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マスク氏を批判した従業員の末路――スペースXの“ブルシット”対応から学ぶこと

イーロンマスク氏が率いる宇宙開発ベンチャースペースXで、マスク氏を批判して、説明責任を果たす文化を求める公開書簡を提出した従業員が一部解雇された。この事件を受けて、スペースX内部で横行しているハラスメントや、同社の不誠実な対応を元従業員が告発した。同社の対応から学ぶべきこととは。

» 2022年08月02日 09時00分 公開
[Carla BellHR Dive]
HR Dive

 SpaceXのミッションページにある宇宙空間の画像には、「未来を信じ、未来は過去より良くなると思うことだ」と表示されている。創業者でありCEO兼チーフエンジニアであるイーロン・マスク氏のこの言葉は、説得力があり、思想的で、向上心が感じられるかもしれない。だが、同社の元従業員が語る職場体験とは全く対照的だ。

 ある専門家がHR Diveに語ったところによると、SpaceXの今日の評判は、他の企業と同様に、昨日の行動の反映であり、良くも悪くも会社のリーダーの言動や性格は企業イメージそのものと切り離せない。このことを理解していないと、インターネットのワールドワイドな舞台で教訓的な出来事を招き、企業文化に永続的なダメージを残すことになりかねない。

「ハラスメントの末、SpaceXを退職せざるを得なかった」

 アシュリー・コサック氏は、2017年にSpaceXでインターンとして働き始めた。ミッション・インテグレーション・エンジニアだった彼女は、セクハラ、性差別、人種差別のレポートを提出した後、最終的に離職した。

 2021年のエッセーで、コサック氏は「性差別がまん延する」会社での圧力や強要、合意のない性的な身体接触、仕事の不安感、無力感について述べている。会社の倫理やコンプライアンスに関する通報窓口にメッセージを残した後、コサック氏は「通報窓口の匿名性が宣伝されているにもかかわらず」人事部から連絡を受け、会社での「ハラスメントの性質に関する侵襲的な質問」を提示されたと述べている。

 SpaceXは「崩壊と機能不全に陥っており、最終的に唯一の解決策は退職することだった」とコサック氏は記している。2021年にコサック氏が会社を辞めたとき、その理由を「人事部からの執拗(しつよう)な電話の中で、話をするように求められた。おそらく、金銭と引き換えに秘密保持契約に署名させるために」と話した。

 Insiderの報道によると、SpaceXは2022年5月に、2018年に発生したマスク氏による別のセクハラ疑惑を解決した。

 2022年6月には、SpaceXの一部の従業員が、自称「テクノキング」のイーロン・マスク氏の言動に対して、説明責任を果たす文化を求める公開書簡を同社幹部に向けて書き送った。

 The Vergeが報じたこの書簡には、「SpaceXは、CEOであろうと、入社したての従業員であろうと、許容できない全ての行動に対して、安全な報告手段を確立し、明確な罰則を設けなければならない。イーロン・マスクのメッセージは私たちの仕事、ミッション、価値観を反映していないことを、私たちのチームと潜在的な人材に明確に伝えることが重要だ」と記されている。

 同社のプレジデント兼COOは社内メールでの回答で、この手紙を会社から”即時解雇”された従業員による「行き過ぎた活動主義」であると特徴付けた。The Vergeの報道によれば、著者の署名はアンケートやQRコードでキャプチャーされていた。

 HR Diveへの電子メールでコサック氏は、これらのSpaceX従業員の犠牲について「このような展開になったことは、公開書簡を書いたチームが、自分たちが求める文化的変化の重要性を理解して、リスクを受け入れたことを如実に物語っている」と書いた。

 これに対しSpaceXは、複数のコメント要請に応じなかった。

SpaceXで起こる構造的な問題

 コンサルティング会社Bellwetherのジム・フローリーCEOによれば、SpaceXの問題は、経営幹部と従業員の間のより大きな断絶、あるいは両者の敵対的な性質を明らかにしている。オープンなコミュニケーションチャネルを持つ文化が適切に機能していれば、このような問題がこれほどまでに大きく取り上げられることはなかっただろうとフローリー氏は言う。

 そして、経営幹部の言葉と行動は、従業員の評判とアイデンティティーに絡んでくると同氏は言う。「これは、全てのリーダーにとって良い教訓であり、理解する責任がある。特に、イーロン・マスク氏のような有名な公人になればなおさらだ。それは単なる株価以上のものだ。経営幹部による決定、行動、発言は、結果的に従業員の生活に影響を与える。秘書や清掃員に至るまでの全員が、CEOがTwitterで言っていることについての質問に答えなければならない」(フローリー氏)

 フローリー氏は「企業は従業員に対する絶対的な義務があると信じているが、現実には、経営幹部は公共の利益のために行動することが求められており、その中に従業員が含まれているかどうかはケース・バイ・ケースだ」と言う。同氏はこれを 「エグゼクティブリーダーシップの楽しい難問」と称した。

解雇された人々を監視する企業

 このような疑惑のある事件がビジネスに与える影響を評価することは重要だ、とフローリー氏は説明する。「現在SpaceXは、同社が解雇した人に関する話題をGoogleで監視している。そのため、誰も仕事ができない」。しかし、それだけではない。マスク氏のSpaceXとTeslaの競合企業も、Twitterのユーザーと同様に、これら全てを観察しているとフローリー氏は指摘する。

 世間に知られることで誤った選択をした場合、その人の職業上の遺産に重い風評被害が及ぶ可能性がある、と同氏は言う。

ブルシットなコミュニケーションを辞める

 「コミュニケーションとは、ただ何かを言うことではない。人材戦略と文化には、一般的な言葉の表面を超えた、真のコミットメントと仕事が必要だ」とフローリー氏は語る。

 BellwetherのWebサイトは「企業やコーチの“ブルシット”な話し方」を切除することを約束している。20年以上にわたって企業ビジネスに携わってきたフローリー氏は、このような不透明さは最大のフラストレーションであり、基本的なコミュニケーションモデルについて経営幹部を指導するといった仕事の動機になっていると述べている。

 「従業員からフィードバックを得ることと、従業員が話を聞いてもらっていると感じることは、全く異質であることをリーダーは認識する必要がある。これまで何回調査をしても、何も変わらなかったのだろか。人々は今、そのことに敏感だ。新しい取り組みに懐疑的なのはもちろんのこと、信じられないという理由で否定的でさえある」(フローリー氏)

従業員の公開書簡が示すサイン

 フローリー氏は、ビジネスリーダーに認めてもらうために公開書簡に頼らざるを得ないと感じている労働者は、信頼関係が崩れ、話を聞いてもらおうと必死になっている状況だと述べる。同氏はまた、イノベーション、懸念の表明、規範に疑問を投げかけることによる権威への挑戦との関係を強調した。

 「組織や個人は、この亀裂をリセットできる」とフローリー氏は言う。

 「適切で生産的な方法でコミュニケーションをとるのは従業員の責任であり、それを可能にする文化をつくるのは企業の責任だ。人々ができるだけオープンであることを望んでいる。なぜなら、発言できることは心理的安全性の基本であり、人々が自分の価値を最大限に発揮できる場所こそが、最終的にイノベーションが本当に起こる場所だからだ」(フローリー氏)

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