今日から始める「AIエージェント」入門 ~Gemini Enterprise編~
AIエージェントで業務を自動化したい。ただ、開発や社内データとの連携と聞くと難しそうに感じる。実際にはどこまで業務を任せられるのか。「Gemini Enterprise」を例にとり、機能と利用の仕組みを整理する。
AIエージェントを使った業務自動化が現実味を帯びてきた。社内の情報を探して調査結果をまとめ、必要な作業まで進めてもらう。Microsoftの「Copilot Studio」やSalesforceの「Agentforce」など、AIエージェントの作成や利用を支援する企業向けのツールも登場した。
ただ、使ってみたいと思っても、エージェントを開発して社内システムにつなぐとなると難しそうだ。自分たちで一から作らなければならないのか。それとも、用意された機能だけで仕事を任せられるのか。ツールが担う役割と人が整える領域が明確でなければ、活用イメージを描きにくい。
本稿はGoogle Cloudの「Gemini Enterprise」を例にとり、用意されたエージェントの利用から自社用エージェントの構築・管理まで、どのような業務を任せられるかを整理する。
AIエージェントは、生成AIモデルだけでは動かない
そもそも、AIエージェントはどのような要素で構成されるのか。グーグル・クラウド・ジャパンの岡本充洋氏(アプライドAIエンジニア)は、主な構成要素として「生成AIモデル」「RAG」「オーケストレーター」「ランタイムハーネス」の4つを挙げた。
生成AIモデルは大量のデータを事前に学習し、入力に対して推論して回答を生成する。誤字を含む質問でも文脈を補って回答できる一方で、モデルが学習した知識だけでは最新の情報や社内固有の情報を把握できない場合がある。そこで、Webや社内システムから必要な情報を取得して回答の生成に使うのがRAG(検索拡張生成)だ。
オーケストレーターは前提や目標、会話の記憶を保持し、処理の進め方やツールを呼び出す順序を管理する。旅行先の天気と昼食に適した店を尋ねられた場合は、過去の会話から行き先を把握して、天気や店舗の情報を調べて回答を組み立てる。
ランタイムハーネスは外部ツールの呼び出しやコードの実行、入出力を保護する仕組みだ。岡本氏は、ツールを呼び出して計算結果を外部システムに反映させる例や、社内のセキュリティ規定に基づいて顧客情報への回答を制限した例を紹介した。
AIエージェントは1つだけを利用するわけではない。岡本氏は、実際の業務では数十から数百のエージェントを使い分ける必要があると説明した。商品の出荷なら、在庫確認、引き当て、出荷指示といった役割をそれぞれのエージェントが担い、全体を統括するアシスタントエージェントが処理をつなぐ。
「単体のAIエージェントであっても内部の仕組みは複雑で、全体を統括するのも容易ではありません。どうエージェントを呼び出せばよいかなどの課題もあります。それらを解決するのがAIエージェントのプラットフォーム、すなわち、Gemini Enterpriseです」(岡本氏)
「従業員の入口」と「開発・運用基盤」を分けて理解する
Gemini Enterpriseは、エージェント群を開発・利用するための統合プラットフォームだ。岡本氏によると、これまでに何度かブランディングが変更されており、以前から利用しているユーザーほど混乱しやすいという。
講演では、Gemini Enterpriseを「Gemini Enterprise app」(以下、app)と「Gemini Enterprise Agent Platform」(以下、Agent Platform)の2つのサービスに大別して説明した。
appは、従業員向けAIエージェント群と、それらを利用するフロントエンドを提供する。Webやモバイルの画面からエージェントにアクセスし、データの検索や業務の依頼ができる。
一方、Agent Platformはエージェントを開発して実行環境に展開し、管理・監視する基盤だ。AIモデルの選択やエージェントの実行に加え、ガバナンスや実行状況を把握する機能を備える。
「ポイントを一言で述べれば、Agent Platformは『セキュアで高品質なエージェントを開発・運用するためのプラットフォーム』であり、appは『エージェントを利用する従業員の生産性を高めるサービス』です」(岡本氏)
この2つの役割を押さえることで、Gemini Enterpriseを導入、利用、管理する際に、どの機能をどう扱えばよいのかを判断しやすくなるという。
チャットで頼むだけでは終わらない――appで使えるエージェント
appの主な機能は「エージェントにアクセスするためのUI」「構築済みのエージェント群」「データストアの横断検索」「ローコードによるエージェント作成」の4つに整理される。
Gemini Enterpriseにログインすると、チャット形式のUIを表示する。岡本氏は、この入り口となるエージェントを「アシスタントエージェント」と呼び、さまざまなエージェントや機能、データストアへのアクセスを支援すると説明した。
