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創業50年の手芸屋が超アナログ業務をほぼ0円で自動化できたワケ

「いわゆる町の手芸屋さん」だったハマヤだが、ほぼ0円でアナログ業務をデジタル化し、今では手芸用品の卸やEC販売のみならず、ITコンサルティングやシステムの受託開発などにも事業を広げる。手芸一筋50年でやってきたハマヤが、なぜIT事業を立ち上げるまでになったのか。

» 2022年02月02日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 ハマヤは京都で1972年に創業した手芸の卸売会社で、2022年に創業50年を迎える。数年前までは電話、電卓、複写の手書き伝票を「三種の神器」として業務を進めていた。PCは経理担当の2人が使っているのみで、経営データはブラックボックス化し、デジタル化を進めようにも従業員からは「得たいが知れない」と拒絶される状況だった。

 ところが今は、業務の見直しとシステムの活用によって年間約5760時間、人件費約570万円を削減し、DXを前進させている。しかも、予算が厳しい状況で"ほぼ0円のシステム"を自前で開発したという。事業部長の永井氏が社内の取り組みと中小企業におけるデジタル化のヒントを解説した。

ベテランの勘と経験だけが頼りのアナログ職場

 同社のビジネスは、メーカーから仕入れた商品を小売店に卸すか、ECサイトを通じて消費者に直接販売することで成り立っていた。卸や販売では発注管理、請求管理、在庫管理、納期管理などの多数の業務が発生する。

図1 業務を機能階層に分けて説明(出典:永井氏の講演資料)
ハマヤ 永井将大氏

 2018年までは“超アナログ”な方法で処理を進めていた。受発注は全て電話での対応し、受電情報は人の頭にしか残っておらず、履歴はまともに存在しなかった。仕入れや入荷の計算は全て電卓で確認し、伝票の記入も手書きだった。「電話、電卓、手書き伝票が、ハマヤの三種の神器だった」と永井氏は話す。

 30人ほどが在籍する社内にPCは2台しかなく、経営データは全て手書きで記録され、最新の情報を聞いても半年前の数字が出された。業務のほとんどはベテランの勘が頼りの状況だった。

社内の業務DXで年間5760時間を削減

 そこで永井氏は業務現場に段階的にデジタル技術(後述)を導入しDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進した。その結果、年間延べ5760時間の業務の削減に成功した。1人の時間に換算すると、約2.9年分、人件費に換算すると約570万円に相当するという。

 利益率にも効果が見られた。業界平均で11%程度が標準とされる中、同社の利益率は9%と低かった。それが、DX推進をきっかけにデータの蓄積を進め、分析環境を整備した結果、今では過剰な在庫を排除して適切な販売計画を立てられるようになり、利益率も業界標準を大きく上回る30%を実現している。

 DXで生まれた業務時間を使い、他の企業のDX支援をするITコンサルティングの新規事業を立ち上げた。同社収益に占めるコンサルティング事業の割合は立ち上げから1年で30%に達した。新ブランド「amioto」(アミオト)も設立した。編み物に付加価値を与える仕事をしたいという現場の声を生かして事業を開始したものだ。

 他にも、社内DX人材が30%増加、営業利益率は20%向上、作業時間75%削減、固定経費30%減など、2年間でめざましい成果を挙げている。

図2 業務を機能階層に分けて説明(出典:永井氏の講演資料)

 以降、ハマヤのDXプロジェクトの全貌を、中小企業DXの3つの壁と合わせて紹介する。

中小企業のDXに立ちはだかる3つの壁

 DXの実現にはIT人材が欠かせないが、中小企業では人材の採用は容易ではない。そこで同社はIT開発未経験の役員や営業部長、経理担当らにIT開発スキル習得を促し、簡単なプログラムを習得して開発に加わるように仕向けた。

 永井氏は、DXの成功には推進チームの覚悟が不可欠だと語る。「次から次へと壁にぶつかったとき、覚悟がなければすぐに挫折してしまう。同時に、メンバーに決裁者を巻き込むことも非常に大事だ」と言う。

 永井氏が覚悟にこだわる理由は、DXには実現を阻む3つの壁が現れるからだ。「壁とは『時間がない』『お金がない』『不満が出る』の3つだ」と語る。

 中小企業の従業員は日々の業務で手いっぱいだ。業務が効率化できると説明しても、時間がないからと断られることが多く、そもそもITに予算をかけない方針の企業も多い。現状で問題がないからこのままでいいという人も存在し、新しいシステムを覚えるのは意味がないと不平不満を言う。

 「ハマヤでも、DXのために業務を変えることに現場は猛烈に反対した。最初に手書きの伝票をExcelに変えてほしいと頼んだが『手書きをなくすことはできないから作業が2倍になる』と言われた。予算も月額500円、1000円の支払いが容易には認められなかった」(永井氏)

