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オフィスが「密」なのは経営者のせい? バーチャルオフィスが問いかける「組織の形」

請求書や発注処理、帳票を作っては印刷して郵送するのが当たり前というのは、常識ではなく惰性だったのかもしれない。パンデミックが起こるずっと前にはもうバーチャルオフィスで業務効率改善を進めていた企業に聞いた。

» 2020年05月15日 08時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティー・ワイ]

各業務でITツールをフル活用、4つの場所をつなぐ「バーチャルオフィス」を実現

 2004年に設立のヒューマンセントリックスは、企業のプロモーション動画や商品・サービス紹介動画、セミナー動画など、ビジネスシーンで用いられる動画コンテンツの企画・制作を専門とする。まだ動画コンテンツのビジネス利用が珍しかった時代から、この分野の先駆けとして市場を開拓し、現在では累計3万本にも及ぶコンテンツ制作の実績の中で培ったノウハウを生かし、多くの法人顧客からの信頼を得ている。

 同社の営業拠点は東京にあるが、コンテンツの制作拠点は福岡に構えている。こうした分散体制をとる背景には、同社の創業者で代表取締役である中村寛治氏の過去のキャリアが色濃く反映されている。

 「ヒューマンセントリックスを設立する以前、私は長らくIT業界で働いてきました。外資系IT企業の営業責任者として都内で営業活動を展開しました。その後、別のIT企業で福岡に九州拠点を立ち上げた経験もあります。東京と福岡にそれぞれ深く関わった経験から、『福岡でモノを作って東京で売る』というビジネスモデルが実現できないかと長らく構想してきました」

 こうした背景があり同社の2拠点体制が生まれた。現在ではさらに沖縄県久米島にラボを構える。在宅勤務で業務を遂行する従業員も多いことから、同社拠点は東京・福岡・久米島に、従業員それぞれの自宅を加えた4拠点体制を敷く。同社のコンテンツ制作は、さまざまな分野の社外クリエイターとの共同作業によって進められる。同社の従業員数は現在83人だが、制作過程においてはその倍以上の数の社外スタッフが加わり、常時約200人体制で制作を遂行する。

ヒューマンセントリックス 代表取締役 中村寛治氏 画像は外出自粛期間前に撮影したもの ヒューマンセントリックス 代表取締役 中村寛治氏 画像は外出自粛期間前に撮影したもの

 このようにさまざまなロケーションに分散する人々が互いにうまく連携をとり、コラボレーションを進めていくためには、やはりITツールの活用が欠かせない。同社の創業者である中村氏も、IT業界における長年の経験を踏まえ、ITツール活用の重要性を十分認識していたことから、同社の創業当初からさまざまなIT製品・サービスを積極的に導入してきた。

 「これまで培ってきたIT業界の人脈を基に、『この人が薦める製品なら間違いない』『この人が立ち上げたサービスなら間違いない』と思われる製品・サービスをいち早く導入してきました。例えばSaaS型名刺管理の『Sansan』もその一つです。サービスがローンチされた直後に導入して、現在でも活用しています」(中村氏)

 その他にもSFA・CRM「Salesforce.com」、コミュニケーションツールに「Slack」、プロジェクト管理ツール「Backlog」、ファイル共有サービス「box」、購買業務の「Amazon Business」など、業務ごとに最適なITツールを導入して社内外のコラボレーションの円滑化を図り、働く場所にとらわれない「バーチャルオフィス」の実現を目指す。

バーチャルオフィスの体制と運用に利用する主なツール《クリックで拡大》

煩雑な手作業が多かった請求業務を「MakeLeaps」で効率化

 そうしたITツールの一つに、メイクリープスが開発・提供するクラウドサービス「MakeLeaps」がある。MakeLeapsは、見積書や請求書など請求関連の帳票にまつわる業務を支援するSaaSアプリケーションだ。クラウドで見積書や請求書を簡単に作成できる機能を提供する他、過去に作成した帳票のデータを一元管理・検索・参照してより作業を効率化し、請求書のデータと入金データと突き合わせて請求消し込み作業を省力化できる。

 また、帳票類に記載されたデータを集計・分析してレポート形式で表示できるため、請求業務の現状を正確に可視化できるようになる。加えて、紙の請求書の印刷、封入、投函の作業まで代行してくれるため、請求業務の全ての作業に渡って効率化効果が期待できる。

 同社 エンタープライズ営業部 安河内 裕之氏は、MakeLeapsの導入を思い立った経緯について次のように述べる。

 「かつては請求業務を全て手作業で処理しており、月末になると当社の営業担当者がお客さま宛ての請求書を作成・印刷して郵送する作業に追われていました。こうした作業はビジネスにおいて必須ではあるものの、営業担当者にとっては本来やるべき仕事とは懸け離れた作業です。当社では、全ての従業員がそれぞれのコア業務に専念することで会社全体として最大のパフォーマンスを発揮すると考えており、そのためにさまざまなITツールを積極的に導入・活用してきました。そこで請求業務についても他の業務と同じく、ITで作業を効率化できる方法はないか以前から情報収集を続けていました」

