RPAの失敗企業に共通してみられる、ある傾向とは。さらにAI-OCRを活用する際の盲点は。
RPA(Robotic Process Automation)の活用が進むにつれて、その「盲点」や「落とし穴」といったキーワードが注目を集めるようになった。しかし、ベンダーや導入企業などによって、その主張は微妙に異なっている。現場主導か情報シス主導か、ROIを重視するか現場の悩み解決優先か――。
そこで多くの企業のRPA導入を指揮してきた豆蔵が、経験をふまえてRPAの失敗企業と成功企業に共通する点を分析し、導入の注意点をまとめて解説した。一歩進んでRPAと連携させたい技術として注目を集めるAI-OCR(光学文字認識)の現在地や、できることとできないこと、活用の注意点も発信している。
国内企業で約7割の企業がRPAを導入または前向きに検討している──。2019年1月にMM総研が実施した調査ではそんな結果が出た。有効回答数は1112社で、導入済みとの回答は32%、検討中は37%、未導入は31%という内訳だ。こうした数字見る限り、RPAは企業に広く浸透し、今後も導入が増えると予想できる。
RPA導入に全くリスクがないと考えるIT担当者はそう多くはないだろう。管理の目がいき届かないロボットが作成、利用される「野良ロボット」の問題や、連携するソフトウェアがバージョンアップした場合にロボットを継続的に修正するメンテナンスの工数、作成者の移動や退職に左右されずにロボットをどう統制するかというガバナンスやリスク管理の課題もある。
現場主導のRPA導入の場合、自分たちの効率アップに集中するあまり、管理の問題を過小評価してしまうケースもある。RPA導入のコンサルティングで定評のある豆蔵の五十嵐智幸氏(デジタル戦略支援事業部 第3グループグループ長)はこう話す。
「期待を抱いてRPAを入れたはいいが課題が多い、というのが現実です。調査によると、RPAを利用している企業の8割が30%以下の業務削減効果しか得られず、3割の企業は削減効果が10%以下です。ロボットの作成に手間取ったり、開発にそれなりのスキルが必要になったりするケースも多くあります。対象システムの画面変更やアップデートの都度ロボットの修正が必要になったり、ロボットがうまく動かなかったりするという問題に悩むこともあります」(五十嵐氏)
こうした「期待と現実」のギャップはなぜ生まれるのか。五十嵐氏は、RPAの効果に対する考え方や、効果の出るやり方について留意すべき点があると説明する。
五十嵐氏によると「うまくいっていないケース」の特徴は「定量効果しか見ていないこと」だという。
「対象業務を選ぶ際にも定量効果だけを見て選んだり、逆に効果の薄いものは除外したりといったケースが見られます。また、いきなり業務標準化や共通化といった大きな目標を目指してしまうこともよく見られます」(五十嵐氏)
効果を求め、標準化や共通化を目指すのは当然に思えるが、これが逆にプロジェクトを失敗につながるという。実際、成功事例をみると、定量的な効果を過度に求めすぎていないことが奏功していると同氏は主張する。
「身近な困りごとの解決からはじめ、当事者意識を持って進めることがポイントです。最初から欲張らないことで、取り組みもスムーズに進みます。また、定性的な効果や成功体験も大事です。結果的に効果としての数字につながっていきます」(五十嵐氏)
うまくいっていないケースのもう1つの特徴は「従来のシステム開発と同じ考え方」で取り組んでしまうことだ。
「RPA導入パターンとして、外部に一括発注するパターンはうまくいきません。コストが高く、ノウハウも残りません。ロボットの修正や変更に多大な時間もかかります」(五十嵐氏)
RPAは現場が主体となって運用することが多い。そのため、ITシステムと同様に考え、パートナーに開発を丸投げしてしまうと、運用できなくなってしまうのだ。同じように、重厚な開発ツールや開発プロセスを構築してしまうと、現場での運用がまわらなくなる。
「RPAは現場の使えるITツール、ビジネスの武器といったように考えることが重要です。もちろんガバナンスは必要なのですが、緩急が大事です」(五十嵐氏)
他にもプロジェクトの失敗の要因として「RPA化だけが目的になっていること」「RPAに過度な期待をしてしまうこと」などが挙がった。
さらに、よりRPAの高度な活用に至るフェーズでも注意点があるという。豆蔵の本田清彦氏(デジタル戦略支援事業部 第3グループ副グループ長)がAI-OCRとの連携ポイントを解説した。
RPAは、AI(人工知能)との関係性について議論されることが多い。総務省の情報通信統計データベースでも、RPAのクラスを、定型業務の自動化「クラス1: RPA」、AI活用による一部非定型業務の自動化「クラス2: Enhanced Process Automation」、意思決定まで自動化する高度な自律化「クラス3: Cognitive Automation」と定義している。
RPAとの組み合わせによって一番高い効果が期待されている技術の一つが「AI-OCR」だ。いわゆる「紙・非定型・手書き」の書類をデジタルデータに変換する。
「いま20年ぶりのOCRブームが到来しています。OCRにAIを組み合わせ、文字認識率と場所特定率の精度が向上しているのです。キーワードや座標、周辺情報などの要素をもとに、どの場所にどの文字データが配置されているかをAIで判別するのです」(本田氏)
AI-OCRは、従来のOCRよりも認識率が高く、手作業に比べて大幅な時間短縮を見込めるが、利用時には注意が必要だ。
「人のように帳票を自在に見分けられるレベルに至っていないのが現状です。文字単位で見れば認識率は大幅に向上していても、項目単位で見ると、実用に耐えないケースが多いのです。例えば、『あいうえお』という文字をそれぞれ認識できる場合でも、それらが並んだ項目単位で見た際に『あいええお』と認識してしまうことがあります。これではまったく実務で使えません」(本田氏)
場所特定率についても同様だ。帳票における入力欄の座標が固定されていて、必ず同じ場所に同じ項目が入る場合は問題も少ないが、ビジネスの場では、取引先や商品ごとに項目の位置が変わったりする準定型帳票が使われることが多い。
準定型帳票において場所を特定する場合、あらかじめ特定の文字列との位置関係や正規表現との一致、文字種との一致といった要素を用いて、文字抽出のためのルールを設定しておく必要がある。
「しかし実際には、多くのフォーマットの帳票がある中で、特定の帳票の傾向を把握し、ルールに起こすことは難しく、この行程がボトルネックになることはよくあります。また、特定のルールをもってしても座標を抽出できない非定型帳票に至ってはAI-OCRでの対応が難しくなります」(本田氏)
認識後にAI-OCRの認識結果を人手でチェックする「認識修正」が必要であることも課題になりやすい。修正の際には、一覧から文書を一枚一枚開かなければならないような仕様のシステムもあり、「手作業のほうが早い」となりがちだ。
本田氏は「AI-OCRの例を見ても分かるように、RPAとAIの組み合わせは発展途上で万能ではありません。AI-OCRを活用する際は、どれだけの種類の帳票を扱う必要があるのか、それは定型なのか、準定型なのか、ルール化できるのか。まずは実態をきちんと把握し、整理をすることが重要です」とまとめた。
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