電子・電器メーカーの多くは、完成品のライフサイクルも、部材のライフサイクルも短い場合が多く、市場投入前に販売予定量を作り終えているケースも少なくない。また、半導体製造などのように製造ラインへの初期投資が非常に大きくなるケースもある。
市場に製品投入した場合に採算分岐がどのようになり、どの段階で投資回収が完了するかといったシナリオ作成にも、過去実績データや現在の財務データを基にしたシナリオ作成が行われるケースが少なくないという。
同様のニーズは医薬品メーカーなどでも多く見られる。コンシューマー品と異なり、医薬品の業界では法的なルールが多く、例えばメーカー側で全ての製品価格や製造ロット数を管理できるわけではない。それ故、需給予測に関するニーズはほとんどない。しかし、開発投資や生産ライン立ち上げに関してはS&OP系のツールを駆使することで投資判断の妥当性を評価できる。
S&OPプロセスの導入は単純にシステムを導入するだけで済むものではないため、一気に全社導入を推進するのではなく、最少の単位でパイロットプロジェクトを立て、プロセス運営の妥当性を検証していく方法が適している。とはいえPSIの責任者らからすると、課題が露見したり、それぞれの部門で読んでいる「バッファー」を明るみに出すことになりかねないこともあり、「あまり変化を望んでいない」可能性がある。
笑い話のようなアドバイスだが、財務経理担当者や経営層が主導して導入を進める場合、導入を提案するのに適した時期は「5月」「11月」だという説がある。というのも、決算に向けて予算と実績の乖離などの問題が明らかになり、「最後の追い込み」として各担当者が叱咤(しった)激励される期末の直後であれば、どの部門の担当者も「もうあんな思い(追い込みの叱咤激励)を経験したくない」という気持ちが高まっているため、比較的協力を得やすいタイミングなのだという。
図5はある企業がS&OPプロセスを導入した成果をまとめたものだ。プラスになった点として、いままでモノの「数」しか見ていなかったSCMの担当者が「金額」「予算」への意識を持つようになり、またその結果として、経営層の判断に対する理解が深まったという。
一方で、会議と会議の準備に時間と労力が掛かるようになったという課題が挙がっているが、これらはITによって解消できるものも少なくない。
前述の通り、SCMをベースに「ヒト」「モノ」と「カネ」をつなぐプロセスであるS&OPは、Excelのような手持ちの道具でも始めることができる。しかし、それには自社の業務を把握し、課題を整理し、プロセスを自社に適した形に落とし込む必要がある。業種業界、あるいは商流によっても具体的な適用方法は個別に分析していく必要があるため、実績のある導入コンサルティング企業を介して、テンプレートを利用するなどの方法も検討した方がよいだろう。
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