kintone導入で直面する「野良アプリ問題」 3600人が市民開発する西武鉄道の解決策
ノーコード開発の全社展開におけるガバナンスの壁で悩む企業が多い中、西武鉄道は全従業員約3600人で「kintone」を利用して1600を超えるアプリの開発と統制を両立させている。現場の自律と全社統制をどう両立させたのか。
人手不足の深刻化やビジネス環境の急速な変化を背景に、現場主導で迅速に業務改善を図る「市民開発」(ノーコード/ローコード開発)への関心が高まっている。だが、いざ全社規模でツールを展開しようとすると、多くの企業が共通の壁に突き当たる。
現場の自由に任せれば、管理されない「野良アプリ」が乱立してセキュリティや保守のガバナンスが崩壊する。かといってIT部門が厳格なルールで縛れば現場の開発意欲がそがれ、ツール自体が形骸化してしまうというジレンマだ。
そんな中、西武鉄道は2025年にサイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を全社導入し、全従業員約3600人にアカウントを展開した。開発・試行段階を含めて1600を超えるアプリを生み出している。
安全運行と高い信頼性が絶対条件となる鉄道事業において、同社はいかにして現場主導のアプリ開発を促しながら、全社レベルのガバナンスを維持しているのか。全社市民開発を形骸化・破綻させないための運用設計とアプローチとは。
現場主導の改善基盤に求めた「3つの条件」
西武鉄道の情報システム部は、「デジタルネイティブ企業への転進」を長期ビジョンに掲げてDXを推進している。その第一歩として着手したのが、紙を使った業務運用から脱却する「デジタイゼーション」の徹底だった。DXを成功させるには現場での活用促進が不可欠との判断から、現場自らがアプリを開発して業務改善を実行できる基盤の導入を模索した。
選定において同社が重視したのは主に3つの条件だ。第一に、ITの専門知識がない現場の従業員でも直感的にアプリを開発できるノーコードツールであること。第二に、既存の外部システムと柔軟に連携させられることだ。同社は2023年から一部の部署でkintoneを導入しており、システム連携の実績を確認済みだった。
そして第三の条件がマルチデバイス対応だ。鉄道の運行や保線などを担う現場では、従業員が専用のPCを持っていないケースが多い。同社では現場向けにタブレット端末を配備していたため、タブレット上でも円滑に操作できるインタフェースを備えていることが必須要件となった。これらの条件を満たしたことから、2025年に約3600人の全従業員を対象に全社展開に踏み切った。
「アプリ分析」による可視化 野良化を防ぎ、未活用部署を動かす
全社規模でノーコード開発を開放すると、誰が管理しているか分からない「野良アプリ」が増えやすい。西武鉄道は、kintoneのアプリ分析機能でデータに基づいた運用管理を実現している。
レーダーチャートなどの可視化ツールを用いて、アプリ内のデータ件数や構造の複雑性を把握する。その利用状況データを軸に、一定期間アクセスのないアプリの棚卸しを実施して、不要なアプリの放置を防いでいる。棚卸しの際には、事前にアプリ相関図を生成してアプリ間の参照関係を確認する。あるアプリを削除したことで別の業務アプリが連鎖的にエラーを起こすといったトラブルを未然に防ぐ仕組みだ。
この分析機能は統制だけでなく、利用率の底上げにも生かされている。最終ログイン日やアクセス頻度のデータを基に、利用が進んでいない部署を客観的に特定して情報システム部からkintoneの講習会を提案する。部署内で利用頻度が高い従業員を割り出して、社内展開を推進するキーパーソンとして活動してもらうなど、データに基づいた伴走支援を展開している。
現在動いているアプリは、開発・試行中が約1400、本番利用が約200に上る。この膨大なアプリ群の運用において、西武鉄道は「自由な試作」と「本番の安全性」を両立させる体制を構築した。
アプリのライフサイクル管理として「開発用」と「本番用」のスペースを分離している。開発用スペースでは、現場の従業員がアイデアを形にするため自由にアプリを試作できる。実際の業務で利用する段階に進む際は、情報システム部が介在する。入力項目の妥当性や管理権限の設定が全社の運用ルールに適合しているかを点検して、安全性を確認した上で本番スペースに移行させる運用を徹底している。
アプリの機能を拡張するプラグインについても統制を利かせている。各部署からの要望を受け、情報システム部が有効性とセキュリティ面での安全性を事前に検証した上で利用を許可するフローをとる。現在利用可能なプラグインは60種類を超えており、安全性を担保しながら現場の機能要求に応えている。運用の実務においては、サポートデスクやアプリ開発の伴走支援を委託する外部企業とも連携して、IT部門の負荷集中を防ぎながら全体を統括している。
市民開発の定着後に訪れる「スキルの二極化」の壁
全社的な市民開発基盤の整備によって、西武鉄道では紙業務の削減というデジタイゼーションを着実に達成した。加えて、自らの手でアプリを作る経験を通じて、現場の従業員に「自律的に業務を変えられる」という意識が定着しつつある。
しかし、全社展開が進んだことで、新たな課題が浮き彫りになった。使い始めたばかりの初心者と、複数の高度なアプリを自力で構築できる熟練者との間で生じる習熟度の差だ。現場主導の取り組みが一部の先進的なメンバーだけに依存してしまえば、全社的な底上げは頭打ちになる。
同社は今後、従業員の習熟段階に応じた教育支援の実施や、社内コンテンツの発信、先進事例の横展開を通じて、組織全体のスキルを向上させる計画だ。現場の業務ニーズに合わせてAI機能の活用も視野に入れ、適用領域を広げていく方針を示している。
ツールを導入するだけで現場が自発的に動き出すことはない。かといって、厳格なルールで縛れば自律的な改善の芽は摘まれる。西武鉄道の取り組みは、利用状況のデータ可視化によるガバナンスと、開発スペース分離などの段階的な統制フローを組み合わせることで、「現場の自由」と「全社の統制」を両立させられることを示している。市民開発を単なるツールの配備で終わらせず、持続可能な業務改善基盤へと育てるためのヒントになるだろう。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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