講演時点で試験提供中の「マルチエージェントプランニング」は、複数のエージェントにまたがる処理をアシスタントエージェントに任せられる。在庫確認、引き当て、出荷指示の各エージェントを組み合わせた業務なら、利用者がそれぞれに指示せずにアシスタントエージェントが処理をつなぐ。
appでは、自社で作成したエージェントを呼び出すだけでなく、構築済みのエージェントも利用できる。「Deep Research Agent」はWebサイトやビジネスデータを多段階で検索し、詳細なレポートを作成する。「AlphaEvolve Agent」は、達成したい目標や評価基準などを基に、アルゴリズムやプログラムの改善案を探索する。
長時間のタスクを任せる「Sparkエージェント」も紹介された。講演時点では早期アクセスプログラム中で、自然言語で依頼した複数ステップのワークフローをバックグラウンドで実行するものだ。
「自然言語でやりたいことを伝えると、チャットのように一度きりではなく、24時間365日稼働するタスクを作成できます」(岡本氏)
講演資料では、Sparkエージェントは企業データとWebデータを使って動作し、重要な判断にはユーザーが介在できると説明している。
社内データへの接続については、Google WorkspaceやGoogle Cloudのサービスに加えて、外部のSaaSやデータベースなどに接続する100種類以上のコネクターを紹介した。接続したデータストアを横断して検索・参照することで、情報がどのシステムにあるのかを意識せずに探せるようにする。
「エージェントデザイナー」は、従業員が自然言語やドラッグ&ドロップでエージェントやワークフローを作成、テスト、共有できる。Gmailの受信やカレンダーへの登録をきっかけにした実行、指定したスケジュールによる実行など、チャットでの依頼以外の起動方法にも対応する。組織内のエージェントや、外部ツールと接続するMCP(Model Context Protocol)サーバを呼び出すことも可能だ。
エージェントが増えた後に困ること――Agent Platformが担う開発から監視まで
一方Agent Platformは、エージェントを開発するだけでなく、展開して運用する機能を提供する。岡本氏はその主な機能として「Agent Development Kit」(ADK)、フルマネージドの「Agent Runtime」、モデル選択、組み込みのオブザーバビリティー(可観測性)の4つを挙げた。
ADKはオープンソースのエージェント開発フレームワークだ。Google Cloudだけでなく、他社のクラウドや開発者のローカルマシンでも動作する。コードで定義した反復処理や条件分岐を使い、エージェントの処理の流れを制御できる。
Agent Runtimeは、エージェントを実行するためのマネージド基盤だ。実行環境のインフラ管理にかかる負担を抑えながら、開発したエージェントを展開し、運用するために利用する。
モデル選択では「Model Garden」を通じて、Google DeepMindのモデルやパートナー企業のモデル、オープンウェイトモデルなどを利用できる。処理の内容に応じて、適したモデルを選ぶ機能だ。
利用するエージェントが増えた際の管理を担うのが「Agent Registry & Gateway」だ。Googleが提供するもの、自社で開発したもの、サードパーティー製のものを含め、組織内で利用可能なエージェントやツールなどを一元管理する。エージェントへのアクセスはユーザーやグループ単位で制御できる。
オブザーバビリティーの機能は、エージェントの実行経路やトークン使用状況、ツールの呼び出し、プロンプトと応答のログなどを収集する。ダッシュボードでエージェントやツール、モデルの指標を把握し、個別の実行を詳しく追跡できる。
岡本氏は、Gemini Enterpriseを「開発・運用プラットフォームとフロントエンドを統合したもの」とまとめた。エージェントの開発や作成したエージェントの管理から、実行状況の追跡まで対応する。
冒頭の問いに戻る。用意された機能だけで、どこまで業務を任せられるのか。
講演の説明からは、データの横断検索や調査、エージェントデザイナーで組んだワークフローの実行は、用意された機能でカバーできることが分かった。一方で、複数のエージェントをまたぐ処理を任せるマルチエージェントプランニングや、長時間のタスクを担うSparkエージェントは、講演時点では試験提供や早期アクセスの段階だ。
どのデータに接続し、誰にどのエージェントを使わせ、重要な判断のどこに人が入るのかを決め、実行ログで動きを確かめる。これらは人間の仕事として残る。
※本稿は「Google Cloud Next Tokyo 2026」のセッション「基礎から理解する Gemini Enterprise 入門」を基に構成した。登壇者は、グーグル・クラウド・ジャパンのアプライドAIエンジニア、岡本充洋氏。機能や提供状況は講演時点の説明に基づく。
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