採用業務は従来、紙の履歴書や職務経歴書が重宝され、管理もExcelを使った手作業でという企業が多かった。そういった状況を改善するため、現在では40社を超えるベンダーから簡単に導入と運用可能な採用管理システムが提供されている。本稿は、採用業務が抱えている課題とそれを解決する採用管理システムの機能を紹介する。
人事部門はこれまで、システム化による業務効率化や生産性向上にどちらかといえば「消極的」「保守的」だと考えられてきた。特に採用業務はその傾向が強く、いまだに紙の履歴書や職務経歴書が重宝され、情報の集約・管理もExcelを使った手作業でという企業が多い。
大量の人員を採用する大企業の中には、自社の採用業務プロセスに合わせたシステムをスクラッチで開発、運用しているケースもあるが、中堅・中小企業はそこまでのシステム予算を持たず、また少し前までは手軽に導入できるパッケージ製品も極めて数が少なかった。
現在では状況は一変し、国内だけでも40社を超えるベンダーから比較的簡単に導入・運用可能な採用管理システムが提供されている。活況の裏には、現在多くの企業が採用業務において抱える課題や問題意識がある。本稿では、採用における課題とそれを解決する採用管理システムの機能を紹介し、最後に選定のポイントを整理したい。
年々と少子高齢化が進み、日本全体で人材の獲得が難しくなっている。従来の通り一辺倒の採用活動では、なかなか優秀な人材を確保できない。自社の魅力を求職者により広くアピールすべく、新たな採用戦略を企画・実行しなければならない。
働き方改革推進の観点からも、人事部門の業務効率化が求められている。労働人口が徐々に減っていく中、限られた数の人員でより多くの業務をこなしていくためには非効率な作業をシステム化し、効率化していく必要がある。これは事業部門だけでなく、働き方改革の施策を立案する立場にある人事部門においても同様だ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受け、多くの企業が従業員の勤務形態をテレワーク体制へ移行している。緊急事態宣言の解除後、テレワークから通常勤務体制へ戻す企業も見られるが、コロナ禍が収束した後のニューノーマル(新常態)時代においては、テレワークの働き方が一般化するのではないかといわれている。
そのためには業務のペーパーレス化やシステム化が不可欠だ。紙の履歴書や職務経歴書が飛び交う旧態依然とした採用業務のままではテレワークなど到底おぼつかない。システム導入を機に採用業務のペーパーレス化や電子化を実現し、採用業務にテレワークを導入しようと試みる企業が出てきている。
ただでさえ日々の業務で多忙な採用担当者が、新たな施策を考え、実行し検証するまで費やす時間を捻出することは簡単ではない。応募者情報をExcelに転記したり応募者それぞれにメールを送信したりといった定型業務を、人事部門が手作業で実行しているケースもある。
人手による非効率な採用業務をシステム化すれば、採用戦略の検討・実行により多くの時間が割けるようになるだろう。人的作業では発生する可能性がある人的ミスを発生させないようにもできる。
クラウド型のビジネスアプリケーションが市民権を得たことも追い風だ。かつては、求人応募者の個人情報をクラウドシステムに預けることに強い抵抗感を覚える企業も少なくなかった。しかし「Salesforce.com」や「Office 365」「サイボウズ」といったビジネス向けクラウドアプリケーションが広く普及した結果、クラウドに対する不安や懸念はかなり取り除かれた。
採用業務の領域においても、手軽に導入でき月額払いで利用できるクラウド型の採用管理システムが多くのベンダーから提供されるようになった。今では採用管理システムの大半がクラウド型製品で占められている。
クラウド型製品は低コストかつ短期間で導入できるため、これまでコスト面の制約からシステム化になかなか踏み込めなかった中堅・中小企業でも比較的手を出しやすくなった。
