デジタルスキルを持つ人材の獲得競争は依然として大きな頭痛の種だ。人事部門の思考の転換が。人材とスキル不足を解決するかもしれない。
モダナイズのカギは、テクノロジーへの投資よりも人材にある。CIO(最高情報責任者)の業務を考えてみよう。クラウドへの移行やサイバーセキュリティソリューション、最新のAI(人工知能)/ML(機械学習)技術の導入、UX/UIの改善、アジャイル開発――。これらは、テクノロジー部門が抱える日常業務のほんの一部にすぎない。
こういったテクノロジー面の強化には、日々のIT運用を継続しながら戦略的にアップグレードの計画を実行する知識や能力、経験を持った「人材」が必要だ。
企業のモダナイズは、まさに「人」の問題だと言えよう。
「どこかの企業リーダーに、現在直面している最大の問題は何かと尋ねれば、どの企業のリーダーも”人材”と言うだろう」と、MIT Sloan School of Managementの上級講師(博士)、ジョージ・ウェスターマン氏は述べている。同氏は先月の「MIT Sloan CIO Symposium」で人材の採用とリテンションに関するパネルのモデレータを務めた。
大量辞職(the Great Resignation)やパンデミックによる混乱に直面し、ウェスターマン氏の質問と回答は、テクノロジー企業や完全デジタル化への道を歩む企業が、スキルや人材の不足にどのように対処できるかを問うものであった。
状況を打破するために、CIOをはじめとするテクノロジー企業のリーダーは、人事部門とより緊密な協力関係を築き、ワークフォースプランニング(労働力計画)について人事部門の考え方を導入する必要があるかもしれない。
McKinsey & Companyのパートナーであるスーマン・タレジャ氏は、「私のクライアントの多くは、人材募集と採用で本当に困っている」と述べる。「その話を聞いていると、問題の核心としてワークフォースプランニングが浮かび上がってくることが分かる。多くの経営幹部は、現在持っているスキルと将来必要になるスキルの間にどの程度のギャップがあるのか、必ずしも把握していない」と同氏は言う。
需要の高い技術系人材の採用コストが上昇する中、企業のリーダーは技術系人材の不足を補うため、スキルアップの取り組みに目を向けている。しかし、人材育成の課題は多岐にわたる。特定の教えることのできるスキルを持つ人材と受講者とのマッチングから指導とOJTを組み合わせた効果的なトレーニングプログラムの設計まで、さまざまな課題がある。
また、CIOをはじめとする経営幹部は、このスキルアップの取り組みを後押しし、“社内の人材の可能性を過小評価する”採用中心の考え方から人事部門を脱却させる必要がある。
コンサルティング企業Mercerの米トランスフォーメーションリーダーであるメリッサ・スウィフト氏は次のように話す。「人事部門が日々実際に何をしているのかを調べ、大量のデータをマイニングした。すると、人事部門は全ての人材管理に費やす時間の約3倍の時間を人材獲得に費やしていることが分かった」。
テクノロジー人材の供給と需要の不均衡を考えると、採用活動は「乱獲されたサンゴ礁に釣り糸を垂らすようなもの」だ。採用活動に費やす時間と労力、そして求められるエンジニアリングやプログラミングのスキルに対する給与の上昇は、多くの企業にとって大きな資本投資になる。
スウィフト氏はCIO Diveのインタビューで、「新しく雇用する人材は、今いる人材よりも確実にコストがかかる。さらに、新しいスキルを持つ多様な人材を確保したければ、一般的に自社の人材を再教育する方がはるかに良い」と述べている。
スキルアップに必要なのは部門を超えた連携だ。IT部門のリーダーは、自社の人材とスキルのニーズを把握し、人事部門は人材開発の経験を生かすべきだ。
「人事部門は、ツールやプログラムによって私たちをサポートしてくれる。しかし、それは人事部門だけの機能であってはならない」。世界最大の動物用医薬品会社であるZoetisのエグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報・デジタル責任者であるワファア・マミリ氏は
Zoetisは、全社的なデジタルフルエンシープログラムと、従業員がさまざまな技術分野でバッジを獲得できるギルドシステムを導入して、この課題に対応した。
「ほとんどの企業では、優秀な人材の育成はうまくいっており、業績が振るわない人材のケアもそれなりにやっている。しかしどの企業でも、90〜95%を占める『普通の従業員たち』は軽視されてきた。人材とスキル不足の現状は、そのツケが回ってきた結果だ」とマミリ氏は言う。
包括的な人材開発には、複数の利点がある。学習する文化を醸成している企業にとって、スキルアップは安定した人材供給源になる。トレーニングプログラムは、従業員の士気を高め、従業員のリテンション(定着率)を向上させる。
特に新入社員には大きな効果があるとマミリ氏は言う。新入社員のリテンションは、15〜20年勤続している社員よりも低いという問題がある。
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