現状のセルフサービスBIの浸透度は、業種業態によってかなり差がある。導入が進んでいる業界の筆頭といえるのが、大手の小売業そして通信業界だ。両社に共通するのは、マーケティングに非常に重きをおいており、またあるタイミングごとに見なければいけないデータが決まっていて、請求などの一定の処理も発生するという点である。このような業界では、マーケティング部門が自由にデータ分析を行う文化が根づいており、またユーザーにも一定のスキルが備わっている。そのためデータ分析/活用に対するユーザーのモチベーションが高く、情報システム部門とビジネス部門間のギャップについても理解があるため、足並みをそろえたツールの導入と運用がやりやすいといえる。
セルフサービスBIというと、その名の通りユーザー部門が独自に導入して運用するというイメージが強く、ともすれば情報システム部門の出る幕はないと思われがちだが、決してそうではない。情報システム部門には非常に大事なミッションがあることを忘れてはならない。それは、「データガバナンス」の確立である。
データガバナンスが伴わないセルフサービスBIはまず失敗することになる。それが分かりやすいある企業のケースを紹介する。
その企業では、セルフサービスBIの取り組みを進めて4年たったところで、データに基づいた意思決定の状況がかつてよりも悪化していることに気付いた。それぞれの現場で都合のいいデータばかり使うようになり、計算間違いも頻繁に発生するようになったため、誤ったデータ分析結果を基にビジネス上の意思決定が行われるようになってしまっていたのである。そのためこの企業では、あらためて情報システム部門主導によるデータガバナンスの確立に取り組むこととなった。
部門で並列的に利用ができてしまうセルフサービスBIの場合、同じ目的の分析を行うにしても部門やチームごとに対象となるデータや切り口は変わる。しかし、例えば部門ごとの「売り上げ」を比較しようとした場合、何のデータをどう見るのかを事前に意思統一していなければ、全く意味を成さない結果が出されてしまうことになる。自部門にとって都合のいいデータばかりを持ってきてしまったり、後で調べてみたらデータに計算間違いがあったりといったことが繰り返されながら、数年にわたりデータに基づいた意思決定を行ってしまったとしたら、企業の存続に関わることにもなりかねない。
そこで情報システム部門には、バラバラに管理されて一貫性が欠如したデータを基にユーザーが分析することのないよう、部門横断的にデータを共有して分析/活用できるような環境の提供、つまりデータガバナンスの確保という大事な役割が求められるのである。
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