一方で、クラウド型製品はオンプレミス型製品と比べ、カスタマイズの柔軟性に欠ける。大抵の企業にとってこの点はさほど問題にならないが、一部の企業では自社の採用プロセスにシステムをきめ細かく対応させるために、あえてオンプレミス型製品を選んで大幅なカスタマイズを加えたり、一からスクラッチ開発したりする方法を選ぶこともある。
採用管理システムとは一体どのような機能を備えており、どんなメリットを企業にもたらすものなのか。現在市場に出回っているクラウド型採用管理システムは、細かな点ではそれぞれ違いはあれど、主要な機能においては実はさほど大きな差はない。以降では、複数のベンダーのクラウド型採用管理システムが共通して備える主要機能を紹介する。その上で、ベンダーごとの差別化と選定のポイントを解説したい。
まずは、採用管理システムの主要機能についてだ。人事業務の大きな課題でもあった応募者情報の転記ミスや応募者へのメール送信ミスといった「人的ミス」は、人事部門が細心の注意を払っていても、手作業であれば発生してしまう可能性をゼロにはできない。採用管理システムは、こういった課題をどんな機能でカバーするのだろうか。
採用業務は、まず自社の求人に対する応募者を募るところから始まる。そのための方法としては、求人サイトや自社の採用サイトに求人情報を掲載したり、人材紹介会社に応募者の紹介を依頼したりなど、幾つかのルートが考えられる。多くの採用管理システムでは、そのうちの「自社の採用サイトに掲載する求人情報」のコンテンツ制作作業を支援する機能を提供している。
例えば、Donutsの採用管理システム「ジョブカン採用管理」では、採用サイトのトップページや求人一覧、求人詳細、エントリーフォームなどのWebコンテンツを簡単に作成できる機能を提供している。またそこで公開した求人情報は、自動的に「Indeed」「Googleしごと検索」に掲載されるため、コスト効率よく応募者を獲得できるという。
履歴書や職務経歴書、求人サイトで登録された情報など、応募者に付随する各種情報は、従来は採用担当者が人手でかき集め、Excelシートなどに内容を転記した上で管理していた。また人材派遣会社から紹介を受ける応募者に関する情報は、採用担当者と人材エージェントとの間で交わされるメールや電話によってやりとりされていた。こうした作業は、採用業務の中で最も手間と時間を要するものの1つだが、採用管理システムを導入することでその大部分を自動化・省力化できる。
例えば、各種求人媒体と連携することで、そこに登録された応募者の情報を自動的にシステムに取り込んだり、人材紹介会社のエージェントに応募者に関する情報を直接システムに登録してもらったり、履歴書や職務経歴書のファイルを応募者とひもづけてシステム上で管理したりすることによって、煩雑な人手作業を大幅に効率化することが可能だ。前出のジョブカン採用管理のとあるユーザー企業は、それまで求人媒体から応募者の情報を人手で収集・転記していた作業が自動化されたことで、年間330時間かかっていた作業をわずか60時間でこなせるようになったという
また多くの製品は、採用活動の進捗状況をさまざまな切り口から把握できるダッシュボード機能を備えている。そこでは、直観的なグラフやチャートの形で「現在の採用状況」「次にやるべきこと」「経路別の応募者数や内定率」などのさまざまな指標を可視化できるようになっている。
書類選考や面接といった選考プロセスにおいて最も面倒な作業の1つが、応募者と面接官のスケジュール調整だ。ほとんどの採用管理システムでは、グループウェアのカレンダー機能と連携することで、面接官の予定を確認しながらスケジュール調整ができるようになっている。また応募者に対してシステムを通じて面接候補日を提示し、好きな日程を選んでもらえる予約フォームを作成できる製品もある。
また従来は、書類選考や面接の評価結果をほかの採用担当者や面接官にフィードバックするために、紙の履歴書・職務経歴書を回覧したり、各種資料をメール添付で配布していた。こうしたやり方は面倒なだけでなく、人的ミスや情報漏えいの温床にもなりかねない。その点採用管理システムでは、面接官は自身で面接した結果をシステムに入力すれば、その内容が即座に他の担当者との間で共有され、かつセキュアなシステム運用を心掛ければ情報漏えい対策にも効果を発揮する。
