メディア

セガサミーが挑戦する法務DX 事業をリードする法務部門のつくり方

セガサミーホールディングスの法務部門は、外部企業などと取り交わす契約書の作成や審査に忙殺されていた。そのような状況下で経営陣から「先端技術を導入して定常業務を効率化する」というミッションを受ける。推進リーダーへの取材から、法務DXの成功ポイントや事業戦略に貢献する法務部門のつくり方が明らかになった。

» 2022年04月06日 07時00分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 セガサミーホールディングスは、契約書の審査業務にAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」を導入し、法務部門の業務を大幅に効率化した。その経緯についてサービス導入を主導した、法務知的財産本部 法務知財ソリューション部リーガルオペレーション課の東郷伸宏氏に取材した。

セガサミーホールディングス 東郷伸宏氏

 同社の組織は、法務部と知的財産部に分かれており、一部の業務が煩雑になっていた。その業務を統合して効率化するため、法務知財ソリューション部が新たに組成された。東郷氏は法務知財ソリューション部リーガルオペレーション課の課長を務める。

 同社では2018年、経営陣から「先端技術を導入して定常業務を効率化する」というミッションが打ち出された。DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が認知され始めたころで、法務の業界でも「リーガルテック」という言葉が聞かれ始めていた。デジタル技術など先端技術で業務を効率化し、従業員をより専門性の高い業務に専念させるのが経営の狙いだった。

業務の半分以上が契約書の審査 インプット不足に課題感

 東郷氏のチームは、まず「どの業務をどう効率化すればいいのか」「どのようなデジタルツールを使えばいいのか」に着目し、情報収集を始めた。

 法務の業務を分析したところ、契約書の作成と審査が、年間を通じて業務の50%以上を占めていることが分かった。契約業務の質を落とすことなく、作業を省力化してスピードを向上させることが課題になった。

 「事業会社の法務部門としては、契約審査の業務を効率化して、ビジネスを遅滞なく進めなければいけません。業務が効率化されて創出できた時間は、契約を有利に進めるための交渉に充てることで事業発展を支援できると考えました」(東郷氏)

 同社の事業は、セガのデジタルゲーム事業やアミューズメント機器開発、そして映像制作やトイなどをてがける「エンタテインメントコンテンツ事業」、サミーを中心とした「遊技機事業」、ホテルの開発・運営等を手掛ける「リゾート事業」など多岐にわたる。

 そのため、ゲームのコンテンツやキャラクターのライセンスに関する契約から、ハード開発、リゾート開発プロジェクトの契約まで、さまざまな業界の取引先と多種多様な契約書を取り交わす必要がある。

 「法務担当者としては、広範な業務の知識や新しいノウハウのインプットが非常に重要だと思っています。ただ、日々の業務に忙殺されると、インプットが足りなくなります。社内で『今、法務部門が何をすべきか』ということを調査し、模索・検討しても、忙しいと安易な着地点に落ち着いてしまう。そうならないように、定常的な業務はできる限り効率化する必要がありました」(東郷氏)

リーガルテック展で“法務の未来”を直感

 東郷氏のチームがサービスの調査を始めた際に、法務業務を効率化するツールにそれほど違いを感じなかった。そういった中、2018年末に都内でリーガルテック展が開かれ、東郷氏はそのときに初めてLegalForceを知った。

 「法務担当者は六法全書とにらめっこしているような、古い働き方のイメージがありました。契約書は書面からWordファイルになりましたが、業務の進め方はいまだにアナログです。それに対して、AI(人工知能)が契約書を読み込んでリスクを判定するというLegalForceのデモを見たとき、『これが法務の未来だ』と直感しました」(東郷氏)

 当時はAIによる契約審査というコンセプトは新しく、まだまだ人の目で見ることを重視したサービスが多かったが、LegalForceは新しいものを積極的に取り入れるというセガサミーホールディングスの社風にも合致した。東郷氏のチームでは導入に向けた準備を進め、2019年6月に本格的に稼働を開始した。

図1 「LegalForce」が提供する3つの価値(出典:LegalForce製品紹介資料)

AI+専門家の目で契約書を高速チェック

 セガサミーホールディングスにおけるLegalForceの契約書審査プロセスは、次の通りだ。

 まず業務現場の担当者が、社内のワークフローシステムで契約書の登録とチェック依頼をする。それを法務部門が受け取り、依頼された契約書をLegalForceにアップロードしてAIによるリスクチェックをする。法務部門の担当者がAIのチェック内容を人の目で確認し、コメントを付けて再びワークフローに戻す。

