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「ChatGPT」はERPをどう変革するのか 特に進化する領域を専門家が分析

ChatGPTなどの生成AIにより、ERPの多くの業務が自動化される可能性がある。AIがERPの領域外にあるデータを活用することで、ERPは生まれ変わるという。

» 2023年09月15日 07時00分 公開
[David EssexTechTarget]

 2022年11月に登場した生成AI(人工知能)「ChatGPT」によるパラダイムシフトが、ERPベンダーと顧客に衝撃を与え、ERPにおけるAIの役割について議論を呼んでいる。

 AIの専門家は、ERPモジュールでAIによるROI(投資利益率)の向上がいち早く見込める分野を語った。機能の詳細とその理由は。

多くのベンダーがERPの生成AI活用に動き出す

 ベンダーはこれまで、AI開発プラットフォームやML(機械学習)チャットbotの他、請求書の照合や履歴書の確認といった定型業務に特化したアプリを提供してきた。しかし、人間のようにコミュニケーションできるAIが突然現れたことで全てが変わった。

 この新しいAIは、まるでERPユーザーの意図を理解しているかのように動作するため、成熟した機械学習技術との併用によって、より幅広く複雑な業務をこなせるようになるだろう。専門家は、生成AIによってERPのユーザーインタフェース(UI)が大きく変化し、従来に比べて多くの業務が自動化される可能性があると述べた。

 だがこの変革は、「ERPシステムにおけるAIの最適な利用方法は何か」「優れたAIアプリやツールはどこで見つかるのか」「開発は誰が担当すべきか」といった新たな疑問を生み出した。その答えを提供するソリューションの提供に注力しているのが、「ビッグ4」と呼ばれる世界4大会計事務所(Deloitte Touche Tohmatsu、Ernst & Young、KPMG、PwC)のプロフェッショナルサービス部門だ。

 PwCで20年の豊富な経験を持つマット・ホッブス氏は、同社のMicrosoftプラクティスリーダーとして、Microsoftの技術を使ったアプリケーションの構築やデジタルトランスフォーメーション(DX)でクライアントを支援してきた。最近は、OpenAIのマルチモーダル大規模言語モデル(LLM)「GPT-4」やMicrosoftの生成AIサービス「Azure OpenAI Service」を利用した製品も開発している。

 PwCは2023年4月、今後3年間で10億ドル(約1450億円)を投資して、自社のAI能力を強化することを明らかにした。これには、6万5000人の従業員のスキルアップを支援したり、税務や監査、コンサルティングサービス用の社内プラットフォームを生成AIでモダナイズしたりする取り組みが含まれる。

ERPの領域を飛び出すAI

 ホッブス氏は「Podcast」で、「ERPモジュールでAIによるROIの向上がいち早く見込めるのは、サプライチェーン、在庫、予知保全、および財務の分野」と述べた。この4分野に共通しているのは、クラウドに保存したデータを利用する度合いが高い業務ということだ。「AIはERPの領域外にあるデータを活用する」と、ホッブス氏は言う。

 近いうちに、生成AIの自然言語インタフェースから「無限にデータを利用」できる機能が、さまざまなERPアプリケーションやプロプライエタリアプリケーションで実装されるとホッブス氏は予想している。

 「現在うまくいっているように見える事例のほとんどは、コパイロット(副操縦士)というコンセプトを全てのソフトウェアアプリケーション開発に取り入れている。つまり、ERPという領域で、次善の策を考え出したり、伝えたり、提案したりする活動を支援しているのだ」(ホッブス氏)

 いずれは、あらゆる領域でコパイロットを利用できるようになり、その結果全てのモジュールで継続的な改善が促され、UIに進化がもたらされるとホッブス氏は予想している。コパイロットによってERPユーザーは個別の画面や機能に何度もログインすることなく、複数のモジュールにまたがって業務に取り組めるようになるという。

 また、ERP全体でコパイロットを利用するだけでなく、プロセス全体を見直したり、ERPをブローカーやトランザクションのレイヤーとしてのみ活用したりするなど、AIを補完的に利用するトレンドも見られる。ユーザーが対話しながら利用できるシステムの構築だけがAIの使い道ではないのだ。

 「どちらの利用モデルが勝ち残るのか判断するのは時期尚早だが、現時点では両方のケースが考えられる」(ホッブス氏)

Microsoftの2つのAIモデル

 ホッブス氏は、Microsoftが提供している2つの主要製品について、先の2つの「メンタルモデル」がどのように当てはまるのかを説明した。

 同氏によれば、Azure OpenAI Serviceはビジネスプロセス全体の再構築を可能にする「エンタープライズ規模の大規模な思考ツール」を目指しているのに対し、「Dynamics 365 Copilot」はGPT-4でソフトウェア開発を自動化してアプリケーションを拡充するものだという。

 「生成AIによって雇用が奪われるのではないか」「本格的な再教育を受けなければより価値の高い仕事に就けなくなるのではないか」といった懸念もあるが、ホッブス氏の見方は楽観的だ。「労働者はかなりの時間をビジョンや創造性とは無縁な文書作成などの仕事に費やしており、そうした仕事を生成AIに引き渡してもリスクはほとんどない」と同氏は言う。

 「自分が何を成し遂げようとしているのか理解しているのは自分自身だ。そのためにAIなどの役立つツールを使おうが、今までのように自力で取り組もうが、最終的な成果物の所有者は自分だ」とホッブス氏は述べ、MicrosoftのCEO(最高経営責任者)であるサティア・ナデラ氏が、生成AIの役割を“たたき台の提供”と例えたことに言及した。

 ただし、生成AIの今後の進化については、大きな問題があることをホッブス氏は認めている。とりわけ問題になるのは、AIによって制作されたコンテンツが“ごく当たり前のもの”になったときだ。「そのようなコンテンツのうち、AIによって生成されたまま改変されていない部分はどれくらいあり、人間の手や創造性によってチェックされ、改良を加えられた部分はどれくらいあるのか」という疑問が生じる。

 それでも黎明期の今は、あまり面白みのない仕事をAIが引き受けてくれることを歓迎すべきだと、ホッブス氏は語った。Podcastでは、他にも以下の話題が取り上げられた。

  • ソフトウェア開発ライフサイクルにおける生成AIの役割
  • PwCがAIサービスプロバイダーになることの意味
  • AIをERPに組み込むさまざまなルート

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