ウェアラブルデバイスを実際に運用する前に、その管理体制も構築しておきたい。導入時には管理部署を選定し、あらかじめ運用ルールを作成することが求められる。
ウェアラブルデバイスは現場に持ち込まれる備品のため、運用されている場所の把握がまず必要だ。デバイス自体が高価で盗難のリスクがある上、スマートデバイスと同じく情報の塊。点検中の設備や工事状況といった情報漏えいは避けなければならない。盗難に遭わないよう現場では保管場所を設置し、万が一盗難に遭ったとしてもデバイス側にパスワードを設定し、情報流出を防ぐ。また利用する作業員を決め、把握しておくといったことが重要だ。
当然ながらウェアラブルデバイスを装着する作業員だけでなく、ウェアラブルデバイスと通信でつながる管理者側の管理も必要だ。特に現状のウェアラブルデバイスが、点検や保守といった機密性の高い業務で利用される以上、撮影された映像や画像の管理には要注意だ。これらの画像データには位置情報が付与されている可能性もある。アクセス権限やデータの保存先は明確にしておきたい。
利用者が異動や退職した場合は、パスワードの変更やアカウントの停止といった処理を行い、ウェアラブルデバイスの導入が進めば、いずれ新デバイスへの切り替えも行われるはず。その際の旧デバイス内の情報の処理、デバイスの処分についても検討しておきたい。
導入するウェアラブルデバイスを検討する場合、チェックすべき点はどこだろうか。連続使用時間の問題に触れたが、現場での運用を考えると、それ以外にも多くのチェックポイントがある。
まず情報を表示する画面だ。HMDやヘッドセットはディスプレイに情報を表示し、眼鏡型の場合は目の前に投影する。どのデバイスでも目のすぐ前に表示されることから単純なディスプレイサイズはあてにならないため、仮想画面サイズを参考にすると良いだろう。
また、ディスプレイ部分もシースルー型と非シースルー型の2パターンがある。周囲が明るい環境下では、非シースルー型を利用した方が画面の視認性が向上するなど環境によって向き不向きがあるので、注意が必要だ。
一方、ヘッドセットのエプソン「BT-2000」は両眼にディスプレイを取り付ける仕組み。当然視界を確保するため、ディスプレイはシースルーとなっている。このようなデバイスはARのようなバーチャルの画面を重ねて表示しながら作業できるメリットがある。
ただしARの活用は現場にARマーカーの設置が必要で、例えば点検箇所が膨大になるとそのコンテンツ作成だけでも時間がかかる。またシースルー型は屋外の太陽光といった、強い光の下では画面の表示が見えなくなる可能性がある。そのためデバイスを選ぶ際は、画面の輝度(明るさ)も重要なのだ。
ディスプレイの選定
利用場所が屋内か屋外かでも、ウェアラブルデバイスの選び方は変わる。組立の場合はほぼ一箇所から動かずに作業をするため、有線のデバイスでも問題はないが、業務中に装着しながら移動が必要な場合では安全性から選択できるデバイスが限られる。
無線式のデバイスがベターなのはもちろん、無線式であっても視界の広さによっては装着しながらの歩行は推奨されていない。物流のピッキング作業での使用は移動が多いであろうし、巡回しながら遠隔サポートを受ける警備のような場合も、装着しながら歩行することになるので確認が必要だ。
忘れてはならないのが通信方式だ。Wi-Fiを使う場合アクセスポイントを事前に設置する必要があり、屋外での業務では難しい面がある。3GやLTEといった携帯電話回線を使う通信方式にも対応していれば、屋外での通信がしやすいだろう。ただし地下で業務を行う場合は、Wi-Fi、3G・LTEに限らず通信が難しく、アクセスポイントや基地局の増設が必要になる。また携帯電話回線を使う場合、映像を送るには1Mbps以上の通信速度が安定して出ることが求められる。
また通信に関連してセキュリティも考慮したい。業務用デバイスでは当然それ自体にセキュリティ対策が施されているとはいえ、一般コンシューマへの販売も前提としているデバイスでは簡易的なものもある。システムごと導入する場合は暗号化などの情報漏えい対策、デバイスのみを導入する場合は通信時のセキュリティ設定について確認が必要だ。
通信環境の確認
屋外での作業が中心ならば天候が悪化することも想定し、防水性能は必須といえるし、砂塵の多い建設現場では防塵性能も欲しい。また万が一の落下や乱暴に周囲と接触することまで想定すれば耐衝撃性能も求められる。雨程度であれば業務用のデバイスは防水していることが多い。
富士通の「ヘッドマウントディスプレイ」に関しては、米国国防総省の調達基準であるMIL規格に準拠した耐衝撃性能を持ち、1.5m程度から落下しても動作、更に耐薬品性能も備え最も過酷な環境を想定しているといえるだろう。一方でここまで堅牢な仕様が本当に必要なのか、価格や導入する現場も合わせて考える必要がある。
スペック表を見れば分かる通り、1台で数十万円というのが当たり前だ。また1台だけの導入で業務が変わるわけでもなく、数十、数百台、あるいはソリューションとしてシステムごとパッケージで導入することになるため、単純に価格を比較するのは難しい。デバイスの保守、交換は可能なのか? 代替機は常にストックされているのかも導入前に確認したいポイントだ。
耐久性の確認
現場に導入してからの従業員への教育も重要だ。人材不足やベテランからの技能継承という視点で考えると、ウェアラブルデバイスの操作が容易であることはもちろん、管理者側がPCなどで扱うソフトも分かりやすいUIでなければならない。現場の作業員も管理者もITスキルが高いとは限らないからだ。
特にハンズフリー操作では音声コマンドや頭の傾きといった特殊な操作を要する。この操作をすぐ習得できるのか、むしろコントローラーなどの操作デバイスを用いたほうがいいのか、現場の従業員の声をしっかり反映したい(それはベンダーに伝えることで改善できる場合もある)。場合によっては、多くの機能よりもシンプルなデバイス・システムを選択したほうが最初の導入には良いだろう。
操作性の確認
企業は自社の現場に合わせた細かいスペックの確認が必要だろうが、業務用デバイスの常として、詳細な内容が公開されていないことが大半だ。これがまた導入を考える企業にとって悩ましいが、ただウェアラブルデバイスを先行して導入している企業を見ると、まずは「試用から」というケースが大半だ。新しいデバイスということもあり、現場で開発者の想定していない使い方、問題点が起きる可能性もある。まず試用期間を設け、改善点を洗い出し、現場に合わせたカスタマイズを要望した上で正式な導入を考えてほしい。
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