ガートナーの調査によると、クラウドに対する認識と導入やスキル獲得に大きな乖離があることが明らかとなった。その理由はなぜだろうか。
ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2020年5月14日、同年1月に実施した国内におけるクラウド導入率調査(n=515)の結果を公表した。
調査結果によると、日本国内のクラウド導入率は平均18%にとどまることが分かった。最も導入が進んでいる「SaaS」(Software as a Service)で31%、次いで「プライベートクラウド」で18%、「PaaS」(Platform as a Service)で19%と続く。
クラウド導入率が平均18%にとどまっているという結果に対し、ガートナーの亦賀忠明氏(アナリスト ディスティングイッシュト バイスプレジデント)は「相当にスローな状況だ。日本企業は『頭では分かっていても体が動かない』状態。クラウドシフトが当たり前であると認識しながら、実際の導入には引き続き慎重な姿勢を示している企業が多い」と指摘する。
クラウドに対する認識と行動の不一致は、クラウドスキルの投資にも表れている。ガートナーは、クラウドやAI(人工知能)など日々進化するテクノロジーを使いこなすスキルが重要であると考え、スキルの獲得に関する投資状況も調査した。その結果、回答者の74%がクラウドに関するスキルの獲得を重要と認識しながら、そのうちの49%は実際のスキル獲得は「現場任せにしている」と回答した。
クラウドの認識率に対して、導入率やクラウドスキルへの投資に乖離(かいり)が生まれる背景には、日本企業で多く見られる組織的な問題があるとして亦賀氏は次のように指摘する。
「ユーザー企業との日頃の対話に照らしても、この調査結果に特段の違和感はありません。『人ない、金ない、時間ない』を、クラウドをなかなか自分で運転できない理由として挙げる企業が多く見られます。こうした企業や組織の姿勢やカルチャーが、クラウドのスキル獲得を現場任せにする要因になっているとみています」
2020年以降、政府向けクラウド事業に大手ベンダーが複数参入し話題となっているが、ガートナーはクラウド導入が誤った方向に進むのではないか懸念が残るとしている。というのも、政府や自治体、それに倣った文化を持つ国内企業では2〜3年で人材をローテーションしている。そのため、クラウドやAIなど日々進化するテクノロジーに関して“素人のまま”運用してしまう可能性があるという。
そういった文化を持つ規模の大きな組織では、仮にクラウドやAIを導入することになったとしてもSIerなどに外部委託するケースが多い。「自分で運転するよりも誰かに頼むことが優先される。そうした振る舞いがいつまでたっても(クラウドに対し)『遅い、高い、必ずしも満足のいかない』ものだという誤解を生む要因になっています」(亦賀氏)。
では、ユーザー企業はどうすればいいのか。亦賀氏は「ユーザー自身がクラウドに対する知見を高める努力をし、クラウドサービスに対する理解を深める必要があります」と話す。クラウド化の議論では業務要件の継続が前提となりがちだが、昔と同じことを継続するだけのアプローチではなく業務の見直しを前提に、効果的かつ戦略的なクラウド導入を進めなければならない。そのために、仮に外部委託をする場合でもユーザー企業側でクラウドスキルや知見を持っておくことを推奨している。
ガートナーは、クラウドが登場した2006年以降「新しいコンピューティング・スタイル」と定義した。これは、従来のシステムインテグレーション(SI)的なシステム構築の反省に基づいた新たな枠組みだという。ガートナーは「クラウドがSIを置き換えるものであっても、SIの商材の一つのように矮小化されるべきものではない」と提言する。
亦賀氏は今後、日本でのクラウド導入について次のように予測する。「今やクラウドは、ライフスタイルの他、ビジネススタイル、社会のスタイルを変える原動力となっています。これは、企業ITや官公庁、自治体のITの構築や運用スタイルも、時代に即した新しいものへと変える時が来ていることを意味しています。ユーザー企業は『クラウドか、オンプレミスか』といった議論を卒業し、クラウドを自分で運転することで、早期に新たなスタイルへとギアチェンジする必要があります。昨今の新型コロナウイルス感染症への対応や、さらに将来を見越した『ニュー・ノーマル』などの議論によって、このギア・チェンジが加速する可能性が高まっているでしょう」。
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