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目指すは水中データセンター「水没コンピュータ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(2/4 ページ)

» 2017年04月12日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

なぜ「水没」が求められるのか?

 コンピュータにとって熱は大敵。それは、推奨される温度範囲を超えたまま稼働させると、誤作動や故障の危険が高まるからだ。長期的な正常動作が期待できるのはCPUの温度が80度くらいまでなのだが、冷却が不十分な場合、高負荷な処理を実行させると100度以上になることも珍しくない。そのため、どうやってCPUを冷却するかが、PCのみならず、スーパーコンピュータ(スパコン)や高密度にコンピュータが並ぶデータセンターでも大きな課題になっている。

 温度が上がる原因は、主にCPU、次にメモリが処理負荷に応じて熱を放出するためだ。その熱を逃すために、一般的にはCPU上にヒートシンクを取り付けた上、ファンで風を送って温まった空気を筐体外に送り出す空冷方式が取られている。オフィスのPCならそれだけでもよいが、データセンターなどでは常時空調装置を稼働させて環境内を一定温度に保たなければならず、その空調用電力がデータセンター運用の悩みのタネだ。ときには空調コストが全体の電力コストの半分を占めることさえある。

 そこで空気よりもはるかに熱伝導率が高い液体を用いて、もっと効率的な冷却を行う技術が開発されてきた。1つには基板上に水が通るパイプを設けて水を循環させて冷やす「間接水冷」方式がある。これは大型コンピュータでしばしば見られるが、ポンプの駆動が必要で、温まった水を冷やすために熱交換器と冷凍機を外部に備えなければならず電力コストがかさむ。もちろん設備費やメンテナンス費もかかる。

 もう1つの方法として、基板を絶縁性の「フロリナート」や「NOVEC」(どちらも3Mの商標)、鉱物油などに浸漬する「液浸冷却」方式も実用されている。スパコンなどに採用されて優れた冷却効果を挙げているが、冷媒となる物質が高価であったり、発火などの危険があるため取り扱いに注意が必要であったり、廃棄時の環境負荷が高かったりと十分な検討が必要となる。

 そこで海、湖、河川など自然に大量に存在する水を利用してはどうかと考えたのが「水没コンピュータ」の発想だ。これには次のようなメリットがある。

(1)冷却効果が高いのに低コストで安全

 自然の水は冷媒として、また冷熱源として利用できて、コストがほぼかからない。水道水でも、他の液浸冷却用の冷媒とは比較にならないほど安価だ。取り扱いにほとんど危険が伴わないのも利点だ。

(2)電力を効率的に利用可能

 研究チームがイメージしている将来像は、図4、図5に見るように、自然エネルギー(風力、波力など)を利用した発電施設、あるいは既存の発電所(多くが海などの水辺に位置している)の導水路に多くのコンピュータを水没させ、データセンターとして機能させることだ。

自然エネルギーによる発電施設を水没コンピュータに直結 図4 自然エネルギーによる発電施設を水没コンピュータに直結(出典:NII)
発電所の導水路に水没コンピュータを設置 図5 発電所の導水路に水没コンピュータを設置(出典:NII)

 このような構成であれば、発電施設とデータセンターの位置関係が近いため、送電網でのロス(5%程度)が無視できる。また直接直流給電が可能になるため、従来AC/DC変換のためにロスしていた電力(20〜30%程度)がなくなる。冷却のための電力が必要なくなった上に、電力の効率的な利用ができることになる。

 なお、研究チームは水力発電所の導水路への設置が有望と考えている。これは自然環境から隔離されていることと、発電量に比例した流水量があり冷却能力が保証されるためだ。

(3)環境負荷が少ないデータセンターを運用できる

 冷媒の交換や廃棄の必要がないことも特徴で、水中データセンター運用時の環境負荷として考えられるのは水温の上昇だけになる。研究チームは東京電力藤原発電所(最大出力22Mワット、最大流量28トン/秒)の電力を全て水没コンピュータが使用したとしてどれだけ水温が上がるかを試算した。

 その結果は0.2度の水温上昇にとどまった。国土交通省は河川水温がプラスマイナス3度以上になる場合に影響の検討をすべしという指針を出しており、原発の排水温度は海水のプラス7度以下と法的に決められている。そのどちらの基準も大きく下回る環境負荷である。

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