多くの採用管理システムには、登録されたデータを集計・分析できるレポーティング機能が備わっている。例えば「求人媒体別の応募者数」「人材会社ごとの内定率」といったように、さまざまな切り口からこれまでの採用活動の内容を分析・考察できる。ここから得られた知見を基に新たな仮説を立て、現状の採用プロセスを改善するPDCAサイクルを継続的に回すことで、自社の採用活動を着実に改善していくことができる。
既に述べたように、現在市場に出回っているクラウド型採用管理システムは、一部の例外を除いては主要な機能にそれほど大きな差はない。しかし細かな点においてはそれぞれ個性があるため、製品を安易に選ぶと自社のニーズにそぐわないものを導入してしまう危険性もある。
そこで以下のような点に留意しながら、自社の事情やニーズ、採用戦略にマッチした製品を慎重に選びたい。
初期費用の有無や月額料金の価格には、サービスごとにある程度の差がある。安ければ安いほどいいというわけではない。一般的には高機能なサービスほど高く、機能が絞り込まれているサービスほど安いため、自社が必要とする機能と予算感とのバランスを見極め、最適なサービスを選びたい。
また価格だけでなく、課金方法にもサービスごとに若干の差がある。多くのサービスは年単位でライセンス契約を結ぶが、中には月ごとの従量課金制をとっているものもある。例えば前出のジョブカン採用管理は、毎月の「候補者の登録数」に応じて課金額が変動する。時期によって採用活動の業務量に大きな変動があるような場合は、こうした料金体系を採用するサービスを選ぶことでコストを節約できるだろう。
似たような機能を搭載しているサービス同士でも、画面の見た目や操作性にはかなりの違いがあることが多い。採用管理システムは人事部門の採用担当者だけでなく、面接を担当する他部門の従業員や、社外の人材エージェントなどさまざまな立場のユーザーが利用する。場合によってはITリテラシーが乏しい高齢のユーザーも利用するため、誰もが直観的に使いこなせるUI/UXを備えたサービスを選ぶべきだろう。
一口に採用活動といっても、新卒採用と中途採用、アルバイト・パート採用とでは、システムに求められる機能にも若干の違いがある。従って採用管理システムにも、「新卒採用を得意とするもの」「中途採用を得意とするもの」「アルバイト・パート採用を得意とするもの」がある。
「そのサービスがどの雇用形態を得意としているか」を判断するには、連携している求人サイト・媒体を見るのが最も分かりやすい。新卒採用を得意とするサービスは「リクナビ」「マイナビ」といった新卒採用サイトとデフォルトで連携しているし、中途採用を得意とするサービスなら「DODA」「エン転職」などと連携している。もちろん、複数の雇用形態をカバーしているサービスもあるため、自社の将来の採用戦略も加味しながら適切なサービスを選ぶことをお勧めしたい。
採用管理システムを人事システムや労務関連システムといった他のシステムと連携できれば、用途や使い勝手が大きく広がる。そのため、他システムとの連携性に優れたサービスを選ぶことをお勧めする。なお前出のジョブカン採用管理は、さまざまなバックオフィス業務を網羅したクラウドアプリケーション群「ジョブカン」の1サービスという位置付けになっている。ジョブカンには採用管理のほかにも「ジョブカン勤怠管理」「ジョブカン経費精算」などのサービスがあり、これら全てをシングルサインオンで利用でき、かつ互いを容易に連携できるようになっているという。
もし既に何らかの業務アプリケーションスイートサービスを導入している場合は、その中に採用管理機能が含まれていないかどうかをまず調べてみるところからサービス選びを始めてみるといいかもしれない。
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