない? 7割が負担減でも進まない理由
-
8
SOAPはRESTに負けたのか? 「古いAPI」を残すか見直すか
-
9
新SAP認定試験は「AIの利用OK」 実践型の新方式で備えるべきことは?
-
10
【SCS評価制度と国際標準を両立】サプライチェーンを強靭化する次世代TPRM戦略『UpGuard』実演デモ
キーマンズネット SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
キーマンズネットをフォロー