企業のDXケイパビリティを測る指標とは何か。日本CTO協会が定めた「DX Criteria」の中から、特に重要な5つの指標について解説する。
2022年11月16日、日本マイクロソフト主催のイベントに登壇したクレディセゾンCTO兼CIOの小野和俊氏は、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)ケイパビリティを測る上で特に重視すべき5つの指標について語った。これらの指標は、同氏が参画する一般社団法人日本CTO協会が定めた「DX Criteria」の中から抜粋されたものだ。
DX Criteriaとは、企業が「デジタル時代の超高速な仮説検証能力」を得るための具体的な習慣をリストアップしたものだ。デジタル事業を展開し、競争力をもつとされる企業37社への調査では、これらの指標の平均達成率が51.8%だったことから、同協会は達成率50%以上であればDXにおいて競争力のある状態にあるとする。小野氏はこの中から5つの指標を取り上げ、解説した。
小野氏によれば、経営層にソフトウェアエンジニア経験のある人材を配置しているかどうかが、DXケイパビリティを示す指標になるという。「ソフトウェアエンジニアの経験者が経営会議にいないと、そもそも技術を前提とした発言が会議で出なくなってしまう」と同氏は語る。
同氏はガートナーが提唱した「バイモーダル」の概念を取り上げ、既存のシステムの活用を志向する「モード1」の企業に対して、変革を志向する「モード2」の文化を取り入れるためにも、技術に理解のある人材を経営層に配置することが重要だと説いた。企業にとっては、経営に対して「なぜデジタル化するのか」というストーリーを語れる人材を育成、獲得できるかどうかが鍵になる。
事業変革のビジョンを明確にすることも重要だ。ここでもモード1/モード2の考え方が適用できる。こういったビジョンを全社に浸透させるには、既存のモード1、新しいモード2の双方の考え方を傾聴し、橋渡しをする「ガーディアン」と呼ばれる個人または組織が必要だと、小野氏は語る。ガーディアンがいないと、変革のビジョン、つまりモード2の考え方を浸透させるための人材が既存の人材とかみ合わず、その企業に定着しないということが起こり得るという。
競争領域のシステムはしっかりと内製することで、自社の競争力を高めることができる。ただし、「何でも内製化すればいい、というのは間違い」と小野氏はくぎを刺す。メールやカレンダーなど、コモディティ化している領域のシステムはSaaSを積極的に利用し、「作らない」選択をすることも必要だという。内製と外注、どちらか一方に寄らず、メリハリのある投資を心掛ける必要がある。
ローコード・ノーコードツールやiPaaSなど、SaaS間の自動連携を目的としたサービスを導入し、現場主体の効率化を図ることも重要だ。小野氏によれば「エンジニア経験者ほど自分で作ったほうが早いと思いがちだが、これは間違い」だと言う。何でもエンジニアが作るわけではなく、シチズンデベロッパー(市民開発者)が作るものも増やしていくべきだとする。シチズンデベロッパーは、既存のエンジニアのような高度な技術を学び生かすというよりは、事業部での経験に開発スキルを掛け合わせることが重要になる。
「簡単な業務の自動化にはローコード・ノーコード開発が適している一方、念入りに開発しなければ事故になりかねない部分については、エンジニアとしてのバックグラウンドを持った人材がしっかり開発する必要がある」と同氏は語る。シチズンデベロッパーの出番をしっかり目利きすることも重要だ。
優秀な人材を確保するには、従来の総合職向けのキャリアとは別に、現場のエンジニアがスペシャリストとしてキャリアを積むことができる環境を整えることも大切だ。「ジョブ型人事制度」と言うと人事制度の大改革が必要にも思えるが、そうではないと小野氏は語る。スペシャリスト向けのキャリアパスを用意さえすれば、評価の枠組みは従来のものを活用することもできるという。ここでも、むやみに新しいものを取り入れるのではなく、従来のモード1を傾聴し生かすことが要になってくる。
「デジタル人材にとっては(給料や制度の変化だけではなく)シニアの誰かが自分の価値を理解してサポートしてくれることが重要だ」と同氏は説く。1on1ミーティングなどで、メンバーがチームにどれだけ貢献しているかをシニアの口から伝えることが重要だ。
DX Criteriaは10分でできる簡易診断も提供している。自分の企業のデジタル化がどの程度進んでいるのか、客観的に測ってみるのはいかがだろうか。
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