 実際にLegalForceによる契約書審査プロセスが始まり、その結果に東郷氏はおおむね満足している。

 「当社の法務部門は多種多様なタイプの契約書と向き合わなければいけません。本来であれば、できる限り幅広い業務知識をもって契約書の確認をしたいところですが、なかなかそうもいきません。そこをAIの力で補えるのはありがたいです」(東郷氏)

 もちろん、AIによるリスク診断は完璧ではない。人でなければ見つからないリスクは存在する。だが東郷氏は、そのことでAI審査の能力が低いとは考えない。

 「AIは十分な審査能力があります。契約書の問題点の大部分をカバーできる上、そのスピードは人の作業を大きく上回ります。当社のように多くの契約書を処理する場合、圧倒的な効率化ができます」(東郷氏)

 法務のプロも人間であり、体調やモチベーションによるパフォーマンスの変化は避けられない。そこで契約書の基本部分の確認をAIで自動化することは、一定の品質を担保するためには欠かせないと東郷氏は言う。「人の能力は、人間でなければ下せない判断や、アイデア出しのようなところで発揮させるべきで、自動化できる部分はできるだけ自動化を進めるべきです」(東郷氏)。

図2 契約書に潜む法的なリスクをAIが瞬時に、網羅的に洗い出す(出典:LegalForce製品紹介資料)

過去の契約書を速やかに探せる利便性

 東郷氏は、LegalForceの契約審査の効率化の他、法務部門で過去に確認した契約書の内容や条文をスピーディーに検索できる機能に利便性を感じたという。「過去の契約書や条文を人の手で探すことは非常に大変です。個人のノウハウや記憶に頼るだけでなく、組織として契約書の書き方などの自社基準を管理し、新規の契約書を作る際の参考にできることは、非常にメリットがあります」と語る。

図3 過去の契約書から必要な情報や条文を検索できる(出典:LegalForce製品紹介資料)

 LegalForceの導入当初は、AIによるリスク分析に抵抗感がある人もいた。「AIの審査は100点ではありません。80〜90点のときでも私のように価値があると考える人もいれば、その10〜20点を致命的に感じる人もいます」(東郷氏)。

 東郷氏は導入のコツを「失敗しても、新しいサービスを積極的に取り入れて活用しようとする人を、いかに早く見つけて仲間にしていくかが重要」と話す。

 AIの精度に疑問を抱く人には強要せず、前述した過去の契約書や条文のリサーチ機能など、別の機能を紹介した。「LegalForceにはさまざまな機能があるので、1つがダメだから全部を却下するのではなく、いろいろな機能に触れてもらうことで、少しずつ理解を促しました」と東郷氏は言う。

 社内のIT部門と密に連携することも重要だという。同社にはIT部門内に事業部門のDXを推進する組織があり、自社にとって最適な業務改革のツールを検討する役割を果たす。LegalForceの導入でも、DX推進部門が法務部門を支援したという。「セキュリティなどを含め、われわれが気付かない点も専門家の視点で確認してもらえたので、導入がスムーズに進みました」(東郷氏)

法務部門が事業戦略に関わる時代へ

 今後、LegalForceと社内ワークフローとのAPI連携が可能になれば、法務部門による契約書の手動アップロードが不要になる。担当者が契約書をワークフローに入れれば、自動的にLegalForceのチェックが済んだ状態で法務部門が確認できる。

 「取引先もLegalForceを導入すれば、将来は企業間の契約書の確認も、直接LegalForceでできるようになるかもしれません。業務はさらに効率化され、純粋な条件の交渉部分のみを法務部門が担えばいい時代が来るのではないでしょうか」(東郷氏)

 法務部門の業務効率化によって東郷氏が目指すのは、事業に貢献する戦略的な法務部門だ。

 「これからの法務の役割は、事業の企画時点から法律の観点でリスクとチャンスの議論をリードすることだと考えています。LegalForceの活用で契約書の審査業務を効率化させることで、法務で事業をリードする余力が生まれます」(東郷氏)

 また東郷氏は、法務部門への期待が高まる今が、変革を起こすべきタイミングでもあると言う。

 「事業のスピードはどんどん上がっています。海外との競争も激しくなる中、これまで以上にバックオフィス業務の質を上げると同時にスピードをはやめなければいけません。LegalForceのような先端技術で、業務を変革できるチャンスがあります」(東郷氏)。

 東郷氏は最後に、LegalForceに対する期待をこう語った。

「初めてLegalForceを展示会で見たとき“未来”を感じたのは、私の想像を超えていたからです。これからも、私たちが考えもつかない、驚くような機能やサービスを提供してほしいです」と述べた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。