全体イメージが把握できたところで、今度はDevOpsを導入するとどこがどう効率化するのか、実際の例で具体的に見てみよう。
ある欧州の銀行では、モバイルバンキングアプリケーションがビジネスの中核に据えられていた。頻繁なリリースを実現するために、従来のウォーターフォール型開発からアジャイル開発に移行を図ったが、開発は短期化しても結合テストとデプロイに時間がかかり、効果は限定的だった。
そこで「継続的リリースとデプロイ」のためのリリース管理(自動化)ツールを導入し、リリース自動化で対応を図った。デプロイプロセスをツールで定義し、自動実行させることで同じプロセスを間違いなく適時に繰り返し適用できる環境になった。その結果、2012年には月数回程度のデプロイが、2014年には約1万7000回まで回数を増やすことに成功した。
しかし、デプロイに対して運用チームとの調整に時間がかかり、ツールによる手法だけではこれにも限界があった。そこで同社は開発チームと運用チーム、基盤担当チームが分離している組織編成を考え直し、サービスごとにプロダクトオーナーを決め、そこに開発エンジニアと運用エンジニアがつく「DevOpsチーム」に編成を変えた。
社内には180ものDevOpsチームができたが、各チームは8〜10人構成とし、1〜5のアプリケーションを管理、プロダクトオーナーが優先度を判断することにした。アプリケーションの開発とデプロイの責任は各チームが持ち、SIパートナーも各チームにアサインした。従来のチーム間の連携に必要だったコーディネーターは不要になり、DevOpsチーム内でスムーズな調整が可能になり、移行後は月に3万回のデプロイにも対応できる体制ができ上がった(図5)。
DevOpsの実践には、開発と運用の関係性(文化)の転換が必要だといわれるが、組織上の見直しは文化を変える原動力にもなる。この例はツール適用ばかりでなく組織面での改革が効果を発揮した好例といえるだろう。
また注目したいのは、SIパートナーもDevOpsチームにアサインしたことだ。これは外部SIerとの契約形態が、仕事の完成を約束する請負契約から作業に応じて支払いが生じる準委任などの契約形態に移行することを意味する。日本ではこれまで請負契約でのSIerへのアウトソーシングが一般的だが、DevOps導入を機に契約形態を見直すことも考えに入れるべきかもしれない。実際に銀行や保険会社では既にそうした例がある。
ちなみに銀行業界ではPaypalやLINE Payなどとの競合が始まっており、これからはサービスの頻繁な改善や創出が競争力のカギになりそうだ。他の古くからの業界でもWeb発祥のサービスが本業を脅かすようになっており、競争力維持のためにITの効率アップはますます重要性を帯びていく。
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