 新システム導入の直後は不満も噴出した。現場から呼び出されて「今までの方が良かったのになぜ変えた」「余計な仕事が増えた」と詰め寄られることもあった。自分たちの業務がどう変わるのかを不安に思う人ばかりで、協力者はほぼゼロのスタートだったという。

夢(目標)を実現するためのDXの進め方

 3つの壁を乗り越える覚悟を決めてDXを進めるとき、「まず夢(目標=To-Be)を描き、次に現在地(As-Is)を確認する。ギャップを知ることが最も大事だ」と永井氏は話す。

 既存ビジネスの利益率を2年以内に10%アップする、などと目標を設定する。次に現状の利益率を確認し、その差を把握することで何が問題点かが分かり、DXの第一歩を踏み出す準備ができるという。

図3 業務を機能階層に分けて説明(出典:永井氏の講演資料)

 永井氏は、準備ができて理想論を振りかざすと失敗すると言い、DX推進の注意点を2つ説明した。

 1つ目の注意点は、「システム導入はゴールではない」ということだ。永井氏は、「デジタル化はもちろん必須。今は非常に便利なSaaSが普及し、検索すれば素晴らしいシステムがたくさんある。だがシステム導入がゴールだと勘違いしている企業が多い。DXで大切なのは、課題を洗い出して優先度の高いところから改善していくことだ」と話す。

 改善の手段はシステム導入だけでなく、業務の変更や記入するフォームの改善など、他にもある。DXにこだわりすぎて夢や目標を見失わないことが必要だと言う。

 2つ目の注意点は、対象とするテーマの問題。永井氏は、一番効果が出て最小限のパワーで実行できることから始めるべきだと話す。「システム導入には時間とコストがかかる。効果が出ないと、実感がともなわず失敗につながる。少しでも便利になった効果を見せて、現場の理解や協力が得られるようにする」と述べる。

 ハマヤのDXは2つの注意点を踏まえ、システムありきでなく効果が出て最小限の労力で実現できるテーマから取り組んだ。業務フローを改善するうちに、誰でもできる業務ほどデジタル化されていないことや、単純な作業でも最後まで理解しないとDXを実現するのは難しいことが分かると言う。

 100以上のシステムを作ったハマヤのDXだが、最初は業務フローの理解に時間をかけ、ほとんどシステムは作らなかったという。DX推進は、覚悟と同時に少しずつステップを踏んで取り組むことが重要だと永井氏は話す。

Googleのクラウドサービスをフル活用

 予算が厳しい中でDXを進めるハマヤがシステム開発に採用したのは比較的安価に利用できるGoogleのクラウドサービスだ。

 特に活用したのが、Googleスプレッドシートと、Google Apps Script(GAS)だ。同社の業務の中で時間がかかっていた発注管理に適応した。

 「従来は会社の壁に、『メーカー別発注ポケット』があり、手書きの発注書を投げ込んでいた。決められた曜日に手作業で転記し、メーカー別に発注書を作成した。Googleスプレッドシートで発注システムを作り、担当者はブラウザから入力できるようにした。「Amazon Web Services」(AWS)で作ったシステムで自動的で集計し、手作業の必要はなくなった。従来5人必要だった発注担当者は1人で済みミスも大幅に減った」(永井氏)

 欠品情報の管理では、メーカーからの欠品情報を1品ずつチェックしていた。膨大な時間がかかるため、他に作業があるときはチェックが後回しにされた。目視による作業なので見落としが多く、欠品の正確な管理ができていなかった。

 メーカーから届いた欠品リストをGoogleスプレッドシートに読み込ませ、欠品状況を即座に検索できるようにした。

図4 業務を機能階層に分けて説明(出典:永井氏の講演資料)

 発送もバーコードで管理し、発送時に送り先に自動で通知が届くようにした。通知方法はLINEやメールなどで柔軟に対応し、約700時間の削減に成功した。

図5 業務を機能階層に分けて説明(出典:永井氏の講演資料)

 当時のハマヤにとって、システム開発の外注予算を確保するのは厳しかった。「予算がないから知恵を振り絞り、ほぼ0円のシステムを自前で作ることにつながったと思う」と永井氏は語る。

 ハマヤは現在、自社のDX推進ノウハウをコンサルティング事業を通じて他の中小企業にも提供しており、既に教育や製造、飲食、美容室など約30社の顧客を抱える。

 永井氏は講演の最後に、システム化がゴールではないと強調した。「業務を見直す、コミュニケーションを変えるなど、仕組みの見直しなどでギャップを埋めれることがある。見直した上でシステム化する部分が出たら、企業の決裁者はぜひ投資して支援してほしい」と語った。

 壁は必ず現れる。メンバー全員が強い覚悟で壁に立ち向かうことが、DX成功のポイントであると話し、永井氏は講演を終えた。

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