HEVCは2013年に標準化が終わり、各社から対応する製品やサービスが続々と市場投入されている状況だ。国内では、NTTドコモが2014年に初めて商用サービス「dアニメストア」にHEVCを導入した。
これはスマートフォン、タブレット、PC、テレビでの視聴が可能なアニメ専用ストリーミング、ダウンロードサービスだ(現在はスマートフォンとタブレットのみHEVC対応)。24分のアニメコンテンツ1話分は、H.264/AVCでは「すごくきれい」という設定のデータサイズが257MBだったのに対し、HEVCでは126MBで同様の映像品質が得られる(「普通」という設定の場合は、H.264/AVCで37MB、HEVCで20MBという結果)。動画サイズはおよそ半分にでき、高速なダウンロードとスムーズな視聴が可能なことが実証されたわけだ。
また、Amazonなどの通信関連業者から4K対応動画コンテンツの配信が始まった。次世代放送推進フォーラムでの4K試験放送、海外放送局でのライブ中継放送なども行われている。一方、OSの方はWindows 10からのHEVCへの標準対応、Android 5.0からの標準対応が表明され、端末の方ではPCやテレビ、レコーダー、デジカメメーカーも対応製品を投入し始めた。エンコーダベンダー、チップセットベンダーも続々とHEVC対応を済ませ、端末からサービスまでの市場が、今後どんどん拡大するに違いない。
なお、HEVC対応サービスと対応端末を用いる場合でも、常に効率良く高品質な映像コンテンツを配信できるかというとそうでもない。現実的には高いビットレートで映像コンテンツを配信すると現在と同様にネットワークの混み具合に応じて停止したり、バッファリングに時間がとられたりすることが起こり得るため、適切な品質、データ量でのコンテンツ配信が必要だ。
NTTドコモは、その方法について解説する「モバイルネットワークを利用した動画配信ガイドライン」を2014年5月に一般に向けて公開した。HEVCについての解説も含めて動画配信の基礎が丁寧に説明されている。
映像の符号化方式の主要な標準化団体が2つある。1つはISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)のMPEG(Moving Picture Experts Group)、もう1つはITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)のVCEG(Video Coding Experts Group)だ。
「H.263」「H.264」「H.265」といった規格名はITU-T、「MPEG-2」「MPEG-4」などはISO/IECが付けたもの。両者は合同で標準化を行い、同じ内容の規格に2つの名前が付けられる状況が続いている。
例えば、ITU-Tの「H.264」と同じ内容がISO/IECでは「MPEG-4 Part 10 AVC」と呼ばれている。そこで一般的には両者をくっつけて「H.264/AVC」と表記することが多い。「H.265」は、「H.264/AVC」の後継となる新しい規格。ISO/IECの呼び方では「ISO/IEC 23008-2(MPEG-H Part 2)」という。
「HEVC」との関連は?
「ITU-T H.265」または「ISO/IEC 23008-2」は、2つの標準化団体が2010年1月に合同で設立したJCT-VC(Joint Collaborative Team on Video Coding)が標準化作業を進め、2013年1月にそれぞれITU-TとIOS/ECで承認されて正式な国際規格となった。一般には非公式だが「HEVC(High Efficiency Video Coding)」と呼ばれる。つまりH.265とHEVCは同じ規格だ。
映像ならフレーム内、あるいはフレーム間で隣接する画素が似通っている部分が多いことから、伝送済みの画素を基に次に伝送すべき画素の値を予測して、予測値と実際の画素の値の差分を符号化すること。
「HEVC」との関連は?
映像圧縮の重要な要素になるのが予測符号化技術で、予測の精度が高いほど圧縮率を上げられる。HEVCでは、H.264/AVCよりも画素信号を多方向で予測するなど、より高い圧縮率を実現する。
サンプルアダプティブオフセット(SAO)とも呼ばれ、画像の符号化後に再構成する際に避けられない符号化ノイズ(歪)を取り除いて、元画像に近い画像を再現するために使われる技術。画像内のエッジ(モノと背景の境目などの輪郭部分)に生じがちな波型のゆがみ(リンギング)を抑制したり、グラデーションや平らな部分の誤差低減などの働きをする。
「HEVC」との関連は?
HEVCでは画像をいったん符号化した後に再構成し、ブロック歪除去や画素適応フィルタによる品質改善を行い、予測と符号化処理へと情報を渡す(ループする)。ノイズが除去、抑制された画像を基にした予測と符号化が行われた後、相手先へとデータが送られる流れになり、圧縮率や符号化効率が上がる。
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