サントリー食品インターナショナルでは、新規サービスの開発プロジェクトでNotionの活用をはじめた。その結果情報共有にかかる時間が圧倒的に減ったという。
「Notion」は、Wiki、プロジェクト管理、ドキュメント管理など多数の機能を統合する米国発のコネクテッドワークスペースだ。グローバルで3000万人以上のユーザーが利用している。2023年2月には、AI(人工知能)が文書作成や翻訳をサポートする機能「Notion AI」がリリースされて注目が集まっている。既に多くの生産性ツールを入れている大手企業も含め、組織がNotionに注目する理由は一体どこにあるのか。
サントリーグループで清涼飲料水事業を担うサントリー食品インターナショナル(以下、サントリー食品)では、「タスク管理やスケジュール管理には『Microsoft Excel』」「議事録には『Microsoft Word』や『Microsoft Outlook』」といったようにバラバラなツールを使っていたことで、情報へのアクセスに時間がかかるという課題を抱えていた。
同社では、こうした状況を見直すためにツールの見直しをはかり、サントリー初の大規模DXプロジェクトであるヘルスケアサービス「SUNTORY+(サントリープラス)」の開発プロジェクトを機に、Notionの活用をはじめプロジェクト内での「Microsoft PowerPoint」やExcelの利用率が激減したという。とはいえ、はじめてのNotion活用においてはさまざまな工夫も必要だった。
同社イノベーション開発部において新規事業立ち上げを担当している赤間康弘氏に、導入の経緯や活用方法、効果について聞いた。
赤間氏はもともと任天堂でゲーム・サービスのプランナーやディレクターとして活躍していた。その後、2017年に「社会課題の解決に直結する仕事がしたい」とサントリー食品に入社。法人向けのヘルスケアサービス「SUNTORY+」や、サービスプラットフォーム「Comado」の立ち上げなどでプロジェクトリーダーとして携わっている。
「SUNTORY+」は新規事業としての取り組みが始まった後、2019年にグッドパッチをデザインパートナーにハートレイルズをエンジニアリングパートナーに迎えてプロダクト開発をスタートさせた。そして2020年にスマホアプリ、2021年にWebサービスをローンチし、現在まで約3年間で600社以上に導入されている。
世の中にはさまざまな健康系アプリがあるが、SUNTORY+は継続率が高いことが特徴だ。「インストール1カ月後のアプリの起動率」では30種以上の競合アプリより圧倒的に高い約84%を誇る。このプロジェクトにNotionを導入したのは、グッドパッチとともにプロダクト開発に着手した2019年夏ごろだった。
「最高のチームが最高のものを作る、というのが私たちの大事にしている考え方です。最高のチームを作るために最適なプロジェクト管理ツールが必要と考えました」と赤間氏は振り返る。
同社でのデジタルサービス立ち上げプロジェクトには、社内外を含めさまざまな職種や立場のメンバーが参画する。従来、サントリー食品ではプロジェクトの情報管理手段として、「タスク管理やスケジュール管理にはExcel」「議事録にはwordやOutlook」「報告資料作成にはPowerPoint』」「各種資料保管にはネットワークドライブ」といったように、バラバラのツールやサービスを使っていた。当然、情報管理が煩雑になり「あのドキュメントはどこだっけ?」が発生する。
プロジェクトに参画するチームがそれぞれ個別に情報を管理していて、個々のメンバーがプロジェクトの全体像を把握したり、別チームの進捗状況を把握したりすることも難しい。さらに、外部のメンバーが情報にアクセスしにくい環境でもあった。
必要な時に必要な一次情報を入手できないようでは、メンバー全員が目線を合わせてプロジェクトを進めることが難しい。そこで、事業計画立案フェーズを終えプロダクト開発フェーズに入る際に、新たな情報管理ツールの導入を検討。複数のプロジェクト管理ツールや情報共有ツールを比較検討した結果、Notionの導入を決めた。
Notionを選んだのは、「オールインワンでさまざまな機能がある」「圧倒的に使いやすいUI、UX」「情報のパスがつながりやすい」という理由だった。選定当初はNotionの日本語版がリリースされる前で、英語版のみ利用できる状況だったが、それでも使いやすさを重視して採用したという。
「ツールはあくまでもインフラのようなもので、それを使うことに頭を悩ませたくはありません。直観的に操作できて、スピーディーに情報を見つけられるツールを選びたいと思っていました。Notionはシンプルに操作できて、動作も軽やかだったことが印象的でした。デジタルツールに慣れ親しんでいない営業メンバーにとっても、とっつきやすいツールだと感じました」(赤間氏)
サントリー食品の新規プロダクト開発プロジェクトには、社内の複数の部署や外部の協力会社から約100人のメンバーが参画している。これらのメンバーが一斉にNotionの利用を開始した。現在は、KPI(重要業績評価指標)や分析結果、仕様書、ブランドガイドライン、スケジュール、議事録など、ほぼ全ての情報をNotionで管理している。
「プロダクト開発チームだけでなく、マーケディングやカスタマーサクセス、営業推進、外部の協力会社なども含めたメンバーたちと、プロジェクトに関するあらゆる情報をNotionで共有しています。そのため、Notionを開くことで事業全体が見渡せる状態になっていて、とても透明性の高いプロジェクトになっています」(赤間氏)
