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3年でDXの突破口を開いたRPAが、次の3年で迎える「第2ステージ」とは──アビームコンサルティング・安部氏に聞く

» 2020年04月01日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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その年のトレンドを象徴するプロダクトとして、アビームコンサルティング株式会社の「RPA業務支援サービス」が「日経優秀製品・サービス賞」で2017年の最優秀賞を獲得したことをご記憶の方は多いだろう。働き方改革への対策が急がれた当時、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に対する社会的な注目はピークに達していた(関連記事)。

その後、社数ベースでのRPA普及は着実に進んだ。この点について一定の評価はしながらも「単なるツール導入にとどまり、ビジネス変革まで至らないケースが想定以上に多い」と課題意識を募らせるのが、同社のデジタル業務改革チームをリードし、RPA活用による企業変革の支援を進めてきた安部慶喜氏(戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル)だ。

ここまでの3年で得た成果を踏まえ、向こう3年で日本のRPA活用を「第2ステージ」に引き上げたいと意気込む同氏に、現状の分析と、今後進むべき方向性について聞いた。

■記事内目次

  • 現場頼みだけのRPA推進は限界
  • RPA活用の第2ステージは「経営トップの関与が必須」
  • RPAがDXをリードする2つの理由

現場頼みだけのRPA推進は限界

─「2019年の下半期以降、国内におけるRPAの普及が新たな段階に入りつつある」と伺いました。どういうことか、詳しくお聞かせいただけますか。

少子高齢化に伴う人手不足を背景に、RPAは「現場の事務負担を軽減するツール」「業務を即効的に効率化できるソリューション」として、日本企業へ急速に受け入れられました。特に大企業は、すでに9割以上が何らかのかたちでRPAを活用している状況です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を担う多様なテクノロジーの中でも、RPAは短期間で「机上の研究止まり」という壁を乗り越え、非常に多くの企業が「実際に使っている」ツールです。この3年ほどで実用性の認知も進み、企業の業務効率化において一定の成果を挙げたのは間違いないでしょう。私は、ここまでがRPA普及の「第1ステージ」だったと考えています。

ただ一方、2019年半ばを境に、それまでの強い期待感を伴ったRPAへの視線が変化してきた印象も持っています。これは、実際のRPA運用経験を経て「かかる手間の割に効果が出ない」と失望感を抱くユーザーが現れてきたことと無関係ではありません。

「現場に渡して使ってもらえば作業効率化が進む便利なツール」という認識でいる限り、RPAの活用対象は、既存業務の部分的な置き換えにとどまります。このため導入効果はすぐ頭打ちになり、運用の負担感ばかりが増していくことになります。

そうした停滞を打開するには、RPAを適用する業務自体を大胆に見直さなくてはなりません。いち早くこれに成功した企業は、生産性を継続的に高めながら、RPAとの連携を通じて他のテクノロジーも続々と実用化しています。そうした取り組みを定着させていくのが、RPA普及の「第2ステージ」だと考えています。

─RPAの真価が発揮できるよう「既存業務の代替」から「業務変革の一環としての応用」へ、用途を切り替えるべきだということでしょうか。

そうです。RPA導入に併せた業務変革の必要性を、私たちは一貫して訴えてきましたが、いよいよ、そうしなければ成果が出ない、さらにその先のDXも進まないという状況に至ったということです。私たちの支援実績をみても、RPA導入で顕著な成果を得たケースのほとんどは、業務改革に踏み込んだ企業によるものです。

業務手順を、RPAをはじめとするデジタル技術の活用を見据えた形に変えることで導入効果が高まるのはもちろんですが、業務プロセス改革とRPA導入を並行させたケースの生産性向上要因分析からは、およそ6割が業務プロセス改革による効果であることも分かっています。

─半分以上の効果がRPA以外に起因するなら、実はRPA活用は不要なのではないですか。

そうではありません。業務改革の取り組みをRPAと並行させることに意義があります。

というのは、「現状の否定」とも受け取られやすい業務改革を単体で進めることは、現場の抵抗感もあって容易ではないからです。「ロボットに業務を任せ、人はより価値の高い仕事へシフトする」機会だからこそ、現場の人たちも、従来と全く異なる抜本的な改革を受け入れてくれる。これが数字には表れない、RPA活用の大きなメリットです。

RPA活用の第2ステージは「経営トップの関与が必須」

─RPA活用と業務改革を、実際に並行させた成功事例にはどのようなものがありますか。

あるメーカーの知財部門では、特許申請の事務作業にRPAを導入するにあたり、全ての申請を同様に扱ってきたルールを改め、申請の重要度に応じて工程を変える見直しを行いました。多くの工程は効率化で所要時間が半減しましたが、中には従来の3倍の時間をかけて念入りに確認することになった工程もあります。

