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法務DXの要、リーガルテックとは? 専門家がサービスの基本や業界動向を解説

法務業務に関するさまざまな「リーガルテック」サービスが登場している。法務の主な業務内容、リーガルテックの現状や動向、サービス選定時に着目すべきポイントなどを、法務の専門家が解説した。

» 2022年02月09日 07時00分 公開
[土肥正弘キーマンズネット]
LegalForce 佐々木 毅尚氏

 企業法務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う「リーガルテック」は、各社からサービスが出そろい大競争時代に突入した。

 ユーザーはどこに着目して導入、運用を考えるべきだろう。リーガルテックの専門家であるLegalForce CLO 佐々木 毅尚氏が、国内リーガルテックの現状と動向について語った。

業務改革と競争優位確立をめざす「法務DX」とは?

 2018年以降、契約審査や締結、保存管理に関するリーガルテックツールが登場した。法務専門の人材不足を背景に浸透し、現在は創成期から発展期へ移行している。

 2022年1月時点、国内のインハウスローヤー(企業内弁護士)は約3000人だ。10年前と比較すると10倍にはなったが、法務の高速化や高度化、複雑化の前では人材が足りない。法務部門は国内契約業務のみならず国内外のあらゆる法務事案に対応する必要があり、求められる機能や役割が拡大している。

 そこで注目されるのが、法律サービスの利便性を向上するリーガルテックだ。リーガルテックは業務効率化による生産性の向上、品質の確保、情報収集チャネルの拡大といった効果が期待できる。近年DXの推進が競争力の要になるといわれるが、法務部門もその例外ではない。業務をシステム化のみならず、改革して競争優位に立つのが法務DXの本質だ。

法務部門や法務担当者の実態調査

 経営法友会による法務部門の実態調査によると、資本金1000億円以上の企業で法務部門(部・課)を設置している企業は95.3%に上る。それ以下の資本金の企業ではその割合が低くなるが、5億円未満の企業でも49.4%が法務部門を設置している(図1)。

図1 経営法友会が実施した法務部門の設置状況の調査(出典:LegalForce)

 法務専門部門がない企業では、法務専任者を置くか兼務をしている。1000億円以上の企業で担当者は31.6人だったが、全体879社の平均では8.8人、最も多いのは3人(140社)であった(図2)。

図2 経営法友会が実施した法務部門の人員の調査(出典:LegalForce)

 かつて法務の業務は契約審査や法律相談、訴訟、紛争の対応に限られていたが、現在はコンプライアンス推進や内部通報制度運営などが求められる。

 2015年の「コーポレートガバナンスコード」(企業統治指針)の成立以降は、株主総会や取締役会、役員管理、株主管理、内部統制管理といった、コーポレートガバナンス機能も担うようになった。

 役割の拡大に伴い業務のスピードは月単位から週単位になり、内容は高度化した。ルーティンワークを効率化して高難易度な案件にリソースを割くため、契約関連業務などのルーティンワークをリーガルテックで効率化し、弁護士資格をもつハイスペック人材の採用を進めて品質を一定以上に保つ必要があった。

 以降で、法務業務のより詳しい内容や、それに伴うリーガルテックの種類、導入状況や業界動向を見ていく。

法務の業務とは? 契約書業務とリスクを解説

 法務で最も多いのは契約書関連の業務だ。全てのビジネスにおいて最初に取り交わす「秘密保持契約」は契約書全体のうち3〜5割を占める。

 また、取引契約書(取引基本契約書、販売契約書、購買契約書、業務委託契約書、ライセンス契約書)、M&A契約書(合併契約書、株式交換契約書、株式譲渡契約書)など、多岐にわたる契約業務がある。

 契約書関連業務はスピーディーにこなす必要があるが、リスクの大きい契約では、次のような事態に発展しないよう契約審査時に細かく注意すべきことがある。

  • 損害賠償:1回の違反に対して1億円などの損害賠償請求をされる場合がある
  • 契約解除:相手側が一方的に契約を解除できる場合がある
  • 品質保証:20年間などの長期品質保証を求める場合がある(一般的には1〜5年)。全ての法規制を順守することを求める場合がある
  • 秘密保持:契約終了後30年間など長期の秘密保持義務を求める場合がある

 契約書は一般的なひな形をベースにした定形契約が約8割を占め、契約管理システムやAI契約審査システムなどで効率化が可能だ。契約書の件数や納期などのデータ取得とパフォーマンスや業務進捗を管理するのも重要だ。人の勘や経験も必要だが、追加で支援システムを導入し、データ管理を加えることで契約業務はより効率化する。

