単純作業などの業務自動化につながるRPAが話題となる中、新たな時代に求められる人材やスキルとは?
田中淳一(Junichi Tanaka):日本RPA協会 専務理事/KPMGコンサルティング デジタルレイバー&トランスフォーメーションビジネスユニット統括
外資および国内コンサルティング会社パートナーを歴任後、2015年よりKPMGコンサルティング執行役員パートナー。RPA(Robotic Process Automation)、AI、デジタルレイバーなど次世代デジタル技術を活用した業務改革、ビジネス革新のサポート、RPA時代のターゲットオペレーティングモデル(あるべき姿)構築等のコンサルティングサービスを提供。
業務効率化を強力に推し進めるソリューションとして注目されているRPA(Robotic Process Automation)。RPAがビジネスの現場に広がることで、これまで人手に頼ってきた単純作業などの業務は自動化、省力化することが可能になるのは間違いない。そうなれば、これまで行ってきた業務の一部はRPAに代替えが進むことになるため、時代にマッチした働き方やこれまでとは違うスキルを身に着けていく必要が出てくる。
では、RPAや人工知能(AI)が広く普及する時代において、どんな人材やスキルが必要になるのだろうか。今回は、そんなRPAの現状を見ていきながら、RPAやAIなどテクノロジーが進展するこれからの時代に求められる人材やそのスキルについて考えてみたい。
RPAは、デジタルレイバー(Digital Labor:仮想知的労働者)とも呼ばれ、これまで自動化の対象外とされてきたホワイトカラーの定型業務を自動化することが可能なソリューションだ。人が行ってきた作業のスピードが劇的に向上するだけでなく、コスト削減、作業品質の向上などに寄与するものとして、RPAは多くの企業で期待されている。RPAにはさまざまな利用方法があるが、KPMGコンサルティングでは、定型業務の自動化だけではなく、企業の業務改革を支援する仕組みとして捉えている。このRPAにAIなどの技術を組み合わせることで、さらに対応可能な業務の幅が広がっていくことになる。
RPAは、その進化の過程で3つのClassで表現されることが多い。それは、定型業務の自動化を行うClass1、ディープラーニングや自然言語、画像、音声処理などのAIを加えることによって非定型業務の自動化が可能になるClass2、そして問題発見、分析、意思決定、改善まで自動化できるClass3だ。
ただし、現在市場に展開している多くのRPAソリューションは、まだClass1のレベルに位置付けられるものが中心だ。現状ではRPAとAIは別のものとしてさまざまな業務変革にそれぞれ活用されているが、個別に技術革新が進むAI技術をRPAと組み合わせて利用するClass2の取り組みを進めることにより、業務をEnd-to-Endで自動化することが可能になる。
だが、最近ではUiPathやBlue PrismなどRPAツールベンダー側がコグニティブ領域の機能を付加し、ソリューションとして提供し始めているのが、今のRPAにおける現状だといえる。
なお、KPMGコンサルティングでは、通常のClass1のRPA機能に、ディープラーニングや自然言語処理、テキストマイニングといったAI技術を組み合わせる「Class2」RPA導入支援サービスの提供を行っている。
そもそもAIには、言語処理や画像処理などのインプット情報を扱う「認知系AI」と学習や推論によりアウトプットを出す「推論・最適化系AI」の2つがあるが、これらのAI技術とRPAを組み合わせながら、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)やガバナンス構築方法論、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けたワンストップサービスを提供している。
例えば文字認識では、OCRツールや画像認識ツールを現場に合わせて適用、音声認識では単語をベクトルに変換しその類似性を表現することで理解するWord2Vecと呼ばれる技術を活用するなど、Class2ソリューションが提供できる体制を整えている。
最近では、金融機関を中心にRPAの導入事例が大きな話題となってメディアを賑わせており、高い投資対効果を発揮するツールとして各業界からの期待も高い。しかし、現実的に劇的な業務効率化を実現するためには、既存の業務にRPAを適用するだけでは難しく、業務プロセスの改善も含めたBPRを通じてRPA導入を推進していく必要がある。
