UiPathは、ホワイトペーパー「RPAの国内利用動向と業務自動化の方向性」を公開した。全社的な変革を重視する企業が多い一方で、RPAの適用は局所的にとどまっている。その原因と突破方法をアナリストが明かした。
UiPathは2022年7月28日、ホワイトペーパー「RPAの国内利用動向と業務自動化の方向性」を公開した。RPA(Robotic Process Automation)の活用の実態についてWebアンケ―トを実施し、従業員数1000人以上の国内の大企業におけるIT製品選定関与者439人の有効回答を得た(実施期間:2022年1月21〜27日)。
今回の調査では、国内企業のRPAの位置付けがどのように変化したかを確認するために、一部の設問についてはコロナ禍が本格化する直前の2020年2月に実施した調査設問とそろえることで、2年前との動向の比較も試みた。
本稿は、ベンダーの機能強化によって拡大するRPAの進化状況とベンダーシェアの他、ユーザー企業の利用実態を要約する。企業においては、全社的な変革を重視する傾向がある一方、RPAの適用は局所的にとどまっているという。その突破方法とは。
2016年ごろに国内で注目を集め始めたRPAは、2019年に導入が進み、2021年には導入率が約30%に達した。
ベンダー各社も自動化強化によって機能的広がりを見せている。ロボットの「開発」「管理」「実行」をつかさどるRPAのコア機能は急速にコモディティ化する一方、大規模な利用を想定したRPAツールは、コア機能に加えてさまざまな機能拡張を施している。
単一のタスクだけでなく、その連なりによって構成されるプロセスの管理・分析のためのプロセスマイニング、タスクマイニングの機能を搭載したり、GUI(画面)上で行われるキーボードやマウスの操作を自動化するだけでなく、API(Application Programming Interface)連携による自動化をサポートしてGUIを介在しないアプリケーション間の連携に対応したりしている。AI技術による自動化スキルの拡張などに精力的に取り組むベンダーもいる。
ホワイトペーパーでは、RPA市場の勢力図を把握するために、ライセンス売り上げベースでのベンダーシェアを調査している。2020年度に首位に立ったのはUiPath社であり、同社は近年、市場での占有率を高めている。2番手には、WinActorを提供するNTTアドバンス・テクノロジーが続き、パートナー網の裾野の広さを生かして、大企業だけでなく中堅中小企業に向けた訴求を強化している。
さらに、ITRによれば今後注目されるのがMicrosoftの「Power Automate Desktop」だ。Windowsユーザー向けに2021年3月から無償提供が始まった同ツールは、すでに国内でも数十万規模のユーザーを獲得しており、RPAの需要拡大と市場の活性化を促しているという。
「RPAを導入する目的」として最も回答率が高かったのは「全社的な業務変革の実現」で(48%)で、2020年の調査から5ポイント増加し、RPAを全社変革のための道具と位置付ける担当者が極めて多いが分かった。一方、「人件費の削減」や「働き方改革の実現」といった、コスト構造や労働環境の改善を第一の目的にあげた割合は2年前より減少した。
「本番の業務でRPAを活用している」とした258件に対して、RPAを利用している部門を問うたところ、「IT部門」(56%)が最も多く、「経理部門」(41%)、「総務部門」(36%)、「人事部門」(34%)、といったバックオフィス系部門が続いた。一方、「営業部門」「コンタクトセンター/顧客サポート部門」などのフロントオフィス系部門はそれよりも低い利用率だった。
自動化の対象としているアプリケーションでは、「Excel」が74%で最も多い。次いで、「Webブラウザ」(52%)、「メール/グループウェア」(45%)、「データベース」と「Word」(どちらも42%)が続いた。
こうした結果についてITRでは、RPAの導入済み企業でもその適用業務は依然として限定的だと分析している。同社は、RPAの利用目的では「全社的な業務変革の実現」が最多であった点を踏まえれば、今後、適用業務や基幹系システムを含めた自動化対象システムが拡大することが期待されるとしている。
導入目的では全社的な変革を重視する割合が高かったが、その傾向とは裏腹に、RPAを実務に適用する段階で現場の意見が以前よりも強く反映される傾向が見られた。
「全社視点から効果が高い業務」にRPAを適用するとした企業の割合は、2020年調査時の52%に対して、今回は65%だった。こうした現場主導の傾向が強まった背景には、現場でRPAの活用を望む意見が強くなったと同時に、RPAに適した業務が経営層や業務改革部門などから見えにくくなっているとITRでは見ている。同社は、現場業務の実態を可視化・分析するタスクマイニングツールや、現場部門と全社のRPA主管部門をつなぐコミュニケーションツールを活用するなど、RPA主管部門がいかに現場を巻き込んでいけるかが、これからのRPA活用の重要なテーマになるとしている。
さらにITRは、自動化の効果を局所的なものに終わらせることなく、全社的な変革へとつなげていくためには、自動化のそもそもの目的や得たい価値、自動化すべき業務の対象、評価指標などの再定義の必要性を指摘する。同社は、その方向性として目指すべきは、業務の始点から終点までを見据えた業務プロセス全体の最適化だという。
それには、RPAによって自動化する作業がプロセス全体の品質やスピード、効率性にどのような好影響をもたらすのか、どのような顧客価値を創出するか、といった俯瞰(ふかん)的な視点が必要だ。
そうすることで評価指標も、削減できた業務時間や従業員数ではなく、プロセス全体のリードタイムや顧客満足度などに切り替わる。ITRでは、量や頻度に関わらず、顧客体験に重大な影響を及ぼす作業や、組織の壁によって遅延が発生しがちな作業は、有力な自動化の対象になるとしている。同社は、「RPAは既存作業の代替」という固定観点から脱することが、デジタル技術によって生じる変化にビジネスを対応させる上で不可欠だと指摘する。
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