約7年ぶりのメジャーバージョンアップとなったBluetooth。データレートが2倍、エリアが4倍となる新たな規格の動向やいかに。
今回のテーマはパーソナルエリア通信の新規格「Bluetooth 5」だ。Bluetooth 4.2から約2年、メジャーバージョンアップとなり、間もなく対応機器も登場するだろう。速度2倍、通信エリア4倍、ブロードキャスト通信容量8倍といいことづくめに見えるが、うたい文句をうのみにすると見誤ることもある。何がこれまでと本当に違うのか、ポイントを押さえよう。
2016年12月、Bluetooth規格策定組織であるBluetooth SIG(Special Interest Group)が正式に採択したBluetoothの最新コア仕様だ。Bluetooth 4.0から数えて7年ぶりのメジャーバージョンアップであり、前回のバージョン4.2から約2年ぶりの仕様リリースとなる。
前バージョン(4.2)からの主要な進化ポイントは3点だ。
しかしこれらの言葉を単純にうのみにすると誤解のもと。それぞれの本当の意味を解説しよう。
通信速度の高速化が「最大2Mbps」というところで「あれ?」と思う人もいるかもしれない。2004年リリースのBluetooth 4.0のEDRオプション追加で最大速度は3Mbpsになり、2009年のBluetooth 3.0では無線LANのMAC/PHY層の利用により最大24Mbpsで通信可能なHS(High Speed)オプションが追加されていたはずだ。
しかし、これらの仕様を採用した機器の利用シーンは実際にほとんど見たことがない人の方が多いだろう。3Mbpsや24Mbpsという数字は無線LAN規格の高速化の中でかなり見劣りしてしまう。主な適用シーンはキーボードやマウス、スマートデバイス、あるいはスマートデバイスとワイヤレスイヤフォンの接続目的に限られ、大量高速データ通信目的での利用はそれほど進まなかったのが実情だ。
そこでBluetooth SIGは方向転換した。さらなる高速化を断念して「低速でも省電力、遠距離をカバーし、メッシュ接続もできる」規格へと歩むことにしたのだ。そこで登場したのがBluetooth 4.0。別名「Bluetooth Low Energy(以下、BLE/略称)」と呼ばれ、通信速度を1Mbpsに抑えることで消費電力を低減させるものだった。これによりデバイスがボタン電池1個で数カ月以上信号を一方的に送信し続けられる(ブロードキャスト)ほどの省電力性が実現可能になり、ビーコンやBLEタグのような新しい適用領域が開拓されるようになった。
「通信速度2倍」とは、このBLEの通信速度がバージョン4.2との比較で2倍の2Mbpsになったことを指している。これは以前の高速化とは変調方式が違うのだ。それまではQPSK(4位相偏移変調)による多値化によって一度に多くのビットを送受信する方式が使われてきたが、それが回路を複雑化しコストの高止まりの要因になっていた。
また雑音や電波干渉に弱く、到達距離も伸び悩んだ。そこで変調方式をもともと採用していたFSK変調方式に戻し、そのかわり変調速度を倍にすることでデータレートを2倍に向上させた。これはチップ性能を要求するが、スマートデバイスやIoTデバイスに搭載されることによる量産効果でコスト課題はクリアできると考えられたようだ。
つまりデータレートがこれまでの最高レートの2倍になると誤解してはいけない。従来の高速化オプションとは、利用目的の考え方が違うのだ。具体的に言えば、従来のWi-Fiと競合することを止め、むしろZigbeeやZ-Wave、Wi-SUN、あるいはIEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow)との競合領域を狙った進化である。図1に、各種無線規格の速度と通信エリアに着目したマッピングを示す。
図中の「BT ○○」の部分がBluetoothだ。Bluetooth 5の登場によりパーソナルエリア通信のほぼ全体をBluetoothがカバーできると見込まれており、一部でLPWAと呼ばれる(図のオレンジ色)領域とも競合しそうだ。
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