IDCが恒例の「国内IT市場の主要10項目」の2021年版を公開した。そこでコロナ禍前に発表された2020年版を振り返り、エンタープライズITがどのように変化したか、その変化が2021年にどう影響していくかを読み取る。
2020年12月17日、IDC Japan(以下、IDC)は2021年の国内IT市場において鍵となる技術や市場トレンドなどの主要10項目を発表した。
IDCは「2020年の国内IT市場は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に大きく影響を受けた」と述べる。同社によれば、国内企業の業績悪化に伴ってIT支出が減少する一方で、急なテレワークをきっかけにデジタルシフトも進んだ。「リモート」や「コンタクトレス」「ディスタンス」などがキーワードになる中で、これらを実現する技術として、クラウドやモビリティ、AI/機械学習、セキュリティなどが大きな役割を果たした。
同社は2021年を「これらの動きが定着するとともに、変化し続ける世界の中で企業が新たなビジネスモデルや競争の方法を模索する、『ネクストノーマル』の時代に入っていく」と考える。そこで、本稿はコロナ禍以前の2019年に発表された「2020年予想」を振り返り、エンタープライズITがどのように変化したか、その変化が2021年にどう影響していくかを読み取る。
変化を見る前に、この1年で変化がなかった予測確認しておこう。「DXを実現していることが今後も企業が成長し続けるための前提条件となる『デジタル優位』の社会」になるとするIDCの予測は2020年と2021年とで変化はない。同社はデジタル社会が今後4〜5年で実現するとしている。
ただし、キーワードとなる10項目に関してはコロナ禍の影響を受けた変化が見て取れる。下図は2020年と2021年の予測を、編集部が独自に比較したものだ。
2019年12月、IDCは「国内ICT市場は前年比で1.3%減となる」と予測していた。しかし2020年9月9日には「COVID-19の感染拡大や感染抑制を目的とした経済活動の休止によって対前年比4.3%減少する」と予測を修正している。
2021年は海外経済の復調や延期された国際イベントの開催、政府の景気刺激策などによって回復すると見ているが、これは同年前半にCOVID-19の抑制が成功し、経済活動の正常化と景気対策としてのIT投資が実現していることを前提とする。
AIによる業務の自動化やDX、クラウド利用を前提としたセキュリティ対策などの予測は大きく変わらない一方で、「デジタルガバメント」や「非接触/非密集」といったキーワードはコロナ禍の影響が強い。業務の自動化からは、RPA(Robotic Process Automation)のフレーズが無くなった。
IDCが挙げた2021年のトレンド主要10項目の詳細は以下の通りだ。
2021年の国内ICT市場の市場規模は、対前年比1.1%増にとどまるが、COVID-19を契機としたDXの支出は継続する
「コンタクトレス」が組織横断的な業務プロセスの自動化をけん引し、AI(人工知能)がサイロ化されたインテリジェンスを企業全体に解き放つ
次世代インフラの台頭が、ベンダーやサービスプロバイダーの新たな競争環境を生み出す
DXを推進するデジタルレジリエンシー強化のために「クラウドセントリックIT」が広がる
セキュリティの複雑化に伴い、統合されたエコシステムやプラットフォームフレームワークによるセキュリティソリューションの導入が進む
第5世代移動通信システム(5G)に対応する端末の投入やローカル5Gへの取り組みの推進、5G対応エリアの拡大によって、新しい産業アプリケーションの可能性が広がる
クラウドネイティブ化やローコード/ノーコード開発技術によってアプリケーション開発の内製化が進む。これによってITサプライヤーは、ビジネスモデルの変革が必要になる
DX人材やIT組織変革の需要が加速し、それに向けてITサプライヤーは支援サービスを強化する
デジタルガバメントの推進に伴って、官民連携のデータ流通が加速し「Future of Industry Ecosystems」が形成される
ネクストノーマルに向けて、非接触/非密集型ソリューションとリアルタイムデータの分析市場が成長する
IDCでリサーチバイスプレジデントを務める寄藤幸治氏は、「コロナ禍で加速したDXは2021年以降の社会を大きく変えていく」と予測している。同氏はITサプライヤーに対し「これらの『ネクストノーマル』が顧客や自社にもたらすインパクトと、その中で勝ち抜いていくための方法を顧客と共に考えていくべきだ」と述べている。
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