契約書関連業務を構成する4つのフロー

 契約書関連業務は次の4つのフローからなる。

(1)業務部門からの案件を受け付ける

(2)契約書の内容審査

(3)契約の両当事者の署名や押印により契約を締結

(4)締結済の契約書の契約リスクを管理する

 4つのフローをシステムで管理することを契約ライフサイクル管理(CLM:Contract Lifecycle Management)という。CLMの実行で業務効率化と生産性向上をし、ミスを防止して品質を高められる。契約書内の不利な条項、法令違反や契約違反となる内容などを把握し、契約リスクを把握できる。

 契約の期限を把握していないために改めて契約審査することなく自動更新してしまうこともリスクの1つだ。買手有利な時期に締結した契約は、売手有利な時期に契約条件を見直すとコスト削減につながる場合がある。

 2021年12月、LegalForceが実施した「契約書管理に関する実態調査」(注1)では、担当した契約書の内容を全て把握している人は13.5%、だいたい把握している人が57.4%と多くはない。

図3 契約書の内容の把握に関する実態調査(出典:LegalForce)

 契約期限に気付かず自動更新した人は38.3%もいた。気付かず自動更新し、解約期限まで料金を払い続けた人は66.3%、途中解約したものの解約金が必要だった人は27.7%だった。契約審査だけでなく締結後のリスク管理で無駄なコストを削減できる。

図4 契約書の自動更新に関する実態調査(出典:LegalForce)

リーガルテックの種類

 リーガルテックサービスで特に多いのが契約関連のサービスだ。契約書の作成を支援するサービスやAIを使った契約審査、電子契約、契約書管理(保管)サービスがある。特に電子契約サービスベンダーは20社近くに増え、受付から保管まで可能なCLMサービスも登場している(2022年1月時点)。

図5 リーガルテックサービスの種類(出典:LegalForce)

 コロナ禍で法務スタッフが出社せずに書籍などを参照する必要から、会社の書籍を検索するサービスの導入企業が増えている。他にも弁護士管理や判例検索、AIでの自動翻訳といったサービスや、審査や登録関連の知財管理、登記管理、商標登録などの行政手続きサービス、ガバナンス関連のEラーニングツールがある。

リーガルテックの導入状況

 2021年10月、LegalForceが実施した契約関連業務のDX進捗の実態調査(注2)では、デジタルツールを活用している業務のトップ3は、「契約書の作成・審査」「契約書の保管」「契約書の作成依頼・審査依頼の受付業務」だった。ただ、最も高い割合を占めたのは「デジタルツールを活用していない」という回答で、約4割が活用していない結果になった(図7)。

図7 契約関連業務のDX進捗の実態調査(出典:LegalForce)

 ツール導入で得られた効果は、「契約書の印刷・製本・往診・送付の手間の削減」がトップで、次いで「契約の検索性・閲覧のしやすさ」「契約書内容確認・作成時間の短縮」など事務コストの削減に対する回答が多い。

 また、「契約書の作成依頼・審査依頼への対応遅れが減少した」「契約書審査時における契約リスクのチェックで見落としが減少した」といった品質面での効果も実感されていた。

図8 契約関連業務のDX進捗の実態調査(出典 LegalForce)

 同調査では、企業がデジタルツールを活用していない最大の理由は「推進者がいないこと」であることも分かる。法務部門内でもリーガルテックを理解していない人が多く、推進者を置いて利用状況を管理しないと導入しても利用されないようだ。

2022年リーガルテックの動向

 2018年から2020年の3年は、リーガルテックの「創成期」に当たりさまざまなサービスが登場した。2021年からはコロナ禍により脱ハンコのため電子契約が進み、リーガルテックが浸透した。現在は新サービスの登場は少なくなり「発展期」に入ったと考えられ、2025年頃からは「成熟期」に移行すると思われる。

 2022年現在はベンダーの大競争時代だ。各社がプロダクトの質や精度向上に努めている。2021年はベンダー3社がサービス名称を変えたように、マーケティングやブランドイメージの戦略が重要になり、価格と機能の競争が激化するだろう。

 2022年1月から施行された改正電子帳簿保存法では、契約書に関する規制も緩められた。これを好機と見て他事業ドメインからの参入やベンダーの買収、電子契約ベンダーを中心としたサービス相互連携や包括の動きもある。

 サービスは淘汰と集約に向かい、業界再編の動きが起きるのではないかとの見方もある。2022年にリーガルテックは法務のスタンダードなツールになるだろうか。今後の動向に注目だ。

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