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目指すは水中データセンター「水没コンピュータ」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2017年04月12日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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新しい実証実験と今後

 研究チームは2017年3月から次のステップへと乗り出している。今度はハイエンドの性能を持つIntel Core i7 6700K(4コア、4GHz、オーバークロック動作可能)を搭載した基板とハイエンドの性能を持つ(安定性の高い)サーバ用途の基板の2種類を利用し、基板中にたくさんの温度センサーを配置して、水槽の水道水中でのプログラム実行性能と冷却性能、電力性能比を細かく調べる。パリレン樹脂のコーティングは膜厚120マイクロメートルと150マイクロメートルを試す(図7)。

 また、水中稼働時の故障の発生しやすい箇所を特定するため、特に懸念されるUSB、PCIe、LANポートをまとめた試験片(ボード)を大量に作成し(図8)、水中で順次要所に電流を流し、ショート箇所=コーティングの破損箇所の有無を調べる。

 実験期間は年単位を見込んでいるが、目標としてはデータセンターの耐用期間の目安である2年の連続稼働を目指す。

パリレン樹脂コーティング基板コーティングの破損箇所を調べる試験片 (左)図7 パリレン樹脂コーティング基板(右)図8 コーティングの破損箇所を調べる試験片(出典:NII)

 この実験が成功すれば、まずは既存の液浸冷却マシンの冷媒を水道水に替えることが考えられる。やがては、自然環境の水と自然エネルギーによる発電を利用した、エコロジカルな分散型のデータセンターに結び付きそうだ。

 なお、大きな課題の1つは故障ボードの交換だ(コーティングされているため基板上の部品交換はできない)。これについては、光無線通信を利用して無接点化することと、無線給電の技術を応用することを構想している。

関連するキーワード

PUE(Power Usage Effectiveness/電力使用効率)

 データセンターの電力使用効率を示す指標。全体の電力使用量をIT機器の電力使用量で割った数値。この数値が「1.0」、つまりIT機器が消費する電力だけが必要で、付帯設備の電力はゼロになるのが理想だ。付帯設備の中で最も大きな電力使用量となるのが空調である。大規模な最新データセンターではPUE1.1以下をうたうケースが増えており、PUE1.01以下を目指す取り組みも多くなっている。いかに冷却を効率的に行えるかが、PUE低減の決め手になっている。

「水没コンピュータ」との関連は?

 鉱物油を用いた液浸冷却のコンピュータシステムではPUE 1.03が報告されている。この例では、鉱物油を冷やすために水を用いているため、間接冷却といえよう。一方、「水没コンピュータ」は冷媒となるのが自然の水や水道水であるため、効率的な直接冷却ができる。そのためPUE1.01以下も狙える方式となる可能性がある。現状ではPUEの良好なデータセンターは大規模施設に限られるが、中小規模のデータセンターでも水没方式はPUE向上に役立ちそうだ。

光無線通信

 可視光から赤外線、あるいは光ファイバー同様の波長の光を利用して無線通信を行う技術。よく使われる赤外線通信では数十センチ程度までのエリアで最高10Gpbsの高速通信も行える。また波長1.3マイクロメートル、1.5マイクロメートルなどの高い周波数のレーザー光を使って数キロの距離でも100Gbps以上で通信できる技術も開発されている。

「水没コンピュータ」との関連は?

 「水没コンピュータ」の基板故障時の交換の際、ケーブル類の取り外し、付け替えが大きな課題になる。水没したままでも簡単に交換ができるよう、インタフェース部を有線から無線に替えることで作業が安全、簡単になる(無接点化)。光無線通信はそのために有望な技術と考えられている。NIIの研究チームでは、光ファイバーの接触や厳密な位置合わせが不要で低コストな「ボールレンズ接続方式」による光無線通信をコネクタ部に応用できると考えている。

無線給電

 機器に接続せずに電力を供給する技術。狭いエリアでは、電磁誘導、磁界共鳴、電磁結合などの原理を利用して給電する。携帯電話、モバイル端末、各種家電に応用が広がっている。

「水没コンピュータ」との関連は?

 これも「無接点化」の1つの要素。基板故障時などの交換の際、水中では困難な電力ケーブルの差し替えを行わなくても済む。

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