幻滅期を抜けたとされるRPA(Robotic Process Automation)だが、導入状況はどう推移しているのか。テレワークへのシフトが急激に進んだ今、RPAの導入や活用にどのような影響が出ているのか。「RPAの今」を読者調査から読み解く。
キーマンズネットは2021年5月25日〜6月7日 にわたり、「RPA(Robotic Process Automation)の導入状況に関する調査」を実施した。
ガートナーのハイプサイクルにおける幻滅期を脱して普及期に入ったといわれるRPA。導入状況はどう推移しているのか。近年は各ベンダーからRPA導入やトライアル時の問題を解決するような製品やサービスが提供されているが、ユーザーの課題感に変化はあるのか。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、テレワークへのシフトが急激に進んだ今、RPAの導入や活用にどのような影響が出ているのか。「RPAの今」を読者調査から読み解く。
RPAの適用領域と目される定型業務は企業内にどのくらい存在するのか。調査においては、「ほとんどない」との回答は5.4%にとどまり、60.4%が「ごく一部で存在する」、31.5%が「業務の半分くらいを占める」、2.7%が「業務の大半を占める」と回答した。全体の34.2%の企業においては「業務の半分以上が定型業務」であると分かる。2020年9月に行った同様の調査結果と比較しても大きな変化は見られず、IT化が進む今も一定の定型業務は残り続けている現状が見て取れる。
RPAの導入状況については、トライアル導入(15.3%)と本格展開(24.3%)を含め全体で39.6%と約4割の企業がRPAを導入していることが分かる。なお「興味あり」「検討中」はあわせて30.6%だった(図1)。
過去調査では2018年に14.3%、2019年には46.5%と約3倍に急成長したものの2020年には42.5%と導入率が微減した。現在はほぼ横ばいに推移している。従業員規模別に見ると5001人以上の大企業の約半数がRPAの本格展開に着手している傾向に変化はなく、RPA化に適した大規模な定型業務あり、RPAのために予算や人材を確保しやすい大企業が主役であることは変わらないようだ。
RPAを適用している、あるいは適用したい業務は「集計レポート制作」(38.5%)、「ワークフローの自動実行」(37.2%)、「複数システム間のデータ入出力」(35.9%)が上位だった。RPAはツールによって複雑な条件分岐を組み込めるものの、ルールを複雑化すればメンテナンス工数が上がる。そのため、単一工程で完了する業務の自動化を検討するケースが多いようだ(図2)。
定型業務がなくならない一方で、それらを効率化する手段として有効なRPAの導入率は横ばいだ。その理由は何か。編集部では、RPAの導入状況について「一度は導入した、または導入を検討したが、取りやめた」(7.2%)とした回答の中にヒントがあるのではないかと考えた。
「一度は導入した、または導入を検討したが、取りやめた」とした回答者にその理由を聞いたところ「費用対効果が見込まれなかった」や「導入や運用にかかるコストと効果の比較により、当面は他の課題を優先することになった」「RPAによって自動化できる業務がほとんどないため」といったコメントが寄せられ、費用対効果が見込めないことがハードルとなっていると分かる。
前述したように、RPA化によって効果を出しやすい大規模な定型作業がある企業ばかりではない。複数の業務を一人の担当者が兼任しているような企業においては、RPAを適用できる業務の切り出しが難しく、仮に切り出せたとしても一部の作業にとどまることが多いため効果を出しにくいという声が上がっているようだ。
関連して本格展開やトライアルに着手した方に導入時の障壁を聞いたところ「RPAロボットの開発スキルを持った人がいない」(50.0%)、「導入成果の算出が難しい」(38.6%)、「自社ツールとRPAの連携が難しい」(31.8%)などが上位に挙がった(図3)。
特に、「RPAロボットの開発スキルを持った人がいない」という課題ついては、過去の調査においても常にトップに位置している。一般的に、RPAはITリテラシーがそれほど高くないエンドユーザーでも開発できるとされているが、そのためには一定時間の学習が必要であり、本業以外で従事することが難しい場合もある。スキルを持った人を外注するという方法もあるが、その費用をまかなえるだけの効果を出せるとは限らないため、RPA人材不足の課題を解消することは難しいようだ。
RPA選定時に重視するポイントについては、「コストが安い」(57.7%)、「初心者でも扱いやすい」(53.2%)、「UIが日本語」(43.2%)が続く結果となり、この上位3項目は2020年の前回調査から変化はなかった(図4)。RPA化の過程では実際に利用するユーザーが定型業務のフロー整理や要件定義などに関わるケースも多く、エンドユーザーでも扱えることが求められている。こうしたニーズに対応すべく、近年はRPAベンダーからエンドユーザー向けのより平易な開発ツールが提供されはじめた。
本調査においては、コロナ禍を背景に急激に拡大したテレワークによってRPA活用に影響があったかどうかも調査した。
母数が少ないので参考値となるが、「通常通り利用している」が54.5%と過半数で、「環境が整備できずに利用できない」は13.6%、「環境以外の要因(ポリシーなど)で利用できない」は6.8%だった(図5)。
コロナ禍で新たに発生した課題については「ロボットが停止した時の対応が難しくなった」「ロボットの稼働状況の管理が難しくなった」などの項目が高い割合を示し、ロボット管理への影響が懸念されている様子が伺える(図6)。
これまでサーバ型やデスクトップ型に注力していたRPAベンダーからクラウド型の管理ツールが提供されはじめているため、社外から遠隔でロボットを管理することも不可能ではない。今後は働き方の変化に伴って、クラウドRPAツールのニーズも高まりそうだ。
ちなみに、コロナ禍で発生した課題を解消するための対策としては、「特にない」(63.6%)「オンラインの展示会やセミナー、イベントに参加した」(13.6%)、「オンラインでの研修やコンサルティングを受けている」「クラウド型RPAツールを導入し、ロボットの稼働や管理をクラウドで実施している」(13.6%)、「ロボット管理ツールを導入し、VPNなどを経由して社外からアクセスできる環境を整えた」(9.1%)などが挙がった。
前編においては、RPA導入率が横ばいに推移していることが明らかになり、さらにその理由が費用対効果の難しさや開発人材不足に起因しているのではないかと考察できた。さらに、コロナ禍に起因したRPAの課題として、ロボットの管理にまつわる課題が挙がった。後編においては、RPAの運用フェーズにおける課題について、読者調査から読み解きたい。
なお、全回答者数111人のうち、情報システム部門が26.1%、製造・生産部門が18.9%、経営者・経営企画部門が13.5%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が12.6%だった。業種はIT関連外製造業が38.7%、IT製品関連業が35.1%、流通・サービス業全般が15.3%と続く内訳であった。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
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