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目指すは水中データセンター「水没コンピュータ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/4 ページ)

» 2017年04月12日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

コーティングに適切な材料は何か?

 「水没コンピュータ」実現には、基板と水との絶縁が大きな課題であり、これに適したさまざまな材料が検討されてきた。その条件は、絶縁性があり、熱伝導性が高く、基板の隙間やピンの間を覆うことができる材料。一般的には液体のエポキシ樹脂の塗布が考えられるが、粘度が高いと入り組んだ部品の内部に浸透させるのが難しく、粘度が低いと突起部品に塗った樹脂が硬化する前に垂れ落ちてしまう。

 そこで化学的気相成長法(CVD)により常温でごく薄いコーティングが均一にできる「パリレン樹脂」(パラキシリレン樹脂)が俎上(そじょう)に上がった。これなら部品の故障原因となる高温処理が必要なく、常温で、入り組んだ構造の基板でも均一な皮膜でくるむことができる。研究チームはこれが有望な方法と考えている。

水槽(水道水)と海中での実証実験

 実証実験は、2016年に水槽の中の水道水中と神奈川県横須賀市(東京湾)の海水中で行われた。

 水槽実験では、CPUに汎用的なIntel Celeronを搭載した基板を使用し、50マイクロメートル厚と120マイクロメートル厚のパリレン樹脂コーティングを施したものを使用。BIOS設定は通電だけで起動するように変更し、ジャンパピンは切断、不要なコネクタは除去した。

 実験の結果、50マイクロメートル厚のパリレン樹脂コーティング基板は最長75分で故障したが、120マイクロメートル厚のコーティング基板は連続53日間の水中稼働に成功した。またフッ素樹脂スプレーを施した上に50マイクロメートル厚パリレン樹脂コーティング基板も試され、こちらは断続87日間稼働した。

 国立研究開発法人海洋研究開発機構の協力により行われた海中実験では、120マイクロメートル厚のパリレン樹脂コーティング基板と、水密箱方式(金属内壁とCPUをヒートパイプで結合したオリジナル方式)が試された。

 パリレン樹脂コーティング基板は最長連続40日間の稼働に成功した。この基板のCPUは陸上の無負荷状態で60度に達する発熱があるのだが、海中で無負荷状態の温度が38〜40度、120%負荷でも42度までしか上昇しなかった。一方、水密箱方式は実験期間中を通して無事に稼働したが、負荷をかけるとCPU温度が80度まで上昇した。排熱効果はコーティング方式の方が高いことが分かる。

 なお、海中では海中生物の影響が意外なほど大きいことがこの実験で明らかになった。図6は実験前と後の基板を入れた籠の様子だ。大量のムラサキイガイが付着し、カニやエビも生息していたという。これはコーティングを損傷する可能性が高いと思われる。生物層の厚い海域は、水没コンピュータには不適のようだ。

海中実験前の状態 図6 海中実験前の状態(左)と実験後の状態(右)(出典:NII)

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