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60ページの会議資料から脱却 BIツールへ完全移行した因幡電機産業ペーパーレス化の大号令

テレワークシフトとともに数多の業務プロセスは電子化され、各業務のペーパーレス化は隆盛を極める。紙文化が当たり前だった老舗企業にもその波は押し寄せている。紙中心だった従来の業務形態をどう変革したのか。

» 2022年01月12日 06時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 因幡電機産業は1938年創業の電設資材専門商社で、空調部材や住宅整備などを取り扱う。グループ連結で約2600人の従業員が所属する。同社の事業は、電設資材の卸業と産業機器の卸業、そして空調の配管カバーなど自社製品製造業の3つに分かれる。同社の組織は、営業の4カンパニーと非営業の3本部の計7組織が社長の直下に配置されている。

 月に1度の管理職会議では毎回60ページに及ぶ資料を用意するなど、“古くからの慣習”の紙文化が根強い同社はどのようにペーパーレス化を実現したのか。因幡電機産業 情報システム部の藤幹昌宏氏と田中健太郎氏が語った。

本記事は「アシストフォーラム2021」における藤幹氏と田中氏の講演「令和の大号令はペーパーレス! 〜紙資料を脱却、データ分析に挑戦〜」を基に、編集部で再構成した。

脱・紙文化から現場主導のアプリ作成、データ活用まで発展

 両氏が所属する情報システム部は管理本部に属する30人ほどの組織だ。役員から「担当部署へのペーパーレス化」の指令が下ったものの、「古い価値観が残っており、組織もシステムも多くのレガシーが残っている。情報システム部の課題は、基幹システムの刷新と現場主導のアプリ開発による営業支援だった」と藤幹氏は振り返る。

 紙の資料に代わるデジタルツールとして、同社はクリックテックの「Qlik Sense」に目を付けた。アシストからの提案を受けた当初、「デモなどを見た第一印象は検索が早く、機能も整っているが、使いこなすにはITリテラシーが必要だろう。正直当初は、情シス以外では限られた人しか利用できないものだと思っていた」と田中氏は語る。

 ただ、田中氏のチームは、今後データ分析は絶対に必要になると考えてQlik Senseの採用を決め、導入方法の検討に入った。導入に際しての課題は、このツールを現場の営業担当者にどうやって使ってもらうかだ。情報システム部門からどう働きかければスムーズに浸透し、継続的に活用されるかを考えた結果、「現場主導のアプリ作成」「現場から志の高い人を見つけ、その人を取り込んでいく」という2つの方針を決めた。「ITリテラシーが高いとはいえない当社では、誰でもアプリを開発できるわけではない。そもそも新しいことをやりたいと考える人も一握りしかいない。そのため、われわれはバックアップに徹して、現場のやりたいことを支援すると決めた」(田中氏)

 現場主導でアプリの開発を進めた理由は、ユーザー部門が利用するものは現場主体で進めるべきという基本的な考えからと、現場の課題を知るのはあくまで現場で、情報システム部門が課題を理解するには時間がかかるからだ。「セルフBIのウリはスピード感。情シスが介入すると他の案件の開発と調整する必要もあり遅れが生じる」(田中氏)。

 1つ目の方針の下、情報システム部門では後方支援策として、Qlik Senseの導入と定着に向けてアシストの協力による社内セミナーの開催を決めた。セミナー参加者は、営業、業務改革がミッションである各カンパニーの企画室メンバーを中心に選定した。

 また、現場がデータ活用をしやすいように、情報システム部門が日次データを配信する環境を整えた。日々の売り上げや仕入れ、経費、担当者の予実、物件情報などを営業現場に配信した。「データ配信は以前から現場の要望として挙がっていた。アシストの支援の下、データ連携ツール『DataSpider Servista』を用いて工数を抑えて実現した」(田中氏)

過去の踏襲で続けてきた60ページの会議資料を全廃

 Qlik Senseは現在、同社の7組織で58ライセンスを使用している。最も利用が活発なのが電気設備の資材を扱う「電材カンパニー」で、35ライセンスを使用する。田中氏は同カンパニーが情報システム部と共同で進めた取り組みとその成果を紹介した。

