メディア

基幹システムを任せて大丈夫? 最新「IaaS」解説IT導入完全ガイド(2/5 ページ)

» 2015年07月13日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

生まれながらのハイブリッドIaaSも登場

 ハイブリッドクラウドというキーワードで最近注目されているのが、ヴイエムウェアの「vCloud Air」だ。これは国内でもシェアトップの仮想化ツール「VMware vSphere」環境をベースにしたIaaSで、共通の管理ツールによってIaaSとオンプレミスのvSphere環境との間で仮想マシンやアプリケーションを自由に移動または連携できるのが特長。サーバが社内にあるかクラウドにあるかにかかわらず、同じ操作で運用が可能になる。

 既存の仮想サーバをIaaSに移動したり、その逆にIaaS上のサーバからオンプレミスシステムに移動することが簡単だ。図3のように、自社内のLANをそのままIaaS側に延伸するイメージで利用でき、社内で仮想環境を運用しているのとまったく同様に、統合的な運用が可能になる。他のIaaSでも同様に構成することは可能だが、特段のオプションを利用する必要がないのがポイントになる。

社内環境とIaaS環境をL2ネットワークで接続 図3 社内環境とIaaS環境をL2ネットワークで接続(出典:ヴイエムウェア)

 なお、vSphere HAやリソース運用自動化などの機能も基本サービスとして提供され、ホストサーバに障害が発生した場合は別のホストサーバで仮想マシンを再起動し、MACアドレスやIPアドレスも自動的に引き継がれる。IaaSは物理サーバ占有型、共有型が選べるが、どちらの場合もHA用のリソースを確保する必要がないのが特長だ。

基幹系システムを受け止める最新IaaS

 さて、一般に「基幹系システム」と言えば、販売管理、生産管理、物流管理、財務会計といった、どの企業でもビジネスに直結している業務システムのことを指す。製造、流通、金融、証券、保険など、システムトラブルやパフォーマンス低下の影響が甚大なシステムを運用する企業は、基幹系システムのクラウド化にまだまだ慎重だ。

 その懸念材料の1つに、数年前にクラウド移行したシステムで当初目標とした効果が得られず、オンプレミスに戻したケースが散見されることが挙げられる。しかし、数年前と現在とではIaaSも様変わりし、基幹系システムを受け止められる実力が備わってきている。

 例えば、VPNに加え専用線による接続が可能になったこと、仮想サーバのみならず物理サーバもポータル上からプロビジョニング可能になったこと(ベアメタルサーバと呼ばれる)は大きな進歩だ。インターネットの制約から逃れることで通信遅延は予測可能な範囲に収まり、ベアメタルサーバは処理性能を確保できる。

 また、必ずしも新しいサービスではないが、仮想/物理サーバの内蔵ディスクの他、外部ストレージとして使えるファイルストレージ(オブジェクトストレージ)、ブロックストレージが自由に選べ、ユーザー企業所有のストレージと連携するゲートウェイ機能も提供されている。ディスクの品質も選べて階層的なストレージ構成も可能だ。

 安定性や可用性面で言えば、上述のvCloud Air以外でもIaaS内でのサーバクラスタリングなど冗長構成ができるのはもちろん、フェイルオーバー先として同一ラック内ではなく別ゾーンの物理サーバを指定することも可能になっている。またローカルでのバックアップ、DR対策となる遠隔地のデータセンターへのバックアップなどのサービスもオプションで選択可能だ。

 こうした最新IaaSが備える特長は、オンプレミス構築との間の性能や安定性のギャップを埋める方向に進んでいる。かつては基幹系システムの要件に見合わないと判断したIaaSであっても、最新の仕様で検討し直してみると違った結果になる可能性は高い。

 クラウドサービスは、IT資産のオフバランス化の決め手であり、技術者不足に悩まされる運用管理をラクにしてくれるのが基本的なメリットだ。移行すれば必ずコスト削減できると考えるのは早計だが、将来のITインフラを計画的に整備していく上で、IaaSのもつ柔軟性やプロビジョニングの迅速性は欠かせない要素になるに違いない。

 オンプレミス構築の基幹系システムを今後も従来通り運用していくことに不安を覚える場合は、まずIaaSを部分的にでも導入することを検討すべきだろう。

コラム:高性能が期待できる「ベアメタルサーバ」を使いやすくしたIaaSとは?

 2014年の東京データセンター開設で一気に注目を浴びた「IBM SoftLayer」も、基幹系システム移行を強く意識した仕様だ。注目すべきは、物理サーバ(ベアメタルサーバ)を、Webポータルからデプロイできる点。特定ハイパーバイザー(仮想化ツール)が前提となることはなく、仮想化環境を自社に最適なツールで構築できる。

 また物理サーバはもちろん、ネットワーク機器も自社で占有する環境が作れるため、他のユーザー企業のシステムとは一切影響しあうことがなく、セキュリティ面でも堅牢だ。

 同様のサービスは他のIaaSでも提供されており、IaaS利用のネックとされていた性能課題を解決する切り札と考えられている。仮想サーバに比べて圧倒的に高い性能が得られ、高速なビッグデータ分析などにも適用可能な実力を備えるようになってきている。

 なお、IBMは他に、グローバルな高速ネットワークで海外データセンターがつながること、データセンター間のプライベートネットワークの通信が無料であること、アウトバウンド通信も設置サーバごとに無料通信枠を設定可能なこと、自社開発プログラムで呼び出し可能なAPIが充実していることなどのポイントも強調している。これらも全て基幹系システムの受け入れに備えた仕様といえるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。