2016年7月28日で期限を迎えるWindows10への無償アップグレード。導入状況や留意点から、Windows10へ移行すべきかどうかを考察する。
岩上由高(Yutaka Iwakami):ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品およびビジネスの企画、開発、マネジメントに携わる。ノークリサーチでは技術面での経験を生かしたリサーチ、コンサルティング、執筆活動を担当。
Windows 10がリリースされてから既に半年余りが経過した。「Windows 7 SP1」や「Windows 8.1 Update」を利用しているユーザー企業は2016年7月28日まで「Windows 10」への無償アップグレードが可能だ(Enterpriseエディションは対象外だが、その場合にはSA契約を適用することでアップグレードできる)。
この無償アップグレードを適用すべきかどうかに悩む企業も少なくないだろう。そこで、Windows 10の導入状況に関する最新の調査結果を基に企業が留意すべきポイントを考えてみることにする。
現時点では何割の企業がWindows 10への移行または入れ替えを行っているのだろうか。以下のグラフは年商500億円未満の企業に対し、Windows 10の活用状況を尋ねた結果だ(2016年1月実施の調査)(「移行」は既存のPCハードウェアを維持したままOSを刷新するケース、「入れ替え」はPCハードウェアとOSの双方を刷新するケースを指す)。
「移行または入れ替え済み」が16.1%、「移行または入れ替え予定」が19.9%である一方、「Windows 10にアップグレードせず、現在のバージョンを継続利用する」は34.6%と上記の選択肢の中では最も高い回答割合となっている。
「現時点では判断できない」も30.0%であるため、無償アップグレード期限である2016年7月末に向けて、移行や入れ替えが急速に進む可能性も十分ある。だが、無償アップグレードの機会があるにもかかわらず、現時点で3割超の企業が現行バージョンを継続しようとする背景には何があるのだろうか。
その手掛かりとなるのが以下のグラフである。前述の設問において、Windows 10への移行または入れ替えを既に行っている、またはその意向がある企業に対して「Windows 10へ移行する理由(移行のメリットなど)」を尋ねた結果である(回答割合の高い順に選択肢を並べてある)。
「いずれは移行が必須となるので、早いうちに慣れておきたい」が47.0%で最も多く、「無償アップグレードを利用した方がOS関連コストを削減できる」が35.2%で2番目に多く挙げられている。つまり、「無償アップグレードによるコスト削減効果」を期待する割合よりも、「いずれ移行しなければならないのであれば、今のうちに」といったやや消極的とも受け取れる理由が最も多いことになる。
企業がOSのアップグレードに要するコストはOS自体の費用だけではない。むしろ、画面や操作が変わることによる社員の教育、サポートや業務システム側の刷新、改変に関連する負担の方が大きい。こうした一連の対応作業を古いOSのサポート期限間近に急いで行うことはさまざまなリスクを伴う。そのため、Windows XPのサポート終了での経験なども踏まえた上で「いずれは移行が必須となるので、早いうちに慣れておきたい」と考える企業が多くなっていると考えられる。
逆の見方をすると、社員の教育、サポートや業務システム側の刷新、改変などの対応作業を2016年7月末までに完了できなければ、無償アップグレードという手段を選択することは難しくなる。2016年1月からマイナンバー制度も始まり、2017年4月には消費税率10%改正と軽減税率の導入が控えている。企業にとっては法制度改正に伴う業務システム対応がめじろ押しの状況だ。
OSのバージョンアップと合わせてこれらの課題を一気に解決するというアプローチも考えられるが、こうした一連の対応は売上増に直接結び付くわけでもない。現状維持のためのIT投資に多額の費用をかけることのできる企業は自ずと限られてくる。無償バージョンアップによるWindows 10への移行や入れ替えがそれほど進んでいない背景にはこうした要因があると考えられる。
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