 電材カンパニーでは、経営からのペーパーレスの号令が下った後、企画室の新任課長である井上氏がペーパーレス化の責任者に任命された。同カンパニーは組織の中でも特に紙文化が浸透していたこともあり、「何から手を付ければいいか迷った」と井上氏はコメントする。

 迷った末、まずは現状把握から始めた。案の定、仕事の資料はほとんどが紙でやりとりされ、資料を保管するキャビネットや紙が積み重なった従業員のデスクなどが“当たり前の光景”として目に付いていた。月に1度の管理職会議では、毎回60ページに及ぶ資料を24人分用意していた。細かい資料が部署ごとに作られ、用意する担当者の負担も大きく、会議ではその資料を発表するだけで力尽きるほどだったという(図1)。

図1 実際の会議資料(アシストフォーラム2021投影資料より引用)

 そこで、まずこの会議資料のペーパーレス化をターゲットにした。管理職のペーパーレスへの意識を変えれば、効果が高いと踏んだのだ。

 紙資料の代わりにQlik Senseの導入を進めようとしたものの、ボトムアップでは難しく、カンパニー長直下である統括部長2人に直談判し、会議資料のペーパーレス化を提案した。「統括部長へのヒアリングで、過去からの仕事が当たり前になっていて、資料を作ること自体が仕事化していることが分かった。これを解消し、本来の仕事に注力してもらうために、Qlik Senseでサンプルを作って見せることにした」と井上氏は語る。サンプルで作成した資料は、上段に各部門の売り上げと利益のKPIを数値で記載し、中段に結果のランキング、下段に結果の変遷をグラフで入れ、直観的に理解できるようにした(図2)。

図2 Qlik Senseの実際の画面(アシストフォーラム2021投影資料より引用)

 「これを見せると統括部長は驚き、自ら管理職会議でQlik Senseのプレゼンを買って出たほどだった。そして、その会議の満場一致でQlik Senseの導入が決まった」(井上氏)

 ヒアリングからサンプル作成、プレゼン、そして導入まで、わずか3カ月というスピード導入だったという。

会議は本来の「ディスカッション」する場に

 導入後は分厚い会議資料の準備は不要に、全てプロジェクターに投影して進行するようになった。これで会議のペーパーレス化は達成されたが、効果はそれだけではなかった。

 「会議の場が、従来の『報告会』から『ディスカッション』の場になった。直観的に理解できる資料のためか、参加者から質問がよく出るようになった」(井上氏)。例えば「この部門の予算達成率が80%なのはなぜ」という質問が出れば、その場でデータをドリルダウンして原因を説明できるなど、本来の会議の役割を果たせるようになった。

 その後、Qlik Senseのアプリ活用はさらに進む。会議資料に限らず、労務管理や部門評価、受注、発注の実績、担当別売り上げなど、適用範囲を広げていった。井上氏によると、特に売り上げや損益管理のアプリを使いたいと希望する管理職が急増したという。

各課でばらつくFAX利用を可視化し受注業務一元化プロジェクトも進行

 また、業務の分析手法として、FAX送信実績や受注入力実績と残業実績などをひも付けることで、長年の課題だった各課のFAX受注業務のばらつきを可視化することができた。この結果を基に、受注を1カ所にまとめる「受注センター」の構想を具体化し、各営業担当者の業務を効率化するアクションも進行中だ。

 「Qlik Senseを使うことで、非合理的だった部署別のFAX受注の実態が可視化され、受注センターを作るべきという提案の根拠を示すことができた。BIの活用によって、ビジネスプロセスや組織変革への挑戦も始まっている」(田中氏)

 電材カンパニーの成功によって、他のカンパニーもペーパーレス化の取り組みを活発化させている。今では、各カンパニーの担当者間でアプリの共有も起きているという。

 今後の課題は、「電材カンパニーの成功事例を他部署にどう伝えていくか、Qlik Senseの技術をさらに向上させていくために、活用レベルの可視化などの工夫が必要だ」と田中氏は考えている。

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