これは「特許申請数」で前年を上回ることを目指してきた部門が、新たに「特許内容の重要度」を指標に採り入れるという、事業戦略に沿った改革を実施したことを意味します。

また、ある金融機関では「紙とはんこ」で行っていた決裁の電子化に踏み切り、専用のソフトやRPAを導入しました。これに伴い、書類への押印を前提としていた内部統制ルールが全面的に見直されています。

いずれのケースでも、直接業務に携わる現場からは当初「(現行の)ルールと違うのでできない」と即答されました。しかし経営陣に趣旨を説明して承諾を得たところ、1週間もかからずに「できる」という結論に変わったのです。

RPA活用の第1ステージでは「作業が楽になる」という現場の実感が原動力となりましたが、第2ステージにおいては「経営トップを巻き込み、業務改革の決断を引き出せるかどうか」が成否を分けることになるでしょう。

─これまで「現場主導」のRPA推進が強調されてきましたが、それを業務変革につなげるには、経営を舵取りするトップの意志決定も不可欠ということですね。草の根的に始まった取り組みを、そうした段階に移行させていくポイントはありますか。

大きな要素は「組織づくり」です。RPAを含むテクノロジーを全社的に普及させるための「デジタル推進専門組織」を設け、この組織にしかるべき権限を持たせるべきです。

特に重要となるのが、この組織の顔ぶれと人選です。現場のリーダー格だけでなく、関係部署の管理職も加わり、組織としてのコミットをしてもらうことが大切です。「各部署から1人ずつ人を出してください」という程度では、実効性が期待できません。

また、部門を超えた全体最適を目指す上では、専門組織のトップとして社長や常務クラスの「役員を動かせる役員」が旗を振るのが理想的です。DXの必要性を理解している役員を味方に付けて責任者に据え、全社的な業務改革を推進する権限を明確化することがポイントといえるでしょう。

RPAがDXをリードする2つの理由

─RPA活用を、DX戦略の入り口に位置づけている企業も少なくないようです。実際のところRPAがDXにどう役立つのか、あらためて整理いただけますか

大きく2点あると考えています。

1つは、デジタルテクノロジーをRPA経由で運用することにより、テクノロジーの導入や入れ替えがより迅速、かつ身軽に行える点です。

一般ユーザーの目に触れる部分は簡素なユーザーインターフェースを保ったまま、その背後でRPAを動かし、OCRやチャットボットといった多様なテクノロジーに連携するハブとして使うことで、データ取得や出入力、さらに基幹システムへの入力などを一体的に自動化したソリューションが構築できます。こうすることでユーザー1人ひとりが個別のツール操作を覚える必要がなくなるため、周知・習熟するためのコストをかけず、いつでも新しいデジタルテクノロジーをビジネスに取り入れていくことが可能になります。

もう1つは、ユーザー企業が内製化にチャレンジし、少なくとも部分的に成功しているRPAは、自社のDXを自走的に進める足がかりになるという点です。

現在、RPAの実装・運用を私たちのような外部企業に全て委ねる企業は少なくなりました。規模の大小は別として、RPAユーザー企業の大半は社内でソフトウエアロボットをつくり、実際に動かせたという成功体験を持っています。「社外、あるいは自社のIT部門に頼らなくても、バック・ミドル・フロントの各業務部門が新たな業務フローを構築し、そこで必要なテクノロジーを自走的に運用する」イメージを持ちやすいのは、RPAユーザーの大きなアドバンテージです。

IT人材の7割がユーザー企業に所属している米国と異なり、IT人材に占める社内エンジニアの比率が3割にとどまる日本では、テクノロジー活用とともに自社のビジネスを変えていくDXの中心的役割を、IT部門とともに業務部門でも担う必要があります。そのための具体的な戦略として、自走が定着しつつあるRPAへの知見をベースに、他のテクノロジーとの連携に発展させていくのが現実的だと考えています。

−RPA運用を内製化できれば、その知見がDXの基礎となるのですね。ただ、ハードルも高い気がします。

最初は外部からの支援を受けるとしても、相応の時間とコストをかけながら業務改革を実践してきた実例が国内外で多数ありますから、本気で臨めば、さらなる改革が必ず実現できます。RPA活用で得られた「何のために導入するか」という企画起点の視点や、スピーディーに効果検証を重ねて改善していくアプローチで取り組めば、日本企業は今後3年で、デジタル活用において世界でも先進的なポジションを築くこともできると考えています。

DX推進に向けて確固たる社内基盤を築くためにも、実効性のあるデジタル推進専門組織を設け、業務改革としてのRPA活用を経営戦略に組み込むというRPA活用の「第2ステージ」を、1社でも多くの企業が実現してほしいと願っています。

RPA活用のステージを上げるために改善すべきポイントは、「業務プロセス」と「人やITに関わる組織体制」に大別できます。その詳細は、既に第2ステージに入った企業の成功事例をもとに、機会をあらためてご説明します。

−RPA活用のレベルアップと業務改革やDXとの関係がよく分かりました。次回はどのような事例をご紹介いただけるか、楽しみにしています。

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