AIを入れても会社の仕事は変わらない AIに仕事を任せられない「根本原因」
業務での生成AI活用が進む中、既存システムがAIとの連携に対応しておらず、本格的な業務への組み込みに足踏みする企業は多い。AI搭載ロボットなどフィジカルAIの社会実装も急務だ。これらの課題に挑む企業を、通信技術とAIを融合したセキュアなインフラとシステムの「AIレディ化」で支援しているのがKDDIだ。
高度なAI技術も、現場の業務に組み込まなければ価値は生まれない。現状、複数システムを横断して自律的に処理を行うAIエージェントの導入率は7.1%にとどまるという。その要因は、企業のシステム移行の在り方にある。
クラウド移行を進める反面、アプリケーションやデータの構造は旧来のままで、AIエージェントが必要なデータにアクセスできない状態にある企業は多い。解決にはサイロ化したデータを集約し、APIやMCP(Model Context Protocol)などの標準インタフェースでAIが安全に読み書きできる環境へのモダナイゼーションが不可欠だ。
KDDIの北条裕樹氏(AIインテグレーション事業推進部長)は、「データを統合した基盤上で、AIが自ら必要なデータにアクセスし、システムを操作して業務を完結できる状態こそがAIレディ化」だとし、それを進めることが、AI活用の成否を分けるインフラの条件だと説明した。
KDDIでは、セキュアな基盤構築から、データを集約してAIが自律的に動く土台を作る「AIレディ化」、AI搭載ロボットの現場導入まで、AIの安全な社会実装を一気通貫で支援する体制を整えている。同社の部門責任者らが、デジタルとフィジカルをつなぐAI社会実装の最前線と、独自のインフラ戦略やAIエージェントの実装アプローチを語った。
AIに仕事を任せるために、まず必要なのは「AI」ではない
本間大貴氏(先端ビジネス推進部長)は、生成AI活用のコモディティ化が進む時代において、通信事業者として培った全国規模のインフラや顧客接点、それを支える人財こそがKDDIにとっての「壊されにくい価値」だと説明する。
同社は2026年1月、大阪府堺市に「大阪堺データセンター」を開設した。NVIDIAの最新AIチップ「GB200」を大規模導入し、水冷環境で高発熱に対応する。計算資源の提供にとどまらず、AIで活用するデータを国内のセキュアな環境で保管、処理する「ソブリン性」の確保も重視している。機密データを海外のパブリッククラウドに出さずに完結できる環境は、日本企業にとって重要な意味を持つ。
さらに同社は、2026年5月発表の中期経営戦略で「デジタルベルト構想」を公表した。大阪堺データセンターを中核に、全国の基地局や海底ケーブル、低軌道衛星通信を一つの通信網として統合するものだ。全国どこからでも遅延なくデータを処理できる環境を整備し、自動運転やロボット遠隔制御など低レイテンシが求められるAI活用を支える。
Google Cloudとの戦略的協業でAIによる価値創出に注力
この強固なインフラの上で、KDDIはGoogle Cloudとの戦略的パートナーシップによる新たな価値創出に取り組んでいる。
B2C領域では、コンシューマー向けアプリ「Buffmee」(バフミー)をリリースした。出版社などのコンテンツホルダーが持つ情報(雑誌のバックナンバーなど)だけを情報源にして、ユーザーの質問にチャット形式で答える他、ポッドキャスト形式の音声コンテンツを生成する。権利を保護した状態でコンテンツをAIサービス化でき、ユーザーは出どころが明確な情報を得られる。
B2E(Business to Employee)領域では、社内で『Gemini Enterprise』を活用し、業務を効率化している。B2B領域では「Gemini on GDC」(Google Distributed Cloud)のテスト運用を開始した。ユーザーが入力したデータがパブリッククラウドに出ないクローズドな環境を構築し、情報漏えいリスクを懸念せずに生成AIを活用できる基盤の提供を目指している。
Google Cloudとの取り組みはデジタル空間にとどまらない。KDDIは先の中期経営戦略の中で、AIを活用して労働力を補う「AI労働力」と、生活の質を高める「AI生活力」の創出を掲げている。その実現に向けて、物理デバイスと「Google Gemini」を連動させるプロジェクトが進行中だ。
例えば、アバター技術を持つスタートアップのAVITAと共同開発した接客用ロボット「HINATA」(ヒナタ)は、対話エンジンをGeminiに移行し、ユーザーと親しみやすい自然な対話が可能になった。小売や福祉など多様な分野への実装を目指す。