全ての情報を共有するメリットは非常に大きい。各チームが実施する全ての会議体の議事録をNotionで管理しているので、議事録をざっと読むだけでこれまでの議論や意思決定の流れを把握できるという。
また、サントリー食品はタスク管理にもNotionを活用している。「プロダクトバックログ」(企画書リスト)というページを設け、さらにその中でタスクごとのページを作成。企画の背景や目的、スコープ、進め方、役割、体制(メンバー)、現状課題などを一覧できるようにしている。
納期があるタスクについてはWBS(作業分解構成表)形式でスケジュール管理している。ある機能アップデートタスクがある場合、その中に企画やUI/UX設計、アプリとサーバ開発、システムテストなどの業務領域ごとに複数のタスクを設定する。
赤間氏が任天堂時代に利用していたタスク管理ツールは、シンプルなUIの自社開発ツールだった。また、これまでの仕事で他社のタスク管理ツールを利用したこともあったが、機能が充実している分、誰もが使いこなせるツールではなかったという。
「それらに比べるとNotionは、プロジェクトの進め方や性質にフィットする柔軟なカスタマイズができるところが気に入っています」と赤間氏は述べる。
Notionは、一つのデータベースをさまざまなビュー(テーブル、ボード、リスト、カレンダーなど)で表示する。ビューにフィルターやタグを設定すれば、コンテンツの整理や分類も自在にできる。赤間氏はこのビュー機能やフィルター機能をフルに使って、タスク管理ページの表示をカスタマイズしているという。
タスク管理ページを開いた時には、全ての機能開発案件が一覧になっているテーブルが表れる。そのテーブルを下にスクロールすると、今取り組んでいる「スプリント」が表示される。ここでは2週間のなかで、どのタスクが進行しているのかを一覧で確認できるようにしている。
さらに、タスク一覧を開発領域(スマホアプリまたはWebサービス)別に表示させたり、担当デザイナーごとに表示させたりできるようにもした。一つのデータベースをさまざまなビューで表示させ、かつそれらを1ページにまとめて表現している。
ただし、現在のスタイルに固まるまでには試行錯誤を重ねる必要があった。グッドパッチのプロジェクトマネジャーと協力しながら何回かの大幅なリニューアルを経て、ようやくプロジェクトに合った最適な表示方法にたどり着いたという。
その際、参考にしたのが他社の事例だ。NotionのWebサイトやSNSなどで公開されている企業導入事例やテンプレート、国内外の先進的な活用方法が参考になった。
Notionを導入したことによる効果はさまざまなところで現れた。何よりも情報共有のスピードが上がったという。
サントリー食品では、従来プロジェクト進捗に関する会議の際、各担当者がPowerPointで報告資料を作り、それを代わる代わるスクリーンに投影しながら進捗状況の報告をしていた。これに対し、Notion導入後は、全ての情報をNotionに記載してそれをもとにミーティングするスタイルに変更した。資料作成にかかる時間が減り、報告もスムーズになったという。
「PowerPointで報告書を作ると、作りこんだりきれいに整えたりしようとして時間がかかってしまいます。NotionはPowerPointほど装飾ができないので、おのずと報告書の作成にかかる時間が大幅に減りました。報告に使うPowerPointに限らず、Excelやネットワークドライブなどを活用する機会も、Notion導入後は大幅に少なくなりました」(赤間氏)
タスクや仕様書、企画書、議事録、分析結果、素材データなど、全ての情報をNotionで管理しているため、各情報を連携させながら整理できるようになった。
「タスクを開いたついでに議事録を見て過去の検討経緯を確認したり、タスクが終了して機能をリリースした後の分析結果をチェックしたりと、関連する情報をひも付けることで効率が上がりました。Notionでは情報のパスがつながっているので、シームレスにさまざまな情報を閲覧できるようになりました」(赤間氏)
プロジェクトメンバー間でのビジョンの共有や一体感の醸成にもNotionが役立った。SUNTORY+のプロジェクトでは、Notionのトップに「みんなの情報共有」というページを配置している。そこには、SUNTORY+のビジョンや全メンバーの自己紹介、事業ロードマップ、プロダクトの歴史、ブランドのガイドライン、UIデザインのガイドライン、Notionの使用ルールなど、プロジェクトの全体像をWiki的にまとめている。
プロジェクトに参加したメンバーは、これらを見るだけでプロジェクトの概要を把握でき、Notionの利用ルールも速やかに理解できる。「新規参画メンバーへのオリエンテーションにかかる時間もかなり削減できた」と赤間氏は話す。
「Notionでプロジェクトに関する全ての情報を管理して、外部の協力会社を含めたメンバーが一次情報にアクセスできる状況を作ったことで、チームとしての一体感が醸成され、ONE TEAMで一緒にユーザーを見て肩を組んでプロジェクトを推進できるようになりました。Notionを使うことでプロジェクト管理や情報共有が楽になった分、ユーザー体験を向上させるような企画の立案に集中できるようになったと実感しています」(赤間氏)
赤間氏は今後、サントリー内の他のプロジェクトにもNotionを適用したいと語る。2023年2月にリリースされた「Notion AI」についてはまだ活用していないが、議事録の要約機能に役立ちそうと期待を寄せている。
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