経理部長のつながりから始まった関係ではあるが、法務専任担当者がいないうるるにとって、小笠原氏と角田氏の協力は大きかったという。
上場直後だったことで法務担当者が関わる案件の数は増えていたものの、専任の担当者がいなかったため、「当時はCFOが法務を兼務する状況」(星氏)。まずはこの状況を解消すべく法務実務のサポートを担当した形だ。小笠原氏と角田氏はここから、週に1回ずつ、うるるのオフィスで法務実務のサポートをするとともに、さらに踏み込んで法務実務のオペレーションの確立を支援し、一部については意思決定のプロセスを深くサポートした。傍らでうるるの法務組織を抜本的に効率的に回すためにLegalForceのサービス開発を進めた。
「業界×Tech」があらゆるところで盛り上がりを見せる中、法務の業務領域もLegalTechとしてITによる改革が進む状況だ。それでも、日本語の文章を扱うツールとなると精度が問題になる。AIによる自然言語処理の技術は進化しているとはいえ、実務に耐えるのか。
「実は、私自身も当初、日本語の取り扱いが難しいのではないかとの仮説から、最初のプロトタイプでは文書レビュー機能は避けようと考えていました。しかし、契約書という特殊な文章を対象にした場合、現在のAIによる自然言語処理をきちんと生かせば相応の結果が出ることが分かり、まずは契約書のレビュー機能を拡充し、法務の実務の中で最も非効率な領域をターゲットとしようとサービスを再設計したのです」(小笠原氏)
「LegalForce」の正式リリースは2019年6月。ゼロから再設計したというプロダクトのベータ版をリリースしたのは2018年8月20日のことだった。現段階のメイン機能は契約書類の自動レビュー機能だ。さまざまな契約書データを学習した独自のAI型契約書の文面分析基盤をSaaSで提供しており、契約内容ごとの表記、表現の傾向や留意すべき事項、修正方法を、アラートの形で提示する。
契約企業ごとに書類も蓄積できるため、使い続けることで目的別の契約内容や取引先ごとの留意点などの情報も蓄積する。「類似の案件で過去にどのような実績があるか」を、担当に依存せずに把握できる。
正式版はベータ版を評価した主要な顧客からのフィードバックを受けてブラッシュアップした成果だ。うるるの面々もベータ版のレビューに参加した。
「最初はインタフェースも何もかもが今と全く違ったんですよ。正直なところ、『いまいち』だったところもあった。そこから相当ブラッシュアップし、今は圧倒的に良い。本当に使い勝手も内容も、申し分がない」と、星氏はLegalForceを高く評価する。
現在正式にリリースされているLegalForceの契約書レビュー機能では、リスクが懸念される項目にアラートも示される。このリスク判定には、公開されている判例情報や、うるるのようにベータテスト段階から参加する企業の「リアルな契約書の情報」も活用する。許諾を得た起業からは契約書のひな形の提供を受け、匿名化した上で言語処理にかけたり、判定ルールを構築したりする材料としているそうだ。
個別の情報は使わないものの、協力企業の法務ノウハウは、バックグラウンドのルール設計に生かしている。提案文言も法務のプロ同士がチェックして、出来上がった文書を参考に、実務で使えるようチューニングをしている。
「契約書の形態類型を増やすアップデートは日々進めています。精度に関しては、現状でも90%程度の制度で自動レビューを実現しており、利用企業さまの満足度も高い状況です。将来的にはLegalForceによる契約書レビューは弁護士を超えるレベルに到達すると見込んでいます。2020年のホットトピックである民法の大改正についてもフォローすることから、法務組織としてはこれを導入しない手はない」(小笠原氏)
本稿取材時点で、うるるは本格的に契約書のレビューをLegalForceで運用する体制を整えていた。結果は、本稿冒頭にある通り1つの契約書に30〜1時間かかっていた契約書のレビュー時間が約半分くらいに時間が短縮できている状況だ。
秋元氏は「一人法務はとても不安。『この文言で契約して大丈夫なんだっけ?』を質問する相手がいない。同じ担当業務の同僚がいれば相談できるでしょうが、スタートアップの企業ともなるとそうはいかないことが多い。しかも、日常に追われている中で、民法改正などを1人でフォローアップして、レビューに生かすことは難しい。こうしたときに、自信を持って確実にチェックした、という裏付けになるのは心強い」と評価する。
また星氏はLegalForceについて今後の発展を期待する。「最近は小さな企業でも勢いのあるスタートアップともなると大手企業との取引も当たり前にある状況です。大手企業の法務部門からの引き合いも多いようですが、私たちのような、ベンチャー/スタートアップ企業でも利用が広がると期待しています」(星氏)
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