現場作業向けには「AIグラス×Gemini」の実証を進める。撮影した設備写真や会話音声をGemini on GDCに送って解析させ、点検レポートを自動作成する。機密情報を含む写真や音声を外部に出さずに、報告書を作成できる。
小売業向けにはスタートアップのMUSEと連携し、AIカメラとアームを搭載したマルチユースロボットを検証している。人に代わって作業するだけでなく、店内を巡回して欠品を調べ、顧客属性を分析する。その結果に基づく案内をディスプレイに表示し、店舗運営の効率化を支援するとともに、リテールメディアとしても機能する。
こうした個別のプロジェクトを進めるほか、Google DeepMindの「Trusted Tester Program」に参画し、ロボットの全身制御を可能にする最新基盤モデル「Gemini Robotics 2」をいち早く検証できる環境も整えている。
グループの総力を結集し、業務にAIを組み込むAIレディ化を支援
冒頭で記載したAIレディ化において、KDDIはグループ一体となって企業を支援する体制を整えている。KDDIアイレットが基盤設計から開発までを担い、グループ企業のFLYWHEELが高度なデータクレンジング技術を用いて、散在する情報をAIが処理できる形式へ整理する。これらの専門技術と、KDDIの広域仮想閉域網やセキュアなインフラを組み合わせ、AIを実業務へ組み込むためのシステム基盤を一気通貫で提供する。
システムのAIレディ化が進むと、AI実装の主役はIT部門から現場の業務部門へと移る。KDDIでは、現場担当者が自らエージェントを作る「市民開発」が成果を挙げている。
例えば、広報部門が構築した「広報PR AIエージェント」は、プレスリリースのプラン策定からドラフト作成、リリース後の反響分析までを自動化している。広報担当者がGemini Enterpriseの開発ツールを使い、ノーコードで自らシステムを構築した。
もう一つの事例が、「事業企画立案エージェント」だ。「Microsoft SharePoint」などに蓄積された社内データと市場動向などの外部データを組み合わせて分析し、企画書のドラフトを自動生成する。システム内に役員を模したAIペルソナを設け、AIが役員の観点で何度もレビューと修正を繰り返し、企画の質を高めていく。
「現場の業務担当者が、AIを活用して直面する課題を解決し、自ら業務変革を推進していく──私たちはすでにそうした時代を迎えています」と北条氏は強調する。
AIと広域仮想閉域網を組み合わせて現場作業をサポート
特定業種の課題に特化した事例としては、Xactiと共同で、光ファイバー芯線接続作業のAI支援プロジェクトが進行している。従来は現場の作業員が送信したカメラ映像を監督者がリモートで確認していた。しかし、極めて細い芯線の識別は困難で、接続ミスのリスクや作業効率の低下が課題となっていた。
これを解決するため、作業員に高精細なウェアラブルカメラを装着させ、データを広域仮想閉域網(KDDI Wide Area Virtual Switch 2)を通じてGemini on GDCへ安全に送信する仕組みを構築した。データが外部に漏れない閉域環境内でAIエージェントが映像をリアルタイムに解析し、監督者の確認作業を支援する。将来的には正しい芯線の選択と接続の判断をAIが完全に代替することを目指している。
企業がAIを実業務に実装していくためには、インフラの整備やデータの集約、システムのモダナイゼーションなど、さまざまなハードルを超える必要がある。KDDIは通信事業者としてのリソースを活用し、パートナーと連携しながら、そのプロセスを包括的にサポートしていく。
「AIの導入自体を目的とするのではなく、業務や事業の成長に確実に貢献させることが重要です。KDDIは通信を軸としたインフラからサービスの提供、システムのAIレディ化、運用に至るまで、お客さまに寄り添い、安全/安心なAIの実装を全力で支援して参ります」(北条氏)
本稿は、2026年7月30~31日に開催された「Google Cloud Next Tokyo」(主催:グーグル・クラウド・ジャパン)の講演「通信×AI が切り拓く デジタルとフィジカルがつながる未来」における内容を基に、編集部で再構成した。
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