2022年1月1日から施行された改正電子帳簿保存法では対応要件が大きく緩和された。企業の対応すべき契約書管理のポイントを、リーガルテック企業のインハウスローヤー(企業内弁護士)が解説した。
2022年1月1日から施行された改正電子帳簿保存法では対応要件が大きく緩和され、企業のペーパーレス化がさらに広がると期待される。契約書管理に関する対応のポイントを、LegalForceの企業内弁護士が解説した。
日本の法制では、企業活動に関する各種書類の長期保管(1〜30年、あるいは永久保管)が義務付けられているが、特に法務部門や総務・経理部門の負担になりがちなのが法人税法で求めらる7年の帳簿書類の保存だ。
帳簿書類には注文書や契約書、領収書、見積書などが含まれる。国税の監査対応のために必要な他、特に契約書には訴訟対応のため提出が求められる可能性があり、書類をどのようにいつまで保管するかは法務部門の悩みどころだ。
1998年に施行された電子帳簿保存法(以下、電帳法)は、電子取引や経理のデジタル化が進む中で、法人税法のうち、従来は紙で保存が求められた書類をデジタルデータで保存してもよいとする法律だ。主な目的は2つあり、1つ目は保存義務のある帳簿書類の電子化を認めることで、2つ目はそれまで保存義務のなかった電子取引データに保存義務を課すことだ。
目的達成のため、大別すると図1に示す「電子帳簿等保存」「スキャナー保存」「電子取引データ保存」の3つの制度が設けられた。
各制度の要件は細かく定められ、ポイントは4つある。
電帳法制度はデータ保存の要件が多く対応が難しいため、対応が進まない現状があった。状況打破のため大きな要件緩和をしたのが今回の改正電帳法のポイントだ。
ただし、要件緩和と同時に不正のペナルティーは厳しくなっている。改正後の各制度でポイントとなる要件を解説していく。
決算関係書類は、多くの場合経理ソフトなどの処理でデータ化される。これをデータの状態で保存してよい(紙への出力が不要)とするのが電子帳簿等保存制度だ。
今回の改正では、従来は電子保存で必要な税務署長の事前承認が不要になる。事前承認の廃止で電帳法対応のハードルが1つ下がった。
国税関係帳簿はこれまで全て厳格な要件を満たす必要があったが、改正では従来の要件を満たす電子帳簿を「優良」電子帳簿と呼び、一部満たしていない電子帳簿も認めるようにした。要件全部に対応できない場合でも、図2に示すように見読可能性の確保と関係書類の備え付けのみに対応すればよい。
要件全部に対応した優良電子帳簿で税申告後に申告納税額が過小だった場合、従来は10%の過小申告加算税が5%に軽減されるメリットがある。適用を受けるには税務署長に届け出るだけでよい。
取引関係書類などは、自社で紙で発行した書類や取引先などから紙の状態で受け取った書類のように、データ化されていないものも多い。紙書類をスキャナーで読み取り、データとしての保存を認めたのがスキャナー保存制度だ。改正の主なポイントは図3の通りだ。
スキャナー保存の場合も、税務署長の事前承認が不要になったのは電子帳簿等保存と同じ軽減措置だ。
大きく負担が軽減できるのがタイムスタンプの付与期間制限の緩和で、従来は3営業日以内に自署した上で付与が求めらたのが、最長2カ月以内に付与すればよくなり自署は不要となった。さらに、訂正削除履歴が残るシステムを利用している場合はタイムスタンプが不要になる。また、事務処理要件として従来定期検査や再発防止策を定めた社内規定の策定を求められてきたが、それも廃止になった。
検索要件の緩和もポイントだ。検索可能な項目や日付、金額の範囲指定による検索が求められてきたが、検索項目は取引年月日や金額、取引先に限定し、要求に応じる場合には範囲指定による検索が不要になった。
ただ、税務調査で不正が発覚したときは、従来35%の重加算税に加え、10%が追加徴収されるというペナルティー強化もされる。詳細な要件は図4に記載する。
受発注や契約をメールやペーパーレスFAX、電子契約サービスなどで対応した場合に、従来はデータを紙に出力して保存してよかったが、改正電帳法に対応する場合は紙での保存は不可となる。
