メディア

光ディスク多層化の限界を軽く超越する「超大容量ホログラムメモリ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2016年01月20日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
前のページへ 1|2|3       

さらなる大容量化の可能性は?

 さらなる大容量化を図るには、多重度を高めていくことになる。2次元のクロスシフト多重方式では、記録方向を10度変えればクロストークが生じないということなので、最大36多重までが可能だ。またディスクを傾斜させる3次元クロスシフト多重方式では、現在はプラスマイナス5度単位でチルトさせているが、もっと細かい単位でのチルトも可能ではあるとのことだ(ただし余裕を見なければ読み書きのエラーにつながるので、5度単位でのチルトが望ましい)。

 仮に5度刻みでチルトして2回書き込めば、プラスマイナス10度までの5段階で10倍、プラスマイナス15度で14倍の多重化が可能になる。それ以上にディスクを傾けるのは好ましくないということなので、最大36×14で504多重となる。

 これにシフト多重方式で書き込まれたホログラム1列=5.5Gビットを掛けると約2.8Tビット(約347GB)。これをディスク全面に書き込むと、単純計算ではペタバイトクラスの容量になりそうだ。

 現在のところ、このような多重化技術に材料が追い付いておらず、現実的に視野に入っているのは前述のように20TB程度だが、やがて材料技術が進歩すれば、数百TBクラスの超々大容量ディスクが誕生するのも夢ではないだろう。

「超大容量ホログラムメモリ」の用途と将来は?

 このような超大容量ディスクが必要とされるのはどんな領域だろうか。もともとこの研究がターゲットとしている需要層は、データセンタなどのように大量データを長期保管するニーズと、そのデータを必要に応じて利活用するニーズとを併せ持つ組織だ。いわゆるニアラインストレージ(アーカイブ用メモリ)として、超大容量ホログラムメモリが持つ長期保存性と高速参照、高速コピー、再生性能が生きる。

 従来のデータ保管メディアにはSSD、HDD、光ディスク、磁気テープがあるが、ビット当たりコストと省電力性、10年〜100年といったレベルの長期保存性、対災害性などの要件を同時に満たすことはできない。超大容量ホログラムメモリは、アーカイブ用記録メディアとしてこれらのメディアに欠けた部分を埋める特長をもっている。

 具体的な目標の1つとして挙げられているのは8K映像のアーカイブだ。そのためにはアクセスを高速化することが課題になる。特に再生メカニズムの高速化が問題だが、イメージセンサーの性能進歩により解決は可能だということだ。現在はまず8K映像の再生に必要な0.2Gbps程度の転送速度をクリアすることが目標だが、研究はその先の1Gbpsでのリードライト性能を視野に入れている。HDDの性能程度にまで高速化することは十分に可能だと山本教授は言う。

 また実用化のためにはドライブの開発が不可欠であり、一般的な光ディスクドライブ並みのコンパクトさが求められることになろう。超大容量ホログラムメモリには他の方式もあるが、本方式はより多くの多重化が可能であるとともに、メカニズムが比較的シンプルであり、機構制御精度のマージンが大きく、レンズの収差の影響も少ないために媒体の互換性(あるドライブで書き込んだディスクが他のドライブでも読み取れる)にも優れているということで、対応ドライブも低コスト、コンパクトにできる可能性がある。今後の技術開発、実用化に向けて、ドライブメーカーなどに広く協力を呼びかけているところだ。

関連するキーワード

多重記録方式(ホログラムメモリの場合)

 ホログラムを作るためにはデジタルデータを空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator、液晶パネルなど)を用いてデータを2次元画像(ページデータ)に変換した上、レーザー光を通して信号光とし、別の角度からの参照光とともに感光材に照射する。

 照射条件を変えることで同一領域に異なるページデータを重ね書きでき、読み出し時にはページを区別して読み出せる。この照射条件の違いが多重記録方式の違いになっている。本文中の方式以外に、ホログラムの角度を変える角度多重方式、参照光の位相分布を変える位相コード多重方式、光の波長を変える波長多重方式などがある。

「超大容量ホログラムメモリ」との関連は?

 今回解説した超大容量ホログラムメモリは、本文中で解説しているように「シフト多重方式」を発展させた、山本教授開発による「クロスシフト多重方式」を用いている。他の方式よりも機構がシンプルであり、読み書きのための機構制御の精度のマージンも大きい。そのためドライブも従来技術を生かして比較的簡素にでき、媒体の互換性も確保できると考えられている。

クロストーク

 一般的には隣接する信号線の信号が影響しあうことをいうが、ホログラムメモリの場合は読み出したいページデータに隣接するページデータが重なって読みだされることをいう。これが信号のノイズとなり、エラーを引き起こす。

「超大容量ホログラムメモリ」との関連は?

 山本教授の研究で、ホログラムのページデータを10マイクロメートルシフトして書き込めば、ページデータが重ね合わされていてもクロストークを起こさず、シフト多重化したページデータの列は、2次元空間で10度単位で角度をずらせばクロストークを生じないことが実証された。またディスクのチルトを5度単位で行えば、2次元クロスシフト多重データにさらに重ねて、クロストークを起こさないように3次元的な多重化ができることも分かった。

エラー率

 デジタルデータの送受信において受信側で符号を正しく読めない確率のこと。クロストークなどが生じて信号にノイズが多く重なるとエラー率が高くなる。

「超大容量ホログラムメモリ」との関連は?

 情報記録媒体の記録密度とエラーの発生は密接に関係しており、記録密度を高めるほど読み出し時にエラーが発生しやすくなる。できるだけエラー率を低くすることが求められるが、完全になくすことはできず、誤り訂正技術を用いて実用上問題のないエラー率に収めるようにしている。「超大容量ホログラムメモリ」の実証実験では0.001のエラー率だが、これは誤り訂正技術を前提にすれば十分に実用的なレベルである。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。