通常であれば、既存の業務プロセスのなかで単純作業を選択し、RPAに置き換えていく形でプロジェクトが進んでいくことになるが、実は最初から最後まで単純作業で完結できる業務は全体の1〜2割程度しかないことに気付くだろう。通常の業務であれば、これまでの経験や何らかの知見を活用し、適切な判断を行いながら業務を遂行することになる。単純作業だけをロボット化したとしても、結局大きな業務改善につながらず、RPAは期待されたほど役に立たないと結論付けられてしまうことも少なくないのだ。
RPAの実力を最大限発揮するためには、既存業務の中で自動化できるものだけでなく、業務プロセス全体を見直しながらもっとロボットが使いやすい業務を増やしていく、いわゆるBPRと一緒になって取り組むことが、RPA導入で効果を出すには重要なポイントになってくる。RPAが魔法のツールのように扱われているケースもあるが、実際にはRPAを生かせる業務プロセスづくりとともに進めていくことが重要だ。
RPAが登場した当初、ロボットによる自動化によって自分たちの仕事が奪われるのではと危惧する意見も少なくなかった。RPA自体の理解が進みつつある今では、その意見も多少は和らいだように見えるものの、いまだに根強く残っている感情だといえる。確かに、入力や転記などの単純作業はRPAに置き換わることが十分考えられるため、その業務自体は人手がいらなくなるのは間違いない。
しかし、本質的にはRPAによって仕事の内容や求められる業務が変わってくることになり、例えばロボット作成やその管理など、新たな仕事が増えることで雇用が生まれることにもつながる。単純作業自体は確かに人手を介在させることがなくなるものの、これまでとは違う業務で人間がやるべきことがたくさん出てくることになるはずだ。
実際にプロジェクトとして取り組んでいるもののなかには、RPAを現場に派遣するための“ロボット管理部”を社内に新設しているといった例がある。これは、ロボットそのものを作成、もしくは外注して、社内のさまざまな部署に配属させるための組織で、実際にロボットがどんな状況で稼働しているのか、仕事はちゃんとこなせているのかを管理し、本来の業務が変わればロボット自体を再教育して再び配属させるなど、ロボットに関連したさまざまな業務を行っている。実際にはそれなりのリソースを割いてロボット管理部を運用しており、そこにはRPAに関連した新たな仕事が生まれているのだ。
では、RPAを効果的に活用するためには、どんなスキルや経験が求められるのだろうか。当然ながら、日々の業務のどのプロセスにロボットが適用できるのか判断するための、より具体的な業務フローの理解が必要だろう。同時に、どんな形でロボットを実装し、それらが適切に稼働しているかどうかを見極めていくためのIT知識も必要になってくる。つまり、実装するためのIT知識とともに実際の業務に関する知識という、ITと業務双方に精通した知識や経験が求められてくる。
出自によってはどちらかに軸足があっても問題はないが、業務設計やIT実装の場面できちんと内容を理解して適切に判断できるだけのスキルは必要になってくる。もちろん、プロジェクト体制で双方の知見を持った人材を集めてプロジェクトを推進してもよいが、必ず双方の知見が生かせる場づくりを行う必要がある。
また、BPRも含めてRPAプロジェクトを進めるためにも、業務を正しく分析する力は求められるだろう。今の業務の中でRPAが適用できる部分を見極めるのはもちろんだが、そもそもその業務が本当に必要なのか、長年の慣習で続けているだけで本質的に重要なのかといった、業務そのものの重要性を自社のビジネスモデルに照らし合わせて論理的に判断、説明できるスキルが必要になる。
RPA時代には、これまでとは違う新たな働き方や新たなカテゴリーの仕事が登場することが考えられるが、これは多くの業界や企業のなかで同様の変化が起きることだろう。KPMGコンサルティングでは、RPA時代に求められる新たな人材像を5つほど例示している。
RPAやAI技術などを踏まえた範囲の広い問題を大局的に捉え、洞察・意思決定を実施する仕事。具体的にはRPAやAIを使ってこれまでとは異なる顧客接点やビジネスモデルを構築するなど新たな視点でビジネスを創造し、環境づくりを行っていくものだ。
例えば、富裕層を中心にサービスを展開してきた投資ファンドが、AIなどを使ってそのノウハウを定量化し、RPAを駆使して準富裕層や若い客層に向けて同様のサービスを展開するといった、高付加価値のサービスを幅広い層に展開していくためのサービスモデル創出などだ。最近ではデジタルトランスフォーメーションを推進するなかで、デジタル推進部といった事業部を新たに立ち上げた金融機関の例も出てきたが、まさに彼らのミッションは、デジタルやRPAなどの技術でビジネスを創造することである。