ただし、この改正案は公表後に企業の実務上困難を伴うことから批判があり、2021年12月に急きょ、2年の猶予(宥恕期間)が設けられた。紙保存をしている場合は、今後2年の間に電子保存の仕組みを構築すればよい。その他の要件緩和は、図5に示す通りだ。
真実性の確保のための要件としては、タイムスタンプ付与期間が「速やかに」からおおむね7営業日以内、最長2カ月に緩和された。検索機能確保については、上記に加え、売上1000万円以内の企業は全検索要件を不要とする緩和もされた。ペナルティーについてはスキャナー保存の場合と同様に厳罰化され、詳細な要件は図6に示す。
なお、タイムスタンプはある時刻に電子データが存在していて、それ以降改ざんされていないことを証明する技術のことで、電帳法では一般財団法人日本データ通信協会が認定する認定タイムスタンプを使うのがルールだ。認定事業者は同協会がWebで公開している。
電子契約サービスベンダーの中には認定タイプスタンプのサービスを提供していない場合もあるので注意が必要だ。ただし、認定タイムスタンプを適用しなくても、バージョン管理や事務処理規定を備えれば問題ない。
電帳法改正に関わらず、テレワークシフトで会社に紙を保管して、紙を参照するためだけの出社は減った。
スキャナー保存や電子契約ニーズは拡大しているが、契約管理に関しては注意すべきポイントがある。
訴訟のとき書類が最良の証拠と見なされるという点だ。裁判官は事実認定において契約書原本を重要な証拠として見なすため、データがどのように評価されるのかは未知数だ。スキャナー保存をしていても原本を廃棄するのは、法務担当者は難しい選択になる。
また、電子契約で締結された契約書の有効性についてはまだ十分な裁判例が蓄積されていない。重要な契約については紙の締結は避けられないというのが法務担当者の一般的な感覚だ。電子契約数が増えている今、電子保存と紙の保存との両面で、契約書管理を再考する必要があるだろう。
契約書管理には、訴訟対応の証拠保存と税法など法令上の義務を果たすための契約書保管体制が必要だ。加えて、原本紛失と情報漏えいを防止するため適切に権限を付与し、必要な契約書の内容をすぐに確認できる体制が必要だ。
契約リスクを管理するため不利な情報を含む契約書の把握や、契約内容が発動された場合のリスク管理も必要だ。業務の効率化や情報共有の円滑化のため、契約内容を見直す際の速やかな対応も求められる。
こうした体制を構築するため、次の3ステップを踏む必要がある。
責任部署や保管プロセス、保管方法、保管期限と廃棄、閲覧・持ち出しルールを作る。
契約書情報を一覧化し、どんな契約書が何件あるのか、どこに格納されているのかを契約台帳で一覧にする。自社や関連会社、取引先、締結日、更新日、契約開始日、契約期間、契約終了日などを一覧にすると、すぐに必要な契約書を取り出せる。
契約の自動更新が設定されている場合は、更新タイミングで適切な内容更新や更新拒否をしないと無駄なコストを生じる場合がある。適切な時期に担当者に自動通知される管理システムがあればリスクは制御できる。
紙原本の保管の目的は、訴訟が生じた場合に裁判所に提出することのみになるので、目的以外の閲覧や持ち出しの許可をしない体制が勧められる。
電子データについては、閲覧可能な部署を契約書ごとに明確にする。閲覧できる部署以外の人が閲覧する場合は承認フローを明確にする。人事部と連携し、部署異動者や退職者による契約書の閲覧をシャットアウトする仕組みを作ると、情報漏えいリスクを抑えられる。
特に契約書情報を一覧化するには専任担当者が必要なくらいの手間がかかる。紙契約書のスキャンデータからAI(人工知能)を利用したOCRにより自動的に管理台帳が作成できる市販システムもある。
LegalForceでは、LegalForceキャビネの提供も含め、全ての契約リスクを制御することを企業ミッションとしている。ミッション達成のため、新しい契約リスク管理の方法を提案していきたい。
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