ヒューマンセントリックス 安河内 裕之氏 ヒューマンセントリックス 安河内 裕之氏

 その過程で見つけたのが、MakeLeapsだったという。早速試用してみたところ、同社のニーズにぴったり合致する製品であることがすぐ判明した。「特に過去の案件の見積書や請求書が一覧で分かりやすく整理され、システム上で簡単に呼び出して参照できる点が魅力的だった」と同氏は言う。

(MakeLeapsが提供する機能、サービス) MakeLeapsが提供する機能、サービス《クリックで拡大》

 以降では、安河内氏が導入を決定する決め手となったMakeLeapsの各機能や実際の利用シナリオ、導入の効果などの情報を詳しく見ていく。

 「弊社が取り扱う案件は、以前からお付き合いのあるお客さまからのリピート案件が多くを占めます。従って、見積書や請求書の作成作業も、そのお客さまの過去案件で作成したものを参考にしながら進めます。かつては「Microsoft Excel」を使ってこれら帳票類をばらばらに作成しており、データベースで管理されていなかったので、過去に作成したものを探し出すだけでも一苦労でした。しかしMakeLeapsならそれらが全てシステムで一元管理されており、過去に作成された見積書や請求書を素早く検索して呼び出せるため、とても便利だと感じました」(安河内氏)

書類作成では「定型パターン」も設定できるため、書類発行もスピーディーに操作できる 書類作成では「定型パターン」も設定できるため、書類発行もスピーディーに操作できる《クリックで拡大》

 また既存顧客の案件だけでなく、新規顧客の場合も「Webサイトに掲載されているあの事例の動画のようなものを作りたい」という問い合わせが寄せられることが多く、この場合も過去案件の見積書を掘り出して、それを基に見積書を作成する必要がある。こうしたケースでも、MakeLeapsは大いに役立つと思われた。

 さらには、一般的な見積書・請求書作成ツールとは異なり、自由記入欄が設けられている点も同社の実務の事情に則していたという。

 「細かな取引条件や値引き条件などを自由記入欄に書き込んでおくことで、事後に誰が参照しても取引内容を把握でき、正確な情報を基にしたやりとりが可能になります。こうした細かい点での配慮も、MakeLeapsを採用した理由の1つでした」(安河内氏)

見積書や発注書、請求書なども顧客や案件ごとに一覧で確認できる 見積書や発注書、請求書なども顧客や案件ごとに一覧で確認できる《クリックで拡大》

MakeLeapsによる請求業務をアウトソースすることでさらなる効率化を達成

 こうして同社はMakeLeapsを導入した結果、それまで請求業務に費やされていた手間や時間を大幅に削減し、従業員はよりコア業務に専念できるようになったという。さらにその後、同製品の導入効果をさらに高めるべく、請求業務の大半をアウトソースすることになったという。

 当初は同社の従業員が直接MakeLeapsを使って請求業務を担当していたが、現在ではこれを社外スタッフに一任している。従業員は見積書や請求書作成の簡単な依頼や指示をスタッフに出すだけで、後はそれを基にスタッフがMakeLeapsを使って帳票を作成する。こうした業務フローを確立したことで、同社の従業員はさらに本業に専念できるようになったという。

 「弊社は決して規模の大きな会社ではありませんが、中小企業こそ少ない人的リソースを最大限活用してコア業務に注力できるよう、こうしたITツールやアウトソーシングサービスを積極的に活用すべきです。しかし実態としては、従業員が目の前で一生懸命無駄な作業している姿を見て安心する経営者が多いように感じます。中小企業がこれからの時代、競争力を付けて生き残っていくには、経営者が覚悟を決め、従業員がコア業務に専念できる仕組みを導入していくべきです」(中村氏)

 なお同社では今後も、MakeLeapsのような先進的なITツールを積極的に活用していくことで、バックヤード業務のさらなる効率化はもちろんのこと、営業やマーケティングなど収益に直結するフロント業務の効率化もどんどん進めていきたいとしている。

 「これからはバックヤード業務だけでなく、フロントの営業活動にもITを積極的に取り入れて、『営業のデジタルトランスフォーメーション』を進めていきたいと考えています。そのために、既存のITツールの活用方法をさらに深めていくとともに、新たなITツールの導入も検討しています。これによってフロント業務が効率化されれば、従業員はさらにコア業務に専念できるようになり、企業全体の収益や価値もさらに高まるのではないかと期待しています」(中村氏)


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