AIやロボット技術を駆使し、自動化をさらに推進する新たなソフトウェアを生み出す、いわば技術寄りの仕事だ。市場ニーズをしっかりとらえたうえで、RPAに高付加価値な仕組みを組み合わせて構築していくことで、RPAそのものを拡張していくようなことを目指す仕事になる。
先端技術に精通していながら、業務に適したものをプログラミングしてデジタルレイバー化していくことになるため、現場の知識や経験も求められてくるため、ユーザー企業内でも出てくる可能性はあるが、その中心はベンダーやインテグレーターに生まれる仕事になってくるだろう。
RPAやAIを活用して業務を構築し、日々の運用における管理や監視も行いながら、改善活動につなげていくような仕事が業務デザイナーだ。業務そのものをデザインすることになるため、より深い業務知識や業務フローへの造詣が求められる。
次世代テクノロジストが技術寄りの仕事に対して、業務デザイナーは業務に軸足が置かれている仕事になり、ある意味業務とテクノロジーとの橋渡しを行うことになる。最終的に業務に落とし込む部分を担うため、RPAをうまく運用していくためには重要な役回りとなってくるのは間違いない。
共感スペシャリストは、まさにロボットなどにはできない仕事の領域で、例えば商品を購入する際に成分や性能をロジカルに判断して購入するのではなく、接客などの“人の温かみ”で購入するといった人に対応する仕事だ。
保険の営業などを例に挙げると、足しげく足を運んで日々いろんな話を聞いてくれることで信頼を勝ち取り、その営業マンの人柄や温かみで契約するといった場面は想像できるだろう。まさにコミュニケーションスキルなどが卓越している人で、ロボットにはできない領域を極めることが求められる。
実際にRPAなどが広く普及してくると、サービスそのものがそれなりに高度化するものの、サービスを提供する各社に差が生まれにくく汎用的にならざるを得ない。そこで差別化の要素として出てくるのが、まさにこの共感スペシャリストという仕事になってくると考えられる。
ロングテール専門家は、新たに必要になる人材というよりも、費用対効果を考えるとどうしても残っていく専門の領域をなりわいにした仕事全般を指している。RPA自体は決して安価なものではないため、お金をかけてロボットを投入しても効果が表れにくい領域はある。業務のなかでロボット化したほうがいい領域とそうでない領域は企業によって異なるために具体例が提示しにくいが、それほど業務に割く人員は必要ないものの、必要となる業務だ。
RPAは自動化を推進するソフトウェアであるため、どうしてもシステムとして捉えられがちだが、実際には業務を変えていくためのツールだ。だからこそ、IT部門ではなく業務部門がリードしていく必要がある。堅牢なシステムを安全に稼働させることが大きなミッションだったIT部門からすると、RPAはとても軽く、運用のなかで柔軟に変更が求められるものだけに拒否反応も出やすい。ある程度の業務がカバーできれば、効率化に少なからず寄与してくれるのがRPAであり、どうしても従来型の考え方とは相いれないところもある。だからこそ、業務部門が主導的に動いていくことが、RPA導入を成功に導くためには欠かせない。
RPAの理解や認知が広がっていない状況では、そもそもRPAが何なのか、RPAを導入すると仕事がなくなるのではと危惧する声も出やすい。だからこそ、具体的な効果を社内的に見せていくことで、懐疑派や慎重派を推進派に変えていくことが重要だ。
そのためには、PoC(Proof of Concept)など小さな範囲で試験的に進めていくことが成功につながりやすい。しっかりと社内で効果検証できた段階で、少しずつ進めていくことが大切になってくる。ツールについても、ある程度決め打ちで進めてみて、ダメであればほかのツールに乗り換えるといった柔軟な考え方でRPAを社内に取り込んでいくほうがいい結果につながりやすい。
業務部門が小さく始めるといっても、あまり現場に任せてしまうと、気が付けば統制の取れていない“野良ロボット”が乱立してしまうという状況に陥ることも考えられる。どこかのタイミングで、運用の仕組みなども考慮しながらしっかりとした体制を整備していきたい。
RPAプロジェクトは、業務改革のプロジェクトであり、業務改革を根付かせるのであれば役員クラスの強いリーダーシップのもと、プロジェクトチームを設置することが理想だ。構築が比較的容易なRPAだけに、各機能・各事業に対して横串でオーナーシップを発揮できる推進体制の構築が必須となる。小さく始めるとはいっても、運用上のルールや現場が見える化できる仕組みづくりは、しっかりと行